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第二十一話 その童子、夢見にて神たるものと話すのこと。


 それからどれだけ経っただろう。


 体と時間の感覚を失った俺は、光とも闇ともつかぬただぼんやりとした空間に漂っていた。


 イタチ親子を殺したのは、つい一分前のような気もするし、もう十年も前のことの様な気もする。


 ただ、何となくふわふわとした浮遊感の中で俺の意識だけが続ている感覚だけはあり、その感覚の中に在る記憶と精神性だけが、辛うじて今の俺をこの空間に繋いでいた。


 ――ふふ。まさかあそこで勝てるとは思わなかったよ。まさか、まさかだ。こんな番狂わせが起こるだなんてね。君というのは、一体全体、本当に何者なんだい?


 俺の頭の中に直接話しかけるとはね。これがいわゆる神の声という奴か。というか、死んでも聞いたことが無いのに、こんな状況で聞けるとはね。

 それで?一体、何を売れば俺は生き返れるんだよ?できればただで生き返らせてくれ。ついでに何かチートな能力。……そうだな、魔力無限大とか、超絶な無敵な体とか、あとはあれだ。女は全員、俺を一目見ただけで惚れていく。とかでもいい。とにかく何かしら才能なり特殊能力なり、チートな力を俺にくれよ。


 ――おや?随分と厚かましいんだね。どうだろう。その子供の形でそこまで戦えるのは既に十分に才能に満ち溢れた証拠だと思うのだけれど?


 うるせえな。魔術も使えない、法術も使えない、その挙句にようやく手に入れた『闘気』は全力で使ったら今みたいに死ぬじゃねえか。これのどこがチートだバカ野郎。ノーリスクでハイリターン。努力なしで俺の願いをなんでもかんでもかなえてくれる素敵なポケットの様なチート能力をよこせって言うもんだ。

 というか、神様ってのはあれだろ?人を殺して捧げたら、その代わりに願いをかなえてくれるもんじゃねえのかよ?つまりは、死んだらその後願いをかなえてくれるっていうわけだろう?


 ――酷いね。それだと、僕はまるで禍津神じゃないか。そもそも、君は別に死んでも無いのに、なんで僕はわざわざ君が死んだ後の御褒美を用意してあげなきゃいけないんだい?大体、君みたいな生意気な子の魂を貰ったところで、何の役に立つというんだい?まあ、くれるというなら貰うけどもね。


 何だよ、その俺がまるで役立たずであるかのような言い分は。まあ、確かに魔術も法術も使えないが、少なくとも魔獣を二匹飼い慣らす程度の事は出来るんだぞ?というか、俺にだって神を選ぶ権利位あらあな。悪いが美人かどうかも分からないのにそう簡単に魂はやれないな。超絶絶対巨乳美女なら、望んで差し出すんだがね。


 ――随分と遠慮のない物言い何だね。一応神様相手に不美人扱いであるかのような言い方だ。まあ、君に美人と褒められたところで、大した徳にはなりはしないからどうでもいいのだけれど。というか、別に君まだ死んだわけじゃないよ?確かに体は少しを息を止めているようだけど、もう少ししたら息を吹き返すだろうね。


 なんだそりゃ。息もしていないのに、死んだわけじゃないって。禅問答か何か?悪いが俺は禅問答にも哲学にも興味が無いんだよ。チートを貰えないなら、せめてキチンと分かりやすく説明してくんないかね?


 ――うーん。説明するのが難しいな。僕達の言葉で言えば単純に『荒魂あらみたま』が目覚めただけなんだけど、君たちの言葉で言い表すの難しいな。強いて言えば、君が意識を失う前に、一時的に『闘気』を使いこなした。というのが一番近いのかな?


 筋が通っているように見えて通っていない説明だな。俺が『闘気』を使いこなしたのが本当なのだとして、それだと俺が生きている理由にならないな。俺は『闘気』を使いこなしたから死んだじゃないのか?


 ――だから、そこの説明が難しいんだ。君の質問の答えは分っても、それを明確に言葉にする術が無いんだ。そうだな、君は火を起こしたとして、それが何故熱いのかの理由を答えることができるのかい?それと同じだよ。僕には君が何故死んで、生きているのかの答えは分る。でもその答えの詳しい説明はできない。

 ……これで納得は出来ないかな?


 ……なるほどな。色々と胡散臭いところはあるが、一応は筋の通っている説明ではある。とりあえずはその説明で納得しといてやろうか。気になるっちゃ気になるところだが、今此処でするべき話でもねえしな。


 ――君の力になれなくてごめんね。けれどもそうだね。本当は君にはこんなことをするつもりは無かったし、元々の僕の目的は君では無かったのだけど。でも、少しばかり気が変わったよ。これから君に二つの選択肢を上げましょう。


 オイオイ。何だそのあからさまな話題のすり替えは。自分の分からないことを聞かれたからって、幾ら何でも大人げない説明の切り上げ方だな。


 ――うるさいなー。とにかく僕の話しを最後まで聞きなよ。一つ目は、このままここで人としての生を終え、僕と共に来ること。


 これまた随分と直球だな。というか、俺は今のところはまだ死んだわけじゃないんだろう。それでどうやってお前について行くんだ?


 ――だから、僕が君を死なせるの。その気になれば、幾らでも方法はあるよ。君に直接手を下すことはできないけれども、例えば君が息を吹き返せないように暫くこの場所に君をとどめておくとか、あるいは武仁山に住む魔獣のいずれかを眠っている君の体の元にけしかけるとか。そうすれば、君は晴れて体を失い、僕達神々の仲間入りを果たすという訳だ。


 ……ふむふむ。そうだな。色々と言いたいことはあるが、取り合えず二つ目を聞こうか。


 ――二つ目は、このまま君の力で君の息を吹き返らせる事。そうすれば、君はこのまま再び人としての生を手に入れるだろう。但しそれは、君にとっては苦難の連続であり、同時に世界にとっては、絶望の始まりでもある。


 また意味の分からないことを言うもんだな。俺の力で俺の身体の息を吹き返すか。

 というか、世界を絶望に落とすとか、俺は魔王か何か?それって実質俺を殺そうとしてねえか?


 ――そこが難しいところなんだよ。青柳の大蛇丸と、炎髪鬼の紅葉の子よ。今はまだ名も無き、いと強き龍と、いにしえの地の鬼の子よ。


 冗談半分の俺の言葉を聞いた瞬間、俺と会話をしていたその存在が、不意に神々しさを増した。

 正直、見えているといえるのかもどうかも分からないが、ただ感覚として、俺と会話をするその存在が、今までの混濁した部分の無い澄みきった浮世離れしただけの話し声だったのに対して、その声はまるで幽玄で森厳な力を持った、恐怖と尊崇を兼ね合わせた畏怖の念を抱かせる声だった。


 ――息を吹き返した貴方は、世界で最も強く成るでしょう。貴方たちが『闘気』と呼び、僕たちが『荒魂あらみたま』と呼ぶ力の使い方を覚えた貴方は、この常世列島で最強の、ううん。恐らくは、この世界の全ての存在に置いて、最強の存在となる。そしてその足元には無数の屍を築き上げることになるだろう。


 その声がそう言った瞬間、俺の頭の中にはある一つのイメージが流れ出した。




 

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