↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/41

第十八話 そして、御山の大将に俺はなった。

 

 こうして、俺が『闘気』の扱いに慣れ、木こりと狩人の二足の草鞋を履きながら暮らしているそんな或る日の事だった。


 俺の人生における最初の転換点となる出来事が起こったのは。

 

 その日、五歳の誕生日を迎えた俺だったが、それまでの人生と変わらずに、深い森と山の中で今日も今日とて狩りに勤しむ日々を送っていた。


 まあ、仮にも五歳の誕生日。いつもよりも贅沢はしたいなと思いつつも、いつも通りに、ワン太とニャン太と一緒に狩りをしている最中、不意に何かが争い合う小さな気配を感じて、俺は二匹と一緒に身を隠した。



 それは一匹の小さな竜だった。



 真っ白な鱗に体を包まれ、俺の肘から指先までしか無いようなその小さな竜は、東洋の竜の様に蛇に似た形をしているが、俺の知る竜と決定的に違うのは、その体に鷲を思わせるような鳥に似た翼を生やしていることだろう。

 その小さな竜が、二匹の獣型の魔獣に追われ、逃げ惑っている姿が隠れている俺達の目に飛び込んできた。

 正確には、小さな竜を追っているのはおそらくは子供のイタチで、そのイタチの様子を見張る様に巨大なイタチが仔イタチと小竜の様子を伺っている。

 基の世界でも同じかは知らんが、金色がかった茶色の毛皮が特徴的な細身の魔獣は、この世界ではイタチと総称される魔獣に違いない。

 

 どうも狩りの特訓をしているのだろうか。

 仔イタチは決して高くは飛べない白い小竜を相手にして、小さな炎の玉をぶつけており、狙いが定まらないのか、時おり小竜の身体や翼のすれすれの所を炎魔法で攻撃しており、その小さな翼竜は魔法が体を掠める度に、小さく鳴きながら空を飛んでいる。


 最初は力不足から炎の玉は弱い物しか放てないのかと思ったが、どうもそうではないらしい。


 この仔イタチ、小さな竜からの反撃に対しては割と適格に魔法の攻撃を当てて迎撃し、反撃を防ぐたびに確実に炎魔法を当てている。

 しかも、当てる時の魔法攻撃は今までと違って本気の攻撃力を籠めているのか、その時の魔法が当たった時の翼竜の泣き声は、炎を掠めた時よりも悲痛だった。

 そうして、苦痛から飛行速度が落ちた翼竜に仔イタチはさらに炎魔法をぶつけ、嬲る様に翼竜を追い詰めていく。


 これは恐らく、単純に遊んでやがるな。


 正直な話、こんな合理性の低い狩りなんて、普通はどんな魔物もしない。

 魔術というのは、魔力を使う行為であり、魔力を使うと言う事は体力を消費することだ。

 自然界の中で無駄に体力を消費することは死につながる行為であり、狩りの様に命を懸けた場所では確実に獲物を狩ることを重視し、強力な魔法の一発で獲物を仕留める。

 その為、森に棲む魔獣はそうポンポンと魔法を連発はしないし、出来ない。

 だが、それを敢えてするということは、その魔獣が相当に慌てているか、それとも相手の反応を見て遊んでいるかのどちらかである。


 今回は明らかに後者だ。

 まあ、やっている事は要は子供が猫をイジメたり、蟻の巣に水を懸けて潰すようなことなので、多少気分が悪くても目くじらを立てる様なことじゃない。

 つっても、俺相手にやるんだったら、命を懸けてぶち殺すけどな。


 まあ、それを抜きにしても、こういう調子に乗った魔獣の子供は狩り殺すんだけどな。


 何しろ、獲物を甚振って面白がっている魔獣の子供というのは、ただでさえ少ない体力と魔力を遊びに使っている為、下手に弱った成体の魔獣よりも狩りやすい。

 その上、親が見守っているという安心感と、自分が魔獣を狩っているという慢心から外敵に対する注意が無く、隙だらけだ。

 しかも、肉であれ、毛皮であれ、子供の方が成体よりも上質だ。狩られている獲物の方は、痛めつけられている所為で商品価値が落ちるので見逃すが、弱い者いじめをする魔獣の子供というのは、狩り殺すには丁度良い獲物なのだ。


 特に、イタチというのは良い。

 イタチの魔獣というのは、肉はまずいが、毛皮は良質だからかなり高い値段で売れる。

 春から夏にかけての時期に獲れた毛皮は、加工に長い時間を懸けて気温の低くなった時期により高い品質で売ることができる為、重宝される。

 特に子供のイタチは柔らかく、質のいい毛皮が取れることから成体よりも良い値が付くことが多い。

 どうやら、誕生日のお祝いには十分な獲物が俺の罠の中にかかったらしい。


 幸いにも、あの二匹のイタチは、俺達の様子には気づいていないようで、仔イタチは翼竜をイジメるのに夢中で、親イタチは多少つまらなさそうに仔イタチの様子を眺めている。

 悪いがあの仔竜にはこのままあの魔獣の玩具になって気を引いてもらおう。

 その間に、俺たちは親イタチを仔イタチから引き離す。





 ☆★☆★☆★☆★






 まずは、あの魔獣に気づかれないように二手に分かれる。

 獣として匂いの強いワン太とにゃん太は、仔イタチの監視を兼ねて風下に回すとその場にある材料を使ってちょっとしたカカシを作り、仔イタチから離れた場所にそれを設置する。


 その後、一度距離をとりながら回り道をして、親イタチに近づきわざと音を立てて注意を惹きつけると、カカシのある場所までゆっくりと近づくことで、注意を惹きつける。その後、俺は愛用している蓑笠や毛皮などをカカシに括りつけて匂いを移すと、俺は少しでも匂いを消せるように全身に泥を塗ってその場を少しずつ離れる。


 基本的に肉食の魔獣は格下の匂いを嗅いだ時には追い払い、格上の魔獣を見つけた時には逃げ出すものだ。

 その為、実力的に各下になるであろう俺は、まず親イタチの近くに俺の匂いを漂わせることで俺の方に近づける。

 基本的に、魔獣は未熟な子供を置いて完全に自分の眼にとまらない所にまで逃げること等ありえない。その為、子供と親を引き離すのも限界のラインが存在している。それは個々の魔獣で個体差はある物の、幾つもの魔獣と戦ううちに、ある程度の見当をつけていくことができるようになった。

 目安としては、物陰に隠れるとギリギリ見えなくなるくらい。大体、森の中では目測で十五、六メートルくらいなら、親と子供は離れてくれる。それ以上は流石に子守中の魔獣は引き離されることは無い。

 こうして、親イタチと仔イタチが絶妙な感覚を開けて離れたことを遠くから見計らって、俺はゆっくりと親イタチから距離を離すと、ワン太とニャン太の真逆の方向に位置取り、そのまま一気に挟み撃ちにする。


 勝負は一瞬で決まった。


「ごおおららああああああああああ!!」


 出せる限りの大声を出して、木刀を手にして襲い掛かる俺の姿に、一瞬身を竦ませた仔イタチは咄嗟にワン太とニャン太のいる方に向かって走り出し、そこから躍り出た二匹の姿に完全にパニックになったイタチは俺を振り返って炎魔法を飛ばそうとするが、その瞬間には俺は既に仔イタチに追いついており、振りかぶった木刀が仔イタチの頭に炸裂した。


「よっしゃあ、明日は焼肉だぜええええ!」


 ごりゅん、と、手元で肉と骨を同時に潰した時に特有の、あの難とも言えない独特の手ごたえと同時に叫んだ俺の声に反応してワン太とニャン太が集合する。

 俺は一度、仔イタチの頭から流れ出た血を軽く体にこすりつけると、そのままワン太の体に仔イタチの死体を括りつけると、すぐさまその場から逃した。


 本当なら、俺もこのままワン太の背中に乗ってこの場をさっくりと後にしたいが、俺は一人だけ残ると、木刀を構えてこれから来るであろう親イタチを待つ。


 どうも、この世界のイタチというのは良くも悪くも粘着質で、狡猾だ。

 一度目を付けた獲物には絶対に狩り殺すまで執着するし、その為には他の魔獣を利用した罠を張ったり、罠に導くための作戦も講じる。死んだふりや逃げたふりもするし、人の獲物の横取りなどは日常茶飯事だ。

 そして一度口にした餌は何が何でも絶対に食べきるまで放さない。

 その執着は、自分の番(つがい)や子供にも対しても然りだ。

 つまり、情が深く、仲間意識が強い。群れをつくるタイプの魔獣では無いのだが、その分、仲間意識の強さは一級品で、仲間を傷つけた者には余程の圧倒的な力の差を持つ相手でもない限り諦めることなく、執念深く復讐する。


 だから、イタチの子供の狩りは難しく、イタチの子供を狩るときには、そもそも親イタチに気付かれる事なく素早く狩るか、或いは逆に親イタチ共々殺すしかない。


 そして俺は、残念ながら前者の方法はとれない。


 なので、この親イタチも此処でついでに殺さねばならないという訳だ。


「さて、と。二回戦目と行こうじゃないか」


 俺の言葉と共に、親イタチが狂ったような速度で目の前に現れる。


 我が子の血の匂いと、武器を構える俺の姿を目の当たりにして、一瞬で何が起こったのか理解したのだろう。

 怒りと憎しみで牙を剥き出しにして、今までの余裕と嗜虐的な態度が籠った眼差しが狂気で歪み、俺への敵意と殺意が一瞬で辺りに渦を巻いた。


 俺はそんな親イタチを前にして、舌なめずりをして笑う。


 悪いな、イタチ君。お前等二匹とも、親子そろって俺には金の塊にしか見えねえんだわ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。