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追憶の天使  作者: 小河 太郎
【一章】『みゆり≒天使』
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08.「喪失へ向かう記憶—其の壱」


二年E組にて、「心優莉お姉ちゃんを見つけ出そう作戦!」だなんていよいよ幼稚なネーミングを絆愛が命名した。作戦会議が誰もいなくなった俺のクラスで行われることになった。


◆◇◇


「……で、作戦とは。」


「あの、その、えぇとですね……」


作戦会議が始まってかれこれ三十分が過ぎようとしていた。


「全く手かがりもないのに作戦も何もないですよね……」


「ようやく気づいたか、チビ助」


俺ほどではないが、普通に心優莉よりかは頭の良い絆愛だから少し期待してはいたものの、案の定だ。

どうやら勉強ができるのと頭が良いのとでは全く別問題だと言うことが、改めてわかった。


「こうなったら先輩だけが頼りなんですからね! 好翔先輩だけが心優莉お姉ちゃんのことを覚えているんですから!」


「あ、あぁそうだな!」


と、言っても心優莉を見つけ出す鍵なんてそれこそなんにもない。それに、死神の話が本当ならば、アイツはもうこの世にいない。 死んだ人間をいくら探したって無駄だ。


心優莉のあの笑顔をもう一度見るためには俺たちは一体どうしたら。


———?


「……⁈ あの、笑顔?」


「先輩?何か思いついたんですか⁈」


一瞬、心優莉の笑顔を思いだす時に,“何か”が記憶の邪魔をした。心優莉の記憶を辿ろうとすればするほど、“それ”はさらに邪魔をする。 心優莉の古い記憶ほど、より強く。


いや……、これは……。


「記憶が、なくなっていこうとしているのか……?」


「どうしたんですか……?」


けど、だとしたらどうしてだ? 俺は(死神だったから)記憶がなくならなかったんじゃねぇのかよ?


……そうか


俺は半分は、それなりに人間だったんだ。


死神が父親だったことを知った衝撃もあってか自分が人間であることすら、今は忘れていた。


人より長く、心優莉との記憶を所有していただけで、オリジナルの死神と違って徐々に記憶が薄れて、なくなっていくのか……。 人間部分がこんな副作用を。


もっとも自分に死神の血だか、なんだかが流れていた所で、それは全く望んだことではない。だが、それでも今の俺にとってはその忌々しい血こそが唯一、心優莉を見つける手がかりだった。


「さっき話したように、死神の話が本当なら心優莉はもう恐らく、死んじまっている。そんでもってどうやら俺の記憶にも消費期限があるようだ。」


俺は先程までとは打って変わり、深刻な趣きでそう云った。


「消費期限……、ですか?」


「少しずつだが、心優莉の記憶だけが薄れていくのが感じられるんだ。少しばかり急がねぇといけねぇかもしれねぇな」


「そ、そんな」と返す、絆愛は、まるで自分のことのように心配そうな顔をしてくれた。


まだ、完全に忘れている記憶はないとは言え、長く見積もっても三日もあれば恐らく完全に心優莉の記憶は消えてなくなるのだろうか。

——ただ、だからと言って俺たちに一体何が出来るのか。 ——唯一考えつく方法と言えば。


「絆愛。嫌なら断ってくれても構わねぇ。作戦と言うか、心優莉にたどり着くための案が一つだけ思い付いたんだが」


たどり着ける()()しれない案。


俺は、提案した。


「本当ですか、先輩!」先程までのシリアスな表情が和らぎ、絆愛の声に少しばかり抑揚が付く。


「あぁ、それと言うのも、もう一度だけでも死神と接触する以外に方法はねぇと思うんだ。」


突飛な案だった。


「な、なるほどです……」と返事をした絆愛は、再び声を落ちつけ、分かりやすく戸惑っているようだった。無理もないだろう、(突然死神と接触するだなんて)馬鹿な話だ。


「確証はこれっぽっちもねぇが、死神が何か知ってるのは確実だ。あいつを倒してでも何か手がかりを、解決法を吐かせる。」


「……倒す。ですか……」


『倒す』だなんて言っても正直、それでこの件が解決するだなんて思ってはいない。敵討ちにすらなったとしても、心優莉を取り戻すことには繋がらない。

重要なのは寧ろ、何にしろ、死神ともう一度『接触』してみないばかりには、コトが始まらない。その考えに至った。


「早くても遅くても明日。事は急げだ。俺の副作用が効き始めねぇうちにこの件にカタをつけてぇんだ。俺一人でも全然構わねぇ」


もしかしたら、徐々に、ではなく一瞬で記憶がなくなるかもしれない。そんな不安を残しつつも、精神的にも体力的にも、万全にしておきたかった。


「忘れたんですか? 私は先輩の力になるって言ったじゃないですか。 だから、最後まで先輩に付き合いますよ!」


「……絆愛」


言葉とは裏腹にその表情は少しばかり不安げなものだった。


そんな俺の内心を察するように絆愛は、すぐに言葉を紡ぎ

「ぜ、全然無理なんてしてないですからね……! 先輩の右腕になりますから!」誰が見ても無理しかしていないような感じで言われてしまった。


俺は、そんな不安心を少しでも、取り除いてあげようかと「へっ、お前なんか、右腕どころか小指さえ務まらねぇよ」と冗談交じりに返す。


人の好意を変な冗談で返す、これも心優莉や絆愛にしか出来ないことだ。


「そういう所さえ無ければ申し分ない先輩だと思うんですけど……!」


お前のためを思って、敢えてこう言ったんだ。まぁ、狙い通り表情が少し和らいでくれたみたいで何よりだった。


明日、絶対に全てを終わらせる。それが一番の理想だ。心優莉を取り戻す。


◇◆◇


「あれ?好翔じゃんか!何してんだよ?」


教室の後ろ扉から聞こえた声の主は望夢だった。今朝の一件から一度も話ていなかった。

完全に俺の早とちりで、悪いことをしてしまった。


「別になんでもねぇよ。あ、あとよ、今日は悪かったな。一方的に冷てぇ態度なんかいきなりとってよ……」


「気にしてねぇよ!けど、びっくりしたぜ?急におかしくなっちまいやがってよ。大丈夫なのか?」


望夢は、気のいいやつ。いや、本当に軽い奴なんだな、と改めて実感した。


「そ、そうか。とりあえずはなんともねぇよ、少しばかりどうかしちまってただけさ。」


望夢が「なら良かったけどよ」と言うと絆愛の居る方に目をやる


「え、えぇと……!」

絆愛は、見つめられて目線の先に困るように、分かりやすく戸惑った。


「ところでよしとぉ、このロリなんだ?」


望夢は言葉を選ばない。


「ん?あぁ、心優莉の……、知り合いの妹だ。ここの一年。」


俺は取り敢えず、突っ込むことなく会話を成り立たせる。


「ふーん、一年生かぁ、にしてもチビだなぁ。まだ、体付きも普通に子供っぽいし。毛先くるくるだな。」


絆愛が気にしていることをよくも、ズバズバ言うものだ。


「せ、先輩。この失礼極まりない、如何にも不良って感じのこの方は何なんですか……?」


俺に耳打ちをするように絆愛が半べそかきそうに、悔しそうに、言った。


俺は、軽く「黒川 望夢(くろかわ のぞむ)ってんだ。俺に付きまとうめんどくせぇ奴。まぁ、不良だな。しかもこの学校で一番のらしい。」と他己紹介をしてやった。


「好翔とはどんな関係なんだ? もしや、彼氏彼女の関係だったり⁈ 好翔ってまさかのロリコンだったんか!」


「ちげぇよ、ボケ。それにまだ合法だかんな。まぁ普通に、こいつ小・中学生で通じるだろうがな。」


絆愛が俺にムスッと睨みを効かせたが、望夢に対しての屈辱が優ったのだろう。直ぐに望夢に目線を移した。


「私、好翔先輩以外の不良さんは怖いので元から苦手ですけど、そんなの抜きでこの人、好きになれないかもです。」


「安心しろ。俺も大っ嫌いだから。」


人間の血が副作用として、俺の中の心優莉の記憶を徐々に無きものにしていく。


そんなタイムリミットの中で、こんな邪魔が入りつつも、明日に備えて死神接触後の策を練るのだった。


窓の外を横目に見ると、すでに日は落ち始めていた。


◇◇◆


この日を境に日常が終わり始めた——



俺の記憶もまた、終わり始める——



そして反対に、始まるものがある——



幼馴染を取り戻すために俺は、死神と戦わなくてはならないのだ———



心優莉は、今、どこにいるんだ。





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