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追憶の天使  作者: 小河 太郎
【一章】『みゆり≒天使』
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07.「重ねる面影」


「好翔先輩、こんな所にいたんですか」

その声の主は、相変わらず心配そうに俺を見つめていた。


絆愛? (今度は本物なんだろうか。)


「あぁ、野暮用でな。んなことよりお前こそなんでこんな人目のつかねぇとこにいるんだよ?」


「それはお互い様ですよ。私はその、好翔先輩を探しに来たんですよ?」


俺を?


「なんでだよ?」


「先輩の様子がおかしかったから、心配になって……。いきなり授業中に入ってきたと思ったらお姉ちゃんがどうとか言って、またどこか行っちゃうんですもの」


「そういや、んなことしたな……。 余計な心配かけて悪かったな」


この小一時間で色々な情報量を頭に詰め込まれすぎてもう、今朝の出来事なんかは遠い記憶のようだった。


「何かあるんでしたら私で良ければ、力になってあげますよ……?」


正直、今すぐ誰かに縋り付きたい気でいっぱいだったが、絆愛を危険な目に合わすわけにはいかない。


「いや、大丈夫だ。俺は、なんともねぇよ!さーて四時限目なんだったかなー」


空元気もいい所だった。


「嘘ですよね。」


意表を突かれた。図星だ。


「先輩、一人で何か抱え込んでる時はいつもそうです。らしくないテンションで見せて……」


返す言葉もない。


「先輩にも色々な事情があるのは、知ってます。家のこと、両親のこと、人付き合いのこと。私だってお姉ちゃんみたく、好翔先輩の力になってあげたいんです……!」


今なんて……⁈


「絆愛、お前、今お姉ちゃんって言ったか……?」


俺が、そう聞くと絆愛は、はっとして途端に動揺した。


「……え? アレ? お姉ちゃんて……なんで?」


無意識に心優莉の存在を肯定してる……?

まだ完全に心優莉が記憶から消えてないということなのか。しかし、俺にはそこまで考察することは出来なかった。


「その『お姉ちゃん』について話がある。力になってくれんだよな……?」


◆◇


俺は、絆愛に今朝からの一件の全てを説明した。心優莉が消え、死神が現れ、俺はその子供で、心優莉は天使であったと。


「ま、簡単に信じらんねぇだろ? なんて壮大な設定持ちの中二病患者かよって感じだろ?」


「いえ、先輩はこんな変な冗談つかない人だって知ってますから」


やっぱり性格は真逆でも、心優莉の妹なんだな。

ただ、心優莉が天使だったなんて事実を云ったところで、絆愛には、その心優莉の存在に心当たりすらないのだから、理解に苦しむのはハナから承知の上だ。


「もし本当にお姉ちゃんが居たとするなら、思い出そうとするとモヤみたいなのがかかってしまう、記憶の遥か片隅にちょっぴり感じられる温かい温もり。それがお姉ちゃんなのかもしれないです」


温もり……。


絆愛の言い分を聞く限りでは、心優莉の存在記録は確かに存在していない。だがしかし、その心優莉がその場にいた記憶、間接的に関係している記憶には微かにだが、引っかかる〝何か〟があるようで、それがおそらく、心優莉と言う概念なのではないかと、絆愛はそう言った。そして、絆愛は不意に、こう乗りだした。


「先輩!私達のお姉ちゃんを取り返しましょう!」


明日は待ちに待った遠足だーみたいなノリで絆愛は、俺にそんなことを提示した。


「やけに前向きだな……。本当に絆愛か……? また死神だったりしねぇだろうな……。」


「失礼ですよ……!私は、先輩が何だかんだ悩んでて辛そうだったので少しでも力になれればと……!」


そう言うと、絆愛は俺の手を両の手で握った。


「手、温かいですか……? 私は私です。好翔先輩の助けになりたいんです。」


温かい。死神の手を氷の塊とするならば、絆愛の手は、そんな氷すら溶かしてしまうような温かい日輪のようだった。


そんな目の前にいる絆愛を、どうしても心優莉と重ね合わせてしまう。手の温もり。俺に手を差し出してくれている。(だが、絆愛は絆愛だ。)他の誰でもないんだ。しっかりこいつのことを()()として見てやらねぇと。


「……冷てぇ。まるで雪だるまにでも手を握られたようだな。」


「……な⁈」

俺のその台詞を聞くや、拍子抜けしたように絆愛は、顎を落とした。


「へへ、冗談だよ。ったく、妹まで世話焼きだったとはなぁ。ただの内気な心優莉のちっさい版かと思ってたがな」


言ってしまうと、絆愛とここまで親密に話したことは今まであまりなかった。それなりには、会話する間柄ではあったが、曲がりなりにも幼馴染の妹という扱いでもあり、(後輩と言う括りでもあった訳だし)故に彼女が、こんなにも人のために尽くせるような子だったとは、正直あまり考えたことはなかった。

(それも基本的にこの場合、心優莉がこの立場になるからだ。)

だから、こんな絆愛を俺は知らなかったのかもしれない。


「内気は否定できないですが、ちっさい版なんて台詞は聞き流せないですよ……!」


—–—でも、と、絆愛は一言。


「好翔先輩の笑ってる顔が見れて良かったです」


俺の失くした笑顔だった。

ほんの少しばかり遠慮がちな口角だったけど。俺にとっては、探していた笑顔そのものだった。


「お前もそんな風に満面の笑み的な顔できるんだな」


「わ、私とて人間ですからね……!笑うことくらいしますよ!なんだか恥ずかしくなってきたじゃないですか……」


人間……か。


「早速、今日の放課後にでも作戦会議です!」


「作戦会議?」


「ガキかよ。」俺がそう言った途端にずっと握られたままだったその手に無言の圧で、爪をたてられた。



「ところで好翔先輩、顎、お怪我してますけれど?」


「あ?あぁ、屋上から飛び降りた時に地面に落ちたと同時に擦ったんだよ。」


「……、と、飛び降りたんですか?」


(飛び降りたことについては、述べていなったんだ。)


「あ、あぁ、まあな。俺もなんで飛び降りたのか、ついさっきのことだが、今になって思ったさ。」


「飛び降りたにもかかわらず、お体ピンピンしてますし、かすり傷だけで済むとか、好翔先輩。何者なんです……?」


まぁ、そこだよな。


「さっきも説明した通り、死神だから」としか俺は言うことが出来なかった。正確には半分だけだが。


「好翔先輩が、喧嘩したら負けなしなんて噂されるほど、お強いのは知ってましたけど、屋上から飛び降りて大怪我すらしないとなると、もう、人間で好翔先輩に敵う人なんていないですね」


絆愛は、まん丸な目をきらきらさせて、俺を尊敬の眼差しで見つめていた。


寧ろ、軽蔑されてもおかしくないはずなのだが。


「んまぁ、どっちにしてもだ。俺は噂通りの不良さんってことだよ。」


学校から飛び降りて生きていると言うことに対して不良なんだ、と言うことはまるで理由には、なってなんかいなかったが。


「私が好翔先輩に抱く印象は、お姉ちゃんと話している時の姿と、お姉ちゃんが話す、先輩の姿ですよ」


「心優莉は、俺についてどんな風に話してんだか……」


「少なくとも、どれも悪い印象には繋がらないってことです」


そうか。


絆愛のおかげで重い荷が外れたようだった。

小学生の頃、やたら重く感じた教科書がパンパンに入ったランドセルをようやく下ろせたようなそんな解放感だった。


「さて、授業始まるぞ?俺はともかく、お前は急いだ方が良いんじゃね?」


言いながら俺は、立ち上がる。大きく背丈に差をつけられた絆愛は、同じく立ち上がりそれでも、随分と俺には届きもしない体を除きこませ、必然的な上目遣いで、柔らかな笑みを込めたような表情で、絆愛は俺に向け


「好翔先輩もサボってばっかじゃダメですよ?」


「も」って何だよと思ったが、俺はわざわざ口に出すことはしなかった。

代りに「余計なお世話だよ」と絆愛の一歩先を歩き、背を向け言った。


絆愛は、俺の後を追うようにちょこちょこと、親の後に着いて歩くアヒルの子のように、そっと付いてくるのだった。


「あ、好翔先輩。三枝先生がお昼休みか、放課後にでも職員室に来るようにお伝えくださいとのことでした。」


思い出したように絆愛は、俺に告げた。


「聞かなかったことにしよう。」


俺が、そんなことを呟くと「私が怒られることになるんですから、ちゃんと行ってください……!」言いながら、崖から突き落としでもするかのように絆愛は、俺の背を押し、その足どりを急かした。


「わかった。ちゃんと放課後に行くから。」


俺は、二つの意味で来たる放課後を複雑な気持ちで待つことになった。





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