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追憶の天使  作者: 小河 太郎
【一章】『みゆり≒天使』
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04.「赤眼の死神—其の壱」


◆◇◇◇


生きている。


はっきりと意識があった。


無意識に学校の屋上から俺は飛び降りた。 学校は五階もあるため、普通ならば、即死のはずだった。


だが、俺は、全くぴんぴんしている。

(いや、とてつもない衝撃とともに、全身に激痛は、たしかにあった。 )気を失いかけたほどの衝撃だ。——ただそれでも、骨にヒビすら入ってないようで、外傷と言えばうつ伏せで落ちたために、布地のない、腕や顎の端っこをほんの少し、擦りむいていたくらいだった。


「やっぱり、こんな程度じゃ、死なねぇか。」


自分の、人間離れした身体能力を、改めて痛感した。——この力のせいで、俺は小学生の頃にクラスメートを傷つけてしまったのだ。


このことを俺は『例の件』と、そう呼んでいた。


建物の五階と言えば平均の高さは、約十五メートルないほど。おそらく、あと一階分高くてようやく骨が折れるであろうあたりだろうか。

自殺するならば、自分の腕力をフルに使ってナイフか何かで喉元をばっさりいった方が、簡単に死ねるはずだ。


そう、屋上から落ちても死なないだけで、『不死身』ではない。


自害しようと思えば出来るだろう。——ただ飛び降りたくらいじゃ、死なないのだ。

一般男子高生の本気のパンチが『一』だとしたならば、俺の本気のパンチは恐らく少なく見積もっても、『十』はくだらない。

少し、分かりやすく例えるならば、普通の高校生男子が本気を出しても砕けないコンクリートを、俺は半分の力も出さずに砕けるのだ。

もう少し分かりやすく例えるならば、ゴリッゴリなプロレスラーを赤ん坊が拳一発で容易くノックアウトでもさせてしまう程に、俺は、——常人離れしている。


『例の件』、当時の本気パンチこそ、今の半分以下だったとしても、その辺の奴らを平気で倒せるほどの腕は持っていた。(自分の力に気づいたのは、その時だったのだが。)


人と全く違う、生まれながらに両親のいない自分の家庭環境、(よくわからない特異と呼ぶべき力。)

学校でも、誰かと親しくするわけでもなく、むしろ俺がクラスメートに重傷を負わせたあの例の件以降、自ら人との関わりを避ける日々。

そして中学を過ぎれば、反抗期的な物さえ交わり、不良のような、ナリをし始めたのだ。人を寄せ付けないことに関しても効果ありではあったが、不良には、やたら目を付けられるようにもなった。

その度に重傷を負わせない程度に追いやり、(気が付けば、不良の天辺にいた)と、いう訳だ。


今は、その行いを十分に後悔している。手加減は出来るとはいえ、自分から必然的に拳を交える状況を作り出したのだ。


力の加減を間違えて、いつ死人が出てもおかしくなかったはずなのに。今はナリこそ相変わらずだが、喧嘩は、出来る限り、随分と避けてはいる。


そんな自分に嫌気がさし、なんど死んでやろうと思ったことか。

——ただ俺に、そんな勇気なんかありもしない。

そう考えるばかりで、ありもしないのに、死にたいと、俺は、一時期はいつも(今でこそ落ち着いたが)、そればかりに思考が働いていた。

——心優莉が、居てもそう思えてしまっていたのが事実。


そして意識がどうかしてたとは言え、いざ自殺行為を行なってみたものの、結局、死ぬこともできなかった。

(それも結局はわかっていた上で、だ。)


「俺は人間じゃない。」 それはほぼ確定で、確実だった。確証に至ったのは正に、この現状が結論付けている。

——しかし、だとしたら俺は一体〝何〟なのか。それだけが未だ、分からずじまいだ。


もしかしたら、俺の力と心優莉が消失したことには何か関係があるのだろうか。そう、勝手に結びつけてしまう。


いや、こんな非現実的なコトが起きている、そして俺の身体能力も非現実的と呼べる。わりかし正当な憶測なのかも、しれない。


そんな矢先だった——


◇◆◇◇


「この世界は案外、根拠のない虚言だらけなのかもしれないですよ」


左こめかみに目立つようにリボンをつけ、いつものピンクのカーディガンを羽織った小柄、というかチビな少女。深鈴 絆愛(みすず きずな)だった。


「き、絆愛……?」


「先輩、こんな所でねっ転がって何してるんですか?」


なんで、絆愛がこんな所に? 無意識だったとは言え、昼間はほとんど人が出入りしない定時制組の授業を扱う旧校舎にわざわざ来たんだ。俺たちの新校舎の教室の窓側からは全くの真逆に立ってる、そのため俺が飛び降りたところなんて、誰にも見られてないはず。


「お前、ついてきたのか……?つーか今、授業中だろ。」


「好翔先輩が、よくわからない言動するからですよ。 ほっておけないじゃないですか」絆愛のその言葉は落ち着いた声色を統一したままで、その表情は少し微笑んでるだけの様だった。


ただ、この違和感はなんだろうか。


「心優莉お姉ちゃんがこの世界から消えてしまった。 ですよね?好翔先輩。」


「お前、思いだしたの……か?」


「思いだしたもなにも、私は最初から全て、この世界の(ことわり)を、誰よりも知っているんですよ?」


「世界の理……?」


——何だそれは。


絆愛が、仰向けのままの俺に手を差し伸べた。


俺はその手をとることにした。


絆愛の手を掴み、起き上がろうとする。


「……お前、絆愛じゃねえ……な?」


触れたその手は、明らかに冷たかった。ただ冷たいなんてものではなく、この冷たさは死んだ人間の手そのもののようだった。(死人の手なんか触ったことなんか勿論ないが)、触れた瞬間に、はっきりとわかった。



「好翔先輩?何を言ってるんですか?」



少しの沈黙があった。(ほんの少しだけ)、時間が止まったように。


◇◇◆◇



「———さすが我が息子……と言うわけか」



「…⁈」


絆愛の姿が真っ黒い漆黒のようなオーラに包まれていくと少年のような声へと変わった。



——違和感の正体。



「——思っていたより、随分早く、異変に気付いたみたいだね、好翔よ」


徐々に黒いオーラが晴れていき、再び姿が見え始めた。 その姿はやはり、絆愛ではなかった。



「……誰なんだよ、テメエは。」



「僕は、君と同じ存在さ」少年の声で、不気味さをとにかく漂わせてそいつは、俺に言った。



十歳〜十三歳くらいの少年だろうか。俺よりも長い前髪は右目を覆い隠していた。見え隠れしていない片目は、真っ赤な絵の具を流し込んだような色に染まっていて、白いパーカーは、元は長袖だったのだろうか、袖はボロボロで、血なのかなんなのか、まっ赤なシミがいくつも目立つ。


「この姿を見れば、大体は察しがつくだろう?まぁ、君達の想像するような姿とは、多少違うのだろうがね」


そう話す、少年の右手には大きな鎌を持っていた。


そんな物を持っていて、一番に想像する者。逆に、それ以外には、考えられなかった。


「……死神?」


「ご名答。流石、優木好翔(ゆうき よしと)だ」


そいつに差し出され、掴んだままの手を離し、そして咄嗟に起き上がると、震える脚が動くだけ距離をとった。


「らしくないね、君が怯えているだなんて。 そんなに僕が怖いかい?」


その声は、完全に俺を嘲笑っている。嘲笑っている首の揺れで、そいつの左耳に付けられている、紅い十字架のイヤリングがちらついている。


「ったりめえだろ……、俺が粋がっていられんのはせいぜい人間の前だけだかんな……。 お前は相手にしない方がいい気がしてならねぇ」


こんな不気味な奴を前にして、腰が引けない方がおかしい。


「よくわかってるじゃないか、誰に教わったわけでもないはずなのにね。 流石の怪力好翔くんでも僕の気配を前にして腰が抜けたってわけかな?何かの本能か、はたまた——」


話ぶりから、コイツは俺のことを知っている。それでいて、死神だと言う、そいつは、かなりの余裕をかましている。


「まぁ、いくら君の力を持ってしても、僕に敵うなんてことは絶対にない。僕は少なくとも、人知を超えた存在だ。手を出さないことをオススメするよ」


「いつ戦うだなんて言ったさ?」


俺がそう言うと「それは失礼した」とそいつは言い、続けて「君なら直ぐに暴力に出そうな感じだったからさ」と再び俺を嘲笑するようだった。


「絆愛に化けて、な、何が目的だ……? 心優莉、心優莉が消えたのも、お前の……?」


あくまで俺の仮定に過ぎない、心優莉との関連性を根拠もないままに問いただした。


(俺の前に突然現れた。何の用があって?)


「そう、解決を急がなくていいだろう?話にも順序って物があるもんさ」


「……俺を殺しに来たんだろ?」


「なぜ、僕が君を、殺さなきゃならない?それに話を急ぐなって今、教えたろ?君に教えておきたいことが沢山あるんだ。」


死神の考えていることがまるでわからない。コイツは一体、俺の前に現れて何をするつもりなんだ……?


「忠告、とお知らせ?とでも、言っておこうか。まぁ、少なくとも、今の時点では君を殺しはしないから安心するがいいさ。 それに———」


次の瞬間、俺は思いもよらなかった言葉をそいつから聴くことになる。



◇◇◇◆



「それに、君は僕の息子だ。 可愛い我が子を意味もなく殺すなんて、するわけないだろう」


我が……、息子?


確かに死神と名を名乗ったそいつは、俺に向けて『我が息子』そう言った。


そうだ、最初にコイツの声を聞いた時にも、『我が息子』目の前に突然現れた異様な少年に気を取られていて、その台詞なんか気にもしていなかった。


しかし、その少年は改めて、『我が息子』俺のことをそう呼んだのだ。




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