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追憶の天使  作者: 小河 太郎
【二章】『よしと≒死神』
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42.「好翔とアクラシエル—其の壱」


心優莉が水風船を買い出しに行って、俺と絆愛がイヴと一悶着あり、そんな現時刻は午後一時前。


「とりあえず、今日は解散しようぜ。腹減ったし、俺は帰る。かき氷だけじゃ腹の足しにもなんねぇ」


「お腹空いたから帰るとは、好翔もお子様だね〜」


「お前にだけは言われたくないわ……!」


特大のブーメランを投げつけてやりたい。


俺はふと、イヴとの約束を思い出し、絆愛に向け「そういや、未明って言ってたよな? よく考えたら未明って、ほぼ夜中じゃねーかよ。」と、話をかけた。


イヴから告げられた明日の予定、その時刻。

死神三番目やら、この世界のこと、他にも色々と伝われたのもあり、その時は空返事で時間を承諾していたのだが、滅茶苦茶、朝早かった。


「四時、五時くらいに集まれれば、良いのではないでしょうか?私から好翔先輩のお家に伺いますよ」


何くわぬ顔で返答する絆愛に対して、俺は脱力したように一言、

「そうか。」

と。


正直、朝っぱらから動き回るとかしたくないのだ。

(起きねばな。最悪、今のうちに寝てってのもありだな。)


「何のお話?」


首を軽く傾げながら、心優莉が言った。


「あ、いや〜なんでもねぇよ」


そういや、イヴに、心優莉には死神三番目の件は言わないようにと口封じされていたのだっけ。

言った所で、だと思うのだが、一応黙っておくことにはしよう。


心優莉は、ふうん、まぁ、いいや!と、それ以上は聞いて来なかった。

——本当、素直、だな。

少しは追求してみたらどうなのか、詮索してみたらどうなのか、そんなことすら逆に思えてしまうほどに。


「お前らも、せっかく、午後空いてるんだから、その時間を有効活用するんだぞ」


「有効活用?」


またしても、首を傾げる心優莉、すかさずに絆愛が、ああ、と思い出したように


「四日の日に、実力テストがあるじゃないですか、お姉ちゃんも勉強を、ね!」


「初耳なのだけど……!」


げげっとした表情で心優莉は如何にも、分かりやすく驚いていた。


「終業式の時に言ってたろ?夏休み明けに、全学年一斉実力テストがあるって」


「聞いてなかったよ!」


おい。


「一年生は高校生になって自分がどのくらいのレベルにいるのか、二年生は進路選びの為に、三年生は進路決定のために、でしたよね」


「だっけな。」


すると心優莉が


「あくまでも実力テストなわけだから、余計な勉強なんかせずに望んでこそ、実力テストの意図に見合っていると思う!」


まぁ、確かに一理あるが。


「期末試験とかとは違いますものね」


「けど、特に心優莉に至っては、少しくらいの復習はしといた方が絶対いいと思うぞ。一部の教科は、ほんの少しだけだが、成績にも入るみたいなこと聞いたし。」


割と真面目な顔で俺が言うと、 「な、なんと……‼︎」と、心優莉は漫画にでも出てくるんじゃないかと思わせてくれるような、またしても、そんな分かりやすいリアクションをしてくれた。


「もはや漫符が見えたぞ。」


ノートや教科書や参考書の見直しくらいはしといた方がいいのは確実だと思うのが、俺の意見だ。


「好翔がそこまで言ってくれるなら、仕方ない!今日は帰って勉強しようかな」


お前はそうしろ。した方が良い。

(自分自身は帰って寝ようとしてたのだが。)


俺は、若干、煽るような口ぶりで

「ま、ラビエル・ユリシオン様なら、全然問題ないだろう?」


やはり、俺は赤芽の息子なんだな、と。

……変に煽りグセが付かねば良いのだが。


「勿論だよ!()()()に負けてる場合じゃないよね……!」


対して心優莉の前向き加減は、やはり天使なんだな、と。


「その言い方だと物凄く不自然な意思表示だよな。お前の場合、それで正解なんだろうけど。」


肉体が馴染まない、か。

——本当、ラビエル本来の知識力を取り戻せたら心優莉の奴、東大とか簡単なんだろうな。

肉体に馴染まないだけで、こんなにも馬鹿になってしまうのも極端過ぎる話だ。それも、天使の記憶を取り戻す以前の、ずっと前の心優莉と同等に、或いはそれ以下に、馬鹿になった。

天使の自覚を取り戻した分、人間誰しも持っている邪心が完全に無くなったから、なのかもしれないわけで、余計に純粋、純正、純情。


「よし!今のうちに今日、沢山寝ておけば、もしかしたら次の日に、完全に身体が馴染んで、ラビエル・ユリシオンになれるかもしれない!」


「結局、寝ようとしてんじゃん!」


そもそも、こんな心優莉に、人間だった頃にさえ、邪心があったかどうかと言われれば、なかったのかもしれないが。

(きっと、アクマイト光線とか余裕で弾くんだろうな。)


「では、今日はこれにて、ですかね」


「だな。ちゃんと勉強すんだぞ」


て、いうか、死神三番目なんかに関わってる場合ではなかった。


明日、長引いても明後日でコトが済んでくれると良いのだが。(そう、上手くはいかないだろうが。)


結局、水風船なんかせずに、俺達はこのまま、この公園で別れたのだ。


ちょうど、俺の帰り道とは逆方向にこの公園は位置しているので、俺は一人、この蒸し暑さの中、足を右、左と交互に、時々に立ち止まりながらも、家を目指すことになった。


話し相手がいない帰り道は、特にこんな暑さの中では、実際、途方もなく長い道のりに感じてしまう。

そもそも、花咲公園は場所が悪い。俺の通学ルートからは完全に逸れる位置関係なわけで、屋台を見つけたが為に、こんな小さい時に来たか来たことないかも知れないような、そんな公園に足を運んだわけで。

深鈴姉妹は帰り道付近の公園なわけで。


「何か、飲み物を……」


目の前の自販機に目をやる。


俺は驚愕した。


「……何で、全部、温かいって書いてあんだよ!」


思わず、一人で突っ込んでしまった。


なんて季節感のない自販機だろうか。

馬鹿か……。


「仕方ない、かき氷、もう一つ貰っていこう、かな……。」


俺は呟き、後ろを振り返ると、その屋台はまだすぐそこだった。


移動距離、約三十メートル。


俺は、例の公園に引き返して、とりあえずもう一度、ひと段落することにした。


引き返すくらいなら帰れよ、そう思っただろう。俺はそう思われただろう。

けど、あと一キロ近くある我が家までこのまま歩くのか、五十メール先の屋台に引き返して、一旦落ち着くのか、このどちらかを問われたならば、俺は断然、後者だ。

真昼間だからこそ気温も最高気温であり、暑さもピークに達しているとみた。

だから、日陰のベンチで、かき氷を食べながらこの暑さを一先ず耐え凌ぐ、悪くない案だろう。


さっさと帰ってクーラーがキンキンに効いた部屋で大の字になりたい気分も山々だが、今はもう、歩きたくないのだ。短時間とはいえ、イヴとの戦闘も何かと動き回ったしな。


——


「いらっしゃい!おや、さっきも来てくれたよね?」


屋台特有の接客慣れしたような陽気なノリの店員を前に、俺は再び立っていた。


「あ、はい」


なんとも、無愛想な返事だった。

ここにきてだが、育ってきた環境が環境なだけに、どちらかと言えば、人と話すことを得意としなかったりもする俺なわけで。

心優莉や絆愛や望夢なんかは平気で話せるし、それこそ担任とかにも平気で悪態はつけるのだが、

なんというか、自分に対して、初対面の人に調子良く話しかけられると、親切にされると、かしこまってしまう。


「おや?両手に持っていたお花はどうしたんだい?」


「花、ですか?」


「ははは、可愛いお嬢ちゃん達だよ!両手に花って言うだろ?」


「……ははは」


滅茶苦茶、無愛想な笑み。

このまま感じの悪い人だと思われるのも、自分の性に合わないので、今度は話を繋ぐように、自ら話を切り出すことにした。


「あの、メロンのください。」


見た感じお若いですが、お仕事は長いんですか?とか、

ちなみにおススメのかき氷とかってありますか?とか、

にしても、まだまだ暑いですね、今日なんか特に。とか、

——そんな風に上手いこと俺が話を変えるとでも思ったか?さっさとかき氷さえ買って立ち去りたい。

俺は、話を繋ぐように、注文をすかさずに入れたのだ。


「そう、急ぐこともないだろ、お若いの」


ぐ……、そう来たか。


「しっかりと、——君に話しておきたいことがあるもんでね。」


「?」


瞬間、明らかにその店員の感じが変わった。


「話というか、まぁ、忠告、なのだけれどね。」


「——‼︎ お、お前は……」


何処にでもいるような、黒髪ベリーショートに爽やかな目元、常に上がった口角、そんな接客マンなお兄さんだったその店員は、瞬きの一瞬、ほんの一瞬で、その容姿を激変させた。


見覚えのある顔だった。


「天使様に向かって、それも第七階級の天使に向かってお前呼ばわりはないだろう。優木 好翔くん?」


髪は黒混じりの白髪に、糸のように細い目元、上がってこそいるが、ゆるく力の抜けた広角。


「アクラシエル、様。」


赤芽との決着の後、現れた大勢の天使の中にいた一人。

ミカエル様は勿論のことだが、もう一人、その場にいたどの天使よりも覚えていた。

下手すればミカエル様よりも差し置き、よく喋っていたのだから。

——そして何より


「どうしたんだい?何も言わずに固まっちゃって」


天使だというのに、第七階級のはずなのに、第八階級のミカエル様や、それこそ幽界での心優莉、ラビエル様にも匹敵するような、もしくはそれ以上の溢れ出る神聖な気配。


——そして何より、


———この圧倒的な威圧感


俺は、唐突に突然にそんな威圧感に居合っのだ。


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