41.「消滅の一途」
なんだか、途方もなく、とてつもなく、凄い話を聞かされていたのだろうが、
今の俺には、全くついても行けない話だったのだ。
「消滅期間、だから先代は結果として、地獄行き、ということにはなったけれど、死神としての消滅は実際に実効の形となった。」
「閻魔はどういう括りなんだよ」
回想。
——ふうん。 君は閻魔の代わりまで務めるのかい。流石は神に最も近い天使、ミカエルだ。
赤芽の台詞だ。
イヴは答える。
「アレは、天使様と同じようなものだよ。閻魔っていう名前なだけで、第七階級と第八階級の天使の間くらいかな。かなり偉いよ。」
閻魔も天使、か。
どうやら、大体は天使で済まされるのがこの世界の在り方らしい。
「これで、死神三番目が感情を失くした理由も分かったんじゃない?
さっきは敢えて、理由がないのが理由なんて言ったけれど、理由がないことなんかあるわけないからね。」
確信犯だった。
「話の筋に合うような理由があると?」
「勿論。ここまで、説明したからこそ、理解できる理由だと思うよ。」
「なんとなく、とかですか?」
俺の隣に馬鹿がいる。
なんとなくで感情失くすかよ。失くされるかよ。
「シンキングタイムおしまい。
それじゃあ、答え合わせ」
シンキングタイム短え。
「人口増加によって死神が消えゆくことになるのならば、そんな人間の数を減らせばいいってことでしょ?
——だから、消滅対象となった死神自身が世界の意向により、感情を迫害され、死を司る神、文字通りの死をもたらす神として生まれ変わったってわけ。」
死神。
つまりは、消えたくないのならば、自らの手で、人間を殺せば良いだろう、と。
「そもそも、どうして人口増加は起こったんだ?一世紀で魂を廻らせてるのならば、変化することはまずないだろ?」
「全部が全部、使い回しなわけないでしょ。西暦一年の頃の人類の人口は一億人程度だったのが、今じゃ七十億超、命ある分、魂も同じ数、生み出されて行くのよ。それは、自然と、どこからともなく、ね。」
「魂は神が作るんじゃねぇのか?」
「最初のうちはね。
それこそ天使だって最初のうちだけ直接、お創りになさっていたわけで、一あれば、いずれは百となり千となり、万となり、神様は自然増殖の過程も一つの楽しみとして、楽しんでおられたのよ。」
「勝手に増えるものなんですね」
「そりゃぁね。人間だって最初の二人、さっきも言ったように、俗に言うアダムとイブを神様はお創りになっただけだからね。」
「人間が増える代償として、死神が消えていく、か。不公平だな。」
「最初からこの世界に公平なんてないからね。優先順位の位として、この世界で最も、いてもいなくても支障のない存在が死神であっただけ。どうせ消えるかもしれないと考えた時に、神様はそのせいでイヴを創ることを渋った理由。」
「てか、死神以前に、まず動植物はカウントされないのか?」
「人間という大前提には必要不可欠な存在だからね。植物がなければ酸素が作られなくなるし、人間は動物が消えれば食べるものもなくなる。
今の環境にしたのも神様の意向だから、優先順位じゃ、死神を下回ることなんかないよ。」
神は、それぞれ、その時代に見合うような環境をまずは与えていたという。
恐竜ならば恐竜が、人間ならば人間がその世界の頂点になれるように、と。
海水の面積や空気の質量や、重量の軽度など。
初期設定だけはして、後は眺めているだけ。
肉体世界という概念そのものが、神様にとってのジオラマであり、アリ観察キットであり、ゲームなのだ。
自分でゲームの世界観やその住人を創っていくイメージ
自分で漫画やアニメの世界観を描き加えていくイメージ
ドラえもんやサザエさん達からしてみれば、神様は勿論、神様である作者なのだ。どんな運命か、結末かはその作者の心情、思考次第なのだ。
その規模を途方もなく広げた時、それが、俺達の立場なのだ。
「人類の発展は神様自身も、かなり驚いていたみたいだけれどね。科学を発展させるとは思わなかったみたいだから。」
ちなみに、恐竜の魂が今の動物に再利用されているのだとか。植物は植物に変わりなく。
しかし、増加によってカウントされるのは知的魂のみであるために、いくら動物やら植物やらの魂が増えようと人間増加、死神消滅には何ら関係ないのだとか。
——いちいち難しい。
「けど、死神がいなきゃいないで、大変そうな感じで話てたろ。実際に赤芽と三番目の埋め合わせでよ。そもそも、必要なければ、神だって死神なんか創らなかった。違うか?」
「それを突かれると、あんだけいるのだから、天使様が引き受ければ良いのにって感じだけれど、天使様とは別で、専門の概念をお創になりたかったのでしょう。あんな神様だし。
それに、神様が役割を決めてるから、勝手なことは出来ないのだよ。だから、仕方ないの。死神の事情は死神で解決しなければいけない。」
イヴまで、ついにあんな神とか言いやがったぞ。
(そんなに、酷いのか。ここまで来ると会ってみたいよな。)
神の適当さ加減はどうにかならないのだろうか。本当に。
神頼みだなんて、一度でもしたことがあったりはしたのが、阿呆らしく思えて仕方がない。
まぁ、自分の人生については、殆ど諦めていたし、神に頼んだとして、みたいな感じだろうと、それこそ、
——そもそも、神なんて信じていなかったんだ。
ふぅ、とイヴはため息を一つ。
ため息はつくようだ。意外なことに。
「これで、一通りの、イヴが貴方達の前に現れた理由の説明としては十分に事欠いて足りたでしょう」
「あぁ、十分すぎるくらいだよ。俺たちの疑問点にも全部答えてくれたしよ。」
「こんなに、ベラベラお喋りしたのが後で、神様とかミカエル様にバレたら、こっ酷く絞られちゃうから、呉々も、これね。」
イヴは、口元に人差し指を添え、元ラビエル・ユリシオン様にも、と一言。
「よく、こんなベラベラ話たな。」
「一応、認識阻害のバリアはこの公園に張ったままだから。大丈夫だとは思うけれど。」
だと、いいな。
「もしも、大丈夫じゃなかったら、多分、次に貴方達の前に現れることはないから、死神三番目の、ことは何となくで宜しくね。」
「その表情で言うな。」
無の表情。無表情でさらっと存在自体、消されているかもしれない可能性を言いやがった。
「それじゃ、一先ずは退散するよ。元ラビエル・ユリシオン様もこの公園に辿り着けなくてそろそろ、何かしらの可能性を怪しむ頃だろうし。」
「心優莉に限っては大丈夫だろうぜ。」
馬鹿だからな。
「ところで、私、ずっと言いたかったことがあるんですが……!」
「なんだ?珍しいな。ずっと相槌打つくらいだった絆愛が。」
基本的に話の進行は俺とイヴだったわけで。
そんで、時々の絆愛。
「イヴちゃんの身長は、何センチですか!」
「……」
「ううんと、確か、百四十センチくらいだったかな。」
答えるんかい。
百四十センチか。
ん?
お?
おお?
「好翔先輩……!
か、 勝ちましたよ!」
絆愛は、歓喜の趣だった。
「お、おう。おめでとう」
イヴの身長を聞くや、イヴの隣に並び、とても嬉しそうな表情である。
絆愛も最近はよく笑顔を見せるようになったもので、ますます心優莉に似てきたなと、切実な俺だった。
身長、スタイルじゃ一生叶わないだろうがな!
「イヴちゃん、今度、お洋服見に行きませんか!」
本人はとても優越しているが、小学生相手に高校生が身長で勝って喜んでるようなものだぞ。
死神といえど、見た感じ、イヴのベースは小学生女子だろう。
不機嫌にしたところで、なので、言わないがな。
ゆーて5センチの差だし。
「それじゃあ、明日の未明にまた会いに来るから、元ラビエル・ユリシオン様には上手く伝えて二人だけでいてね。」
「未明とか、ざっくりすぎだろ。」
「イヴにも死神の仕事があるからね。三番目を連れ戻す作戦会議は早くにも進めるべきだし。」
「そう。りょーかい。」
世界の意向で消えようとする死神三番目を連れ戻す、なんてそもそも出来るか、って話だけれど、とりあえず、俺達に出来ることくらい、してやらないこともないしな。
「とりあえず、消滅の一途を辿る死神の救済方法と死神三番目の問題を、解決するのが今回の目的であり、イヴが半死神の好翔と天使様の妹の絆愛と、指輪の力を兼ね備えた二人の前に現れた、そんな流れかな。」
そう、背を向け呟くと、イヴはそのまま何処かへと、姿を消した。
てか、死神の救済方法とか初めて聞いた任務なのだが。
魂しかない奴は中身むき出しだから、変な奴ばかりなのか?
中身が空っぽ、なのではなく、そもそも中身が出てるから?
いや、言葉としてなんか変な表現だった。……これ以上は控えておくとしよう。
「敵対行為とか回りくどい感じじゃなくて、最初から協力してくれ、みたいな感じで来てくれりゃ良かったのに。」
「案外、ツンデレさんなのかもしれないですね」
「死神にツンデレもツンツンもデレデレもあるかよ。」
いつのまにか、空は元通りの雲一つない夏空へと変わっていた。
同時に暑さも蒸し返す。
蝉の音が再び響く。
ふと、好翔ー、きぃちゃーんと俺達を呼ぶ声が聞こえたのはその時だった。
「あ、お姉ちゃん、戻ってきましたね」
勿論、心優莉だった。
「二人とも、見た?さっきの雪!超常現象だよ……!それにこの公園にどうやっても辿り着けないし、十回くらい同じ道を繰り返してようやく、辿り着けたけど、なんかもう、UFOなんかよりも凄いと思う!神隠されたのだよ!私!」
まぁ、思った通りのリアクションだった。
「天使がいるかも分からないようなチンケな神に隠されんなよ。」
えへへ、と何時もの笑み。
やはり、何処か愛おしいのだ。絆愛はやはり一生叶わないな!
「で、水風船は買ってきたのか?」
「勿論!その為に買い物に行ってきたわけだし、さすがに水風船買う為に行って水風船忘れないよ〜、水風船オンリーなんだから!」
「ま、さすがに、な」
心優莉が、胸を張り、自身たっぷりと右手に袋から出したその水風船を見せつける。
その水風船を。
「お姉ちゃん」
「心優莉」
俺と絆愛は二人、声を揃えて言ったのだった。
「それ、普通の風船。」
見事なフラグ回収でした。




