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追憶の天使  作者: 小河 太郎
【二章】『よしと≒死神』
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40.「世界の異物」


「死神も神様や天使様と同様に、魂だけの存在であることには変わらないけれど、全く違う概念。」


イヴは相変わらずに、顔色一つ、表情一つ変えることなく、声色もリズム感も一糸乱れずに、俺と絆愛に向けて、話を続ける。


「死神が創られた理由としては、人間の魂を再利用することになったのが始まり。」


「天使として、か?」


天使としての再利用か、人間としてまた生涯を終えるのか。


「勿論。

恐竜の頃は、その魂を天使にするなんてことなかったわけだから、その魂を管理したり、分別するような存在も必要はなかったのだけれど」


人間には、神同様に知識や言語を用いるだけの知恵があり、思考があり、私欲がある。

だから、神は人間の、より優れた魂を、自らに仕える天使として再利用、生まれ変わらせるシステムを考案したという。

魂の再利用だ。


「そのために死神は創られた。

死を司る魂の管理者であり、同時にこの世界において、異物のような概念。」


「異物ってどういうことだよ?」


「この世界には、神様、天使様、人間とその他の動植物がいれば十分だったってこと。

死神の役目なんか、最悪、天使様にだって務まるわけだし。」


それを言われると確かに天使にも十分務まるのかもしれない。そうかもしれないが。


「異物は、言い過ぎなんじゃないか?

神が創った概念なんだしよ」


「神様が認めていても、世界の理が、死神の存在をまず、否定している時点で、異物なのは明らかなんだよ」


世界の理。

確か、赤芽と初めて出会った時、赤芽が絆愛に化けていた時に、言っていた。


「詳しく触れると長くなるから、簡単に世界の理について述べるとね、神様が生まれる以前、この世界が誕生し、地球が誕生したその時から定められてきた、この世界における秩序みたいなもの。」


説明としてはそれでも十分だった。


「神様が生まれる以前、ですか?」


「神様がこの世界に現れたのは地球が誕生してほんの少ししてからのことみたいでね。

この世界が生み出したのか、神様が勝手に生まれてきたのか。それは、誰にも分からない」


「神がもしも誕生していなかったとしたら?」


ふとした疑問。


「地球は他の太陽系の星々みたく、岩石惑星みたいな感じで、何ら変わらなかったのだと思うよ。

——神様が生まれたから、彗星が氷と岩石の塊として地球に衝突し、その水蒸気が地球の周りを覆い、やがて熱く焼けた地表が冷却され、そんな水蒸気が水となり、大地に大量の雨を降らせ、次第に海となり、地上の約七割を覆い、それが母なる大地の原石となれたのだから。

その彗星を降らせたのが他でもない、神様。」


「彗星を引き寄せらるのかよ……。」


「そりゃぁね。恐竜を滅ぼした時にも同じように地球の軌道に巨大な隕石を乗せたのだから。」


神かよ。

いや、神か。


なんだか、物凄くぞっとする話ではあるのだが、スケールが大きすぎて、もはや難しく考えることをやめた。


「と、いうことは神様って惑星一つくらいならば、破壊出来る力の持ち主だと……?」


「さすがに直接、アラレちゃんみたいに地球割ったりは出来ないだろうけれど、その星が消滅するに十分値するきっかけくらいは作れると思うよ。それこそ隕石を引き寄せるとか、世界中の火山活動を活発にして——みたいにね。」


なんかもう、色々とインフレしている……。

俺と赤芽との戦いとか、イヴとの戦いとか、これから来るのだろう死神三番目との戦いとか、まるで小さく感じてしまう。

赤芽なんか可愛いものだ。


「だから、神様なの。この世界の創造主。

神様からしたら、貴方達は人生ゲームのコマにしか過ぎない。大富豪も大貧民も、ルーレット次第、つまりは神様の気まぐれ次第ってこと。

直接、一個人の運命を弄ぶなんてことはしたことないようだけれどね。

それならとっくに人類なんていないだろうし。

アリの観察とかも、そのアリの生き方を観るために行うわけであって、人が介入するのとは違うでしょう? まぁ、餌は与えるのかもしれないけれど」


餌。

神は、餌を与えるかのように、俺たちに知恵や言語を与え、自分の暇つぶしの為だけに繁栄させた。

アリの観察をする俺たちを観察する神。

なんか、気持ち悪ぅ……。


「話を戻すと、そんな神様でも知り得ず、破ることの出来ない世界の倫理、世界の理に弾かれた存在、それが死神なんだよ。」


「要するに?」


「要するに、神様は概念を創造しすぎた。

そもそも、世界が用意した概念は最初から最後まで、神様だけであって、天使様や人間を生み出したのが、神様であり、その時点で世界はそれを望んでいたかと問われたのならば、違うのかもしれないわけで」


そもそも、なぜ神は生まれたのだろうか。

この世界をどのようにすることを世界は望んでいたのだろうか。

——神は失敗したのだろうか。この世界の方向性を。


「神様こそが、この世界の子であり、それ一つの存在。

世界は多分、恐らく、最終的に望んでいた世界の行く末は、今のような現状ではなかったのだと思うよ。」


天使までは良かったのか、人間が生み出された時点で間違いだったのか。

そもそも知的生命体を作らずに恐竜までの生態系を保つことが正解だったのか、彗星を呼び寄せ、今の地球を作ったのが大前提として間違いなのか。

神のみぞ知るという言葉があるが、世界のみぞ知る、というのがこの場合は正しいのだろう。

言葉として、違和感でしかないが。


「好翔先輩。もう、ちんぷんかんぷんなのですけれど……。」


「大丈夫だ。俺もだから。」


誰かの創作話でも聞かされている気分だ。


「それ全てを踏まえた上で言うと、死神を多く創った時には、世界がその意に反したのだよ。」


「死神は元々は、数いたってことか?」


「さっきタイミングはあったのに、言い損ねこそしたけれどね。神様が一人、天使様が一億、人間が七十億ならば、初期の死神は、本来、千はいたらしいよ。直ぐに消えていったらしいけれどね。」


「それで、残ったのが今の十人、そしてお前か。」


「魂の弱い者かは消えていったらしいよ。

それで今の十人だけになったみたいだね。

砂場で沢山バケツで山を作ったけれど、陽の光でサラサラに乾いた砂はすぐにその形をなくして崩れ落ちちゃうでしょ、反して日陰においてあった山は、しばらく、その形を有することが出来た。」


——しばらく

その言葉が意味すること。


「話の結論を言うと、多分、死神の消滅期に入っているのだと思うよ。

先代は人間のように感情を持ち、三番目は人形のように感情を失くした。」


「それって」


「死神が、世界の理、世界の意思によって、全滅されようとしている。それが答え。」


「な、なんだよ、それ?

意味がわかんねぇよ。」


「百年単位で死神は一人ずつ、消え行くのかな。先代と三番目はたまたま時期が被っただけなんだろうけれど。」


「どうして、今更なんですか?

死神の皆さんはそれこそ、人類誕生と同時期に神様がお創りになったのではなかったのですか?」


「人口増加、それが一番有力な理由なのだと思うよ。

人口が増えた分、異物である死神が滅びる運命なんだよ。実際、千人いた死神も人口が増えるにつれて段々と消えていったみたいだし。」


「死神のそんな扱い、どうも納得出来ねぇんだよ。異物ってのは、何でなんだよ?

少なくとも、俺だって死神の遺伝子を持っているんだ。知る権利はあるだろ」


「知る権利も何も、それ以前に、かなり、人間に話ちゃ行けないことを話たし、別に隠すつもりもないのだけれどね。」


イヴは、自らの手を使って説明を続けた。


「イヴの左手、一番長い、中指が神様、全ての存在の中心。その隣の人差し指が天使様、その下にある親指が人間だとして、あえてあまりの薬指を何か、とするならば、堕天使、つまりは悪魔かな。それで死神は一番端っこの小指。赤ちゃん指なんて呼ばれているのも加味してなのだけれど、死神はどの概念よりも劣る存在なの。」


「人間よりも、か?」


「人間を生み出したから、神様は死神を創った。喜怒哀楽の表情、表現がない時点で、人間よりも劣っていると言えるのよ。」


「力なら、人間よりもずっと強いだろ?それに知識もそんなにあるんだ。」


「知は力なりって言葉があるでしょ?力だけじゃ有利には立てないっこと。

知識は元から備わっていたわけじゃないからね。貴方が学校で色々なことを学ぶようにイヴ達も経験を重ねて、頭に入れ込んだまで得る知識量は人間も死神もあくまで平等。」


だから、そこは比較にはならないのだと。

——死神の方が劣る。人間よりも。


「人間は、天使にもなり得るけれど、死神はそうはいかない。そこが決め手だよ。

死神はそれこそ、砂のように消えてなくなる。ただ、——それだけだから。」


イヴに、ほんの少しだけ、気のせいかもしれないが、感情のようなものを、確かに感じた。

——もの悲しげな、儚げな、表現し難い感情のようなのだったが、目の前のイヴからは、感じることが出来た。


「神様や天使様が魂だけの存在で、人間が肉体と魂の存在なのだとしたら、死神は肉体だけの存在、その表現が一番分かりやすいのかな。」


実際には、死神も魂だけの存在なのだけれど、異物として表現するならば、そう言うのが一番正しいのかもしれない、と。


行き場のない魂。魂を送る存在であるが故に、自身の魂尽きる時、それは廻ることもない。

魂を廻らせるためだけの、その役目を担うだけの、

ただ、それだけの存在。

——それが死神。

人形のような、魂だけが宿る機械のような、感情を出すことすら許されない、出すことすら出来ない。

——それが、死神。


「だから、先代は、死神九番目は、基、優木 赤芽は、人間に憧れたのかもね。」


——人間になろうとしたのかもね。


——たから、先代は、滅びた。


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