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追憶の天使  作者: 小河 太郎
【二章】『よしと≒死神』
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37.「答え合わせ」


俺の左手は、死神少女によって凍った。手の平と人差し指程度とはいえ、内側から凍ったその手は、使い物にはならないだろう。

攻撃を受け止めようものならば、砕けてしまうのがオチだ。


「五分は少し、言い過ぎじゃねぇのか?赤芽との戦いでもかなり俺らは粘ってたんだぜ。」


「言ったでしょ。私は先代よりも、強いって。雪と氷を操れるのだから、歴然。」


赤芽よりも強い、加えて雪に氷。

確かに、五分でケリが付いてもおかしくはない、か。


けれど、こんな少女が赤芽よりも強いだなんて、その力を目の当たりにしても、俺には思えなかった。

見た目が女の子なだけに、殴りにくいし。


「よそ見してる場合じゃないよ。」


死神少女は俺の目線のすぐ下に入り込み、その手の平を俺の胸元に当てた。


「——こいつっ」


凍る寸前のところで、俺は地面の砂を巻き上げ、距離を取ることができた。


「こほんっ。」


死神も咳き込むようだ。


そんな俺は、ベストはほぼ凍り、氷の鎧を見にまとっているような感じになっていた。

流石にもう、これを身につけては色々と辛い。重量感に加え、それは、ドライアイスよりも冷たく感じた。これ以上着用していたならば、直ぐに低温火傷を上半身に負うことになる。


空を覆う黒い雲と、降る雪のせいで、気温は十五度はとっくに下回っているだろう。

夏の装いであるがために、やたらと肌寒く、ベストが丁度良い感じではあったが、やむなしだ。


「本当、その凍結攻撃。厄介極まりねぇな……。」


「私だけが持っている能力だからね。神様の気まぐれなのか、意図的に、なのかは分からないけれど」


「お前にも、分からないのかよ。まぁ、あんな神ならば、気まぐれの線も十分だろうしな。」


心優莉の話通りの、人物像ならば、の話だが。

会ったことなんか当たり前のようない。


「次、行くけど。」


死神少女は、話を真っ向から中断し、俺の方へと、赤芽譲りの大きな鎌を正面に構え、勢いよく突っ込んで来た。


その大きな鎌と共に、勢いのまま地面にトン、と鎌だけが先に着地するのと、見る見る砂で満ちていたその地面はその鎌の中心から、広範囲に凍り始めた。


「う、うわ?」


絆愛は逃げるように噴水を囲う石部分によじ登る。


俺はなんとか巻き込まれまいと、ジャンプでかわそうと試みたが、左足が間に合わずに、凍結に巻き込まれ、そのまま動きを封じられてしまう。


「っち……」


「これで、砂埃(すなぼこり)で私の視界は防げない。」


俺と目が思い切り合う。鎌を器用に扱い、俺と背丈を合わしている。

その距離は鼻先が触れそうなくらいに至近距離にまで来ていた。

真っ赤な左目に吸い込まれてしまいそうだった。


そして、その死神少女の手が、俺の首筋に触れる。


「っや、やばい……!」


死神少女の手袋越しにも分かるその冷たい手が、更にどんどんと冷たくなっていくのを感じとった。


——首筋は、軽傷じゃ済まない。


俺は咄嗟に死神少女の右頬を殴った。

女の子だから殴りにくいとか言っておいて、かなり思い切り。正当防衛であって、そこだけは誤解しないでほしい。

てか相手の容姿が容姿なだけに、男子高生が、幼女を無慈悲に虐めてるような絵面にしか見えなくなってしまうのだが。


人目に付かない、とは言えだ。

個人的にも何だか気が引けてしまうのだ。

神よ。何でこんな幼い容姿にしたのだ……。


「思い切り殴っておいて、不本意そうな顔しないでよね。」


「ごもっともです。」


死神少女は、凍った地面に上手く着地し、屈んだ態勢のままで、アイスホッケーの石のように滑る身体を、鎌を上手く滑り止めのように突き刺し、綺麗に静止した。


「好翔先輩……!見た目に惑わされないで下さい!見た目は私よりも幼くとも、中身は、死神なんですから!」


「わかってるよ。……けどよ」

うわぁ。やりにく。


「たまたま私が女性型だったってだけだから、気にしないで甚振ってくれて構わないよ。私は何とも思わないし、寧ろ手を出してくれなきゃ、私的には一方的にしかならないし。 」


言い方の問題。


「何にもしてこない貴方達を殺すなんてつまらない。だから、こうしてずっとタイミングを伺っていたと、先にも述べたでしょう?」


俺に、その手の性癖があれば、寧ろ喜んでしまったのかもしれないが、俺は至って健全だ。自分で言うのもだが。


少女の見た目だけはやめとけよなぁ。


「何を、思い詰めた顔してるの?そんな暇はないよ。」


死神少女は、俺が身動きを取れないのを良いことに、次々とパンチやら膝蹴りやら、合間に冷凍、と、様々な攻撃をするが、俺は相変わらずに、先程の一撃から何もすることはなかった。攻撃が重くなるにつれ、降る雪もまた、強くなっていく。それはもはや吹雪。


「貴方の方が断然弱いの。だから私に攻撃した所で、弱いものいじめにもならないし、虐待にもならないのに。」


振動、衝撃で、凍っていた左足の氷は崩れ、ようやく、身動きは取れるようになった。


「お前が女の子ってだけで、気が引けちまうんだよ。」


少女は攻撃の手をやめない。俺は、それを只、防御するのみ。所々に衣服やら皮膚は凍っている。加えて視界を奪うくらいの吹雪。正直かなりキツイ。

けど、俺は攻撃をしない。


「お前」


俺は、攻撃を必死に防御しながら、言った。


「本当は、こんなことするつもりなんかなかったんだろ?死神は人を殺さないんだろ?赤芽だってして来たことはともあれ、結局は、良いやつだったんだ。」


「何を言い出すの?私は、この日のためにずっとこの地にいた。」


違う。この子は、こんなことをするような子じゃない。


「だったら、何で、一瞬で俺のことを凍らせねぇ。やろうと思えば出来んだろ?それに、何でその鎌を攻撃に一切使わねぇ?」


冷凍攻撃も、俺がどれも避けられるほどのものだった。地面を凍らせたのも、()()だけを狙ったようなものであったし、何より、身動きが取れない俺に対して、鎌を使えばすぐに俺の体を引き裂くことなんか容易いことだっただろう。


死神少女は、黙り込んだ。


「……死神さん?」


一瞬の沈黙。


「……。何だか、殺る気なくちゃった。」


言うと、死神少女は、攻撃の手を止めてその場に静かに立ち止まった。


「戦わないのか……?」


「うん。もうおしまい。」


次第に吹雪も弱まっていく。粉雪だった。


ど、どういうことだ。

自分が望んでいた結果ではあったけれど、俺の言葉でこうもすんなりと。


「私が、もしも、女の子じゃなかったから、ちゃんと戦ってくれた?」


死神少女は、訊いてきた。


「……知るか。相手次第だったろうぜ。まぁ、けど、お前は容姿もそうではあったが、どうも殺意に足らなかったような気がしてたのはある。」


赤芽のような完全な殺意と威圧感、憎悪に欠けていた。

戦いにルールを持ち出すほど出しな。


「そう。女の子って、損だね。」


「そんなことないですよ」


ずっと噴水の裏で構えていた絆愛が俺たちの方へと歩み寄ってきた。


「おい、死神少女の作戦かもしれないんだぜ?まだ、気を抜くなよ。」


そう、戦意がなくなったフリをしているだけなのかもしれないのだから。

先程まで、殺す殺すと言っていた奴が、こんなにすんなりと引き下がるとも思えない。

高名の木登り、とは少し使い方が違うが、正にそんな感じだ。


「女の子は、髪型とかお洋服で、色々とおしゃれ出来ますし、レディースデーと言って安くお買い物出来たりするんですよ」


微笑む絆愛。

髪型、クセ毛でショートなお前が言うか。

レディースデーは確かに羨ましいよな。けど、死神には関係ないだろ。


——いや、そういうことではない。


「絆愛、コイツを疑わないのか?」


「こんなに可愛い子、疑うものじゃありませんよ」


さっき、見た目に惑わされるな——とか言ってたのはどこのどいつだよ。


「信用はしてくれて構わないよ。私は嘘付かない。死神は嘘は付かない。」


嘘は付かない、か。確かに赤芽も嘘はつかなかったが、寧ろ本音だらけではあったが。


「お前は三カ月もの間、俺達を殺すためだけにこの辺をうろついていたんだろ?だったらそんなにすんなりと引き下がるのか。」


「半分は嘘だし。」


「嘘じゃねぇかよ!」


早くも、嘘を付かないとか言う嘘をついていた。


「先代よりも強いって言うのも嘘。同じかちょっと下くらいなのかな。先代は死神の中でも、戦闘センスはあった方らしいからね。」


「それも、嘘なのかよ‼︎」


「好翔先輩、何だか最近、ノリが良いですよね?」


「気のせいだよ。暑さで少し変なテンションなだけだ。」


今は、雪のせいで涼しい、寧ろ少し肌寒いくらいだが。


にしても、こんなにもあっけなくコトが収まると、どうも調子が狂う。

もっと長期戦、かなりの死闘を強いられるかとばかり思っていたのだから。


「半分は嘘、貴方達を殺そうとは思っていなくても力を試してみたかったの。だから戦えるタイミングを伺っていた。」


「だから殺意は感じられなかった?」


「喜怒哀楽のない死神から殺意なんて感じるわけがないのだけれど。」


確かに、それもそうだった。


「そのライフルで、その凍った左手を取り敢えず、治癒して貰えば?」


「良いのか?」


「うん。」


死神少女は、すんなりと承諾した。


「それでは、行きますよ、好翔先輩」


「待て。近い。」


治癒道具とは言え、見た目はライフル。

ライフルの長さがぴったりと入るほどの距離感は、流石に気が引ける。もはやおでこに銃口がピタリ、だ。


「近いですか。少し、離れますね」


「そうしてくれ。」


絆愛が引き金を引くと弾丸が放たれた。


そうして、凍った左手に加え、それ以外の軽傷も、完治した。


「流石、死呪聖守(しじゅせいじゅ)の指輪。」


「それには、同意見だ。」


結局、俺は指輪の力を出せず仕舞いに終わったものの。


「で、話の、お前の言動の本質的には、何のために俺らと戦おうとしていたんだよ?力を試すためか?」


「結論はそう。」


結論は。

死神少女はそう言った。


「理由は何だよ?」


「イレギュラーがあったの。」


「イレギュラー、ですか?」


俺達の力を試す理由と、そのイレギュラー。イレギュラーとは、何のことを指すのかすら察しが付かないが、この子はすぐに説明してくれるだろう。


「それじゃ、答え合わせ。」


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