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追憶の天使  作者: 小河 太郎
【二章】『よしと≒死神』
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35.「雪降る猛暑」


恐らく、気象庁も、目をひん剥いて、開いた口が塞がっていない頃だろう。


一般市民も皆んなして、そんな顔をしているだろう。間違いはない。


俺も多分、そんな顔をしている。


「好翔先輩、どういうこと、何でしょうか……」


「お、俺が知るかよ。」


心優莉の、あの、UFOを呼ぶ儀式のせいなのではないだろうか。何て思い込みもはなはだしかった。


立っているだけで、座っているだけでも汗が滲んでくるような、猛暑日。今朝の最高気温は三十四度を予報していた。恐らく太陽が天辺を回っている今が、その最高気温だろうか。体感では、それ以上でこそあるのだが。

炎天の元、太陽が、コンクリートの地面を鉄板のように照りつける。目玉焼きくらいなら調理出来てしまいそうだ。

正に、そんな猛暑日、九月に入ったというのに引くことを知らない残暑の中で、——それは、俺達の目に映った。


映ったのだから、幻覚ではない。肌に落ちる、感覚すら、あるのだから。


太陽を次第に遮る、大きな雲が、それを連れてきたのだろう。



——雪。



あり得ない。

しかし、現状、現実に起きたのだから、信じるしかなかった。俺は、自分で見たものは、とことん信じるタチなのだから。


「単なる、自然現象、じゃ説明しきれねぇよな。地面に到達するまでに、溶けることさえしないんだぞ、この雪……」


俺と絆愛は、いつのまにかベンチから立ち上がって、少し先を突っ立っていた。


「……天使、の仕業とでも言うのですか?」


「それこそ、何でも天使のせいにしすぎって奴だよ。」


けど、それが一番、信憑性のある。

仮にそうだとして、だ。なぜ、天使は、この地に雪を降らした? 心優莉のあの儀式が、そうさせたのだろうか?


「天使じゃ、ないよ。」


ベンチから少し離れ、立ち尽くしていた俺達に向けて、発せられた声。振り返ると、そいつは、俺が座っていたベンチの、その場所に座っていた。


「私が、やったんだもの。」


「お前、が?」


レモンシロップのかき氷を頬張りなが、ベンチに座りながら、その少女は言う。


明らかに、人間、ではない。


見た目は、俺達みたく人間ではあるが、感じる物が違う。


「あ、貴女は何者、何ですか……?」


「うん。私?一言で言うなら死神。」


言った。—–その少女は云った。


「死神だと……⁈」


すると少女は、立ち上がった。

背丈は、絆愛と同じか、下手すればもう少し小さい。黒い耳あて、黒いマフラー、黒い手袋、黒い膝下ブーツを身につけている。完全防寒、と思わせれば、トップスは厚いとは言えない、真っ白なトレーナーのようなもので、それもノースリーブ。それもワンピースのように着こなしているため、上にも下にも、それ一枚きりだった。


「どんな衣装だよ、それ。」


俺は、つい口走っていた。


「特に意味はない。雪を使う以上、氷を使う以上、雪や氷使いますよーって言うような格好にしてるだけ。あとは動きやすさ。」


そう答えた少女改め、死神少女は、まるで感情のない、人形のような趣きだった。

そして雪は、こいつの仕業のようだ。


「それが、赤芽の言っていた、本来の、喜怒哀楽を持たない死神ってやつなんだな。必要以上の感情も、ともな。」


「必要以上、だから、感情がないわけではない。喜怒哀楽というものは、確かに備わってないけれど、かき氷、悪くないな、とは思った。」


何の感情もない、感想じゃねぇかよ。


「死神さん、やっぱり、目が、赤いんですね」


「うん、赤いよ。私だけ、片目だけなんだけれどもね。」


確かに、その死神少女は、赤芽とは違い、右目だけが、赤かった。(まぁ、赤芽の場合、右目が髪の毛で見えないから、たまにチラっと見えた、だけだけど。)


「お前、何しに来たんだ?」


「何でだと、思う?」


質問を質問で返して来やがった。


「俺達に用があるのは間違いないよな?」


「それは、そう。霊界より上の者が、この世界に貴方達以外、用のある者は、早々いない。」


それも、そうか。


「分かりました!冷やしに来てくれたんですね!あまりの暑さに滅入ってた私達を見て」


そうなら、滅茶苦茶ありがたいな、こいつ。


「違うに決まってるじゃない。」


まぁ、だろうな!


「シンキングタイムは終了。答え合わせ。」


シンキングタイムだったのか。


ただ、次にこの死神少女が口を開いた時、平和な会話をしていた俺達の空気は、まるで一変するものだった。


「正解は、——貴方達を殺しに来た。でした。」


「……は?」


「……?」


俺と絆愛は、黙り込む。

死神少女は、確かに、俺達を殺しに来た。と言った。

その無表情で、無機質な声色が、余計に言葉を直接的に脳に伝わる。


「あの、元ラビエル・ユリシオンが貴方達から離れるのを待っていたんだ。常に、どちらかの側には、いたからね。あの元天使。」


学校では、俺と同じクラスのため、夏休み中や家では、絆愛の姉だから、そう考えれば、確かに心優莉は必ず、俺か絆愛の側には常にいた。


「俺達を殺すために、心優莉は邪魔だと?」


「そう。()とは言え、大天使聖がいたら、殺りにくいから。」


そんな理由、なのか?


「だったら、俺だけなら殺せただろ?夏休みの間は殆どずっと一人だったんだ。」


「無力な貴方を殺しても、何にも面白くないし、復讐にもならない。二人仲良く一緒にあの世に送ってあげたいし。」


「……復讐ですか?」


「私は、死神番号で言う所の九番目。これでわかるでしょ。」


九番目、九番目って確か、赤芽と同じ。——ミカエルさんが言っていた赤芽の後任がこの少女、なのか。


「その顔を見たところ。察せた、のかな。」


「大体、な。」


「それじゃあ、答え合わせだね。」


答え合わせは、常にしてくれるのか、この子。


「私は、死神番号 九番目。貴方の父親でもある先代の後任。そして、そんな先代を地獄に送った貴方達に復讐するために、この場に来た。」


大凡、ドンピシャだ。

俺たちを殺すという理由は、かなり簡単だが。


「赤芽は、——先代は、天使にやられんなら、自分から俺達に倒されることを望んだんだぞ?」


「知ってる。そうみたいだね。けど、そんなのは関係ない。身内がやられているのだもの。」


俺も身内だ。


「先代は、一度しか会ったことなかったけれど、とても素晴らしい死神だった。死神の仕事を放棄したとは言え、一目で感じた。どんな死神の模範であると。」


「あいつが?あんな、自分の逆恨みで天使達を滅多斬りにしてきて、実の息子とその知り合いの姉妹にまで、手をかけた奴だぞ?」


「死神に持たずとする喜怒哀楽を持った時点で、死神として完成している。神様の固定概念を打ち破ったのだから。それに、過去の仕事っぷりを他の死神達から聞いた。どの死神よりも、一日で魂を霊界へと送っていたと言ったわ。」


「確かに、仕事は出来そうですよね、赤芽さん」


納得するんじゃない。


「そして、あの日、先代が現ラビエル・セラニエムに連れられて、地獄に向かう途中。私はあの方に会った。」


赤芽に、か。


「そこで、生まれて間もない私に、死神の仕事の基礎や、コツや効率を教えてくれた。そして——」


死神少女は持っていたかき氷のカップとスプーンを宙に投げると、自身の力だろうか。一瞬で、凍らせた。

そして、それが地面に落ちると、それは粉々に砕けた。


自分が、これを喰らったと思うと、恐ろしくも思えた。


「——そしてこれを、先代は私に授けてくれた。後任というこを公認してくれた証として。」


次に、死神少女が手に持ったのは、見覚えのある、見覚えしかない、幾多も苦戦させられた。


——優木 赤芽の所有していた、あの大鎌だった。




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