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追憶の天使  作者: 小河 太郎
【二章】『よしと≒死神』
35/47

33.「儀式」*


いよいよ、本格的に第二章が始まります。

第一章では、好翔の心情を重点に、心優莉にスポットを当てた物語でした。

心優莉について、天使について、事細かく語られた前回とは変わり、赤芽に代わる新たなる死神と共に、今回は死神の本質に迫る、そんなような物語となっています。

それでは。





俺の、母親は勿論、人間だ。だが、父親は違う。人間ではなく、死神だった。——だから、俺は、純粋な人間とは、呼べない、そんな存在だと自覚していた。


けれど、心優莉や、絆愛は俺が死神(そう)であった事実を知っても、俺のことを人間として受け入れてくれた。


俺は、そんな二人に、甘えていたのかもしれない。二人の前だと、俺は、自分のあんな過去や、半分は死神だということを、忘れられたのだ。


しかし、夏休みが明けたこの一週間は、そんなことを嫌でも俺に伝えさせる、——そんな運命様の悪戯だったのかもしれない。


心優莉が消失し、心優莉が天使だったことをしり、死神が自分の父親だと知った、あの壮絶だった無意識分を除いた三日間、事実上の五日間。それと同等か、それ以上の、——待っていたのは、そんな二学期だった。



(あち)ぃ……」

俺は、無意識にもそう呟いていた。


絆愛も俺が横でそう呟くのを聞いてか「暑いですね……」相槌をうつかのように呟いた。


雲一つない快晴である今日の天候は、屋上にいる俺達に容赦なく陽の光を浴びせてくる。


黒色のベストが余計に熱を吸収していく。


心優莉みたく半袖のワイシャツだけにしとくんだった。ベスト脱いだ所でエアコンや汗による冷え予防のために長袖腕まくりだが、今日ばかりは失敗した。俺は心の底から思った。


ちなみに、絆愛は、一学期のピンク色のカーディガンの代わりにピンク色のベスト。そんな色ばっか着てるから子供に見られるのだろうに。まぁ、着てなくとも見られるのだろうがな。


そんな屋上は熱気が余計強く感じられ、正に鉄板に乗った焼肉の気分だった。


「二人とも、お待たせ〜」


ガチャっと、屋上の扉が開くと、もはや当然のように元気よく現れたのは心優莉だった。


二学期早々、日直の仕事をこなして来たようだ。


もう少し、登場が遅れていたら、少なくとも俺は完全に暑さにやられていただろう。焼肉になっていただろう。


「んじゃあ、全く、乗り気じゃねぇけど、始めるか?」


「ですね!——お姉ちゃん、どんな内容なの?」


「とても、簡単な方法なんだけどもね」


と、言うと心優莉は、まず、俺たちにUFOを呼ぶ儀式のお手本を、実際にやって見せてくれた。


「両手をこんな風に、空に向かって上げて—」


ぴんと手を空高くに上げ、心優莉は何やら呪文のようなものを唱え始めた。


「あー、あー、こちら地球、こちら地球、応答せよ、応答せよ。こちら地球、こちら地球、応答せよ、応答せよ。」


何だろう、これは。


心優莉は、ただただ、その言葉を繰り返す。そうして、十五回を言い終えた頃だろうか、心優莉は突然、この屋上を——走り回り出した。


先程までの言葉はなく、無言で、ただ手は上げたままで、別に授業での長距離走とかみたく、反時計回りに周る訳でもなければ、時計回りでもない。言うなれば、家事やら地震やらを目の前にして、慌てふためく人のように、不規則的に屋上を駆け回っていた。——走り回っていた。


一つ、確実に言えること。


「馬鹿だ。」


「私たち、今からこれをするのですか……!」


絆愛も、さすがにこれには、躊躇(ためら)いのリアクションだったようだ。


普通の人ならば、それが、普通のリアクションなのだろう。


「よいしょー、まぁ、こんな感じだよ!これをUFOが来るまで繰り返すの!」


呆然とする俺と絆愛の前に、上げていた手を横に、気をつけで、立ち止まり心優莉は息切れしている様子もなく、一先ず、流れをやって終えた。


「……俺、嫌なんだけど。」


こればかりは、正直に云った。だって、——何だって、こんな暑い中、こんな馬鹿みたいに、あんな馬鹿みたいに、謎の交信を述べて、手を上げて、上げたままで、走り回るなんてこと、俺は——絶対に、俺は嫌だ。


「えー、何でよー。面白そうでしょ?」


面白そうじゃないから、嫌だと言ったのだけれど?


「私は、別にやっても構わないけれど!なんだか変わった遊びみたいで、面白そうだし」


……絆愛さん? 変わってんだよ。メチャクチャ変わった遊びだよ。躊躇してましたよね?


「正気か、お前。」


「私は、いつでも正気ですよ?」


ううん、なるほど。絆愛は、姉の前なら案外、躊躇することをしないのだろうか。内気な性格の割に、身内のそばだと結構自分を出すタイプなのは、前々から知ってはいたけれども。(にしても、だろ。)


「オーケーきぃちゃん!それで、好翔はどうするんだい?」


何で、おかっぱ頭な女の子のクラスメイトのリムジン通学のお坊ちゃん口調なんだよ。


「……見てるだけで、いいっす。」


こればかりは、本当に気乗りしない。乗り気なわけがない。


「もー、ノリ悪いなぁー好翔は。」


「だから、クラスでもいつも一人なんですよ」


待て、絆愛って、こんな毒舌だったか⁈ 姉の前だと、俺なんか怖くないってか⁈ 別に俺のこと、怖がっていた素ぶりなんか今までなかったけど。(嫌がっていたのは、何度もあったのは否定しないが)


「て、言うのは冗談ですけど」なんて、付け加えられても、全然可愛くもない。


「……わかった。走り回るのだけは、絶対にやらないけど、喋るまではやってやるよ。」


「まぁ、良いでしょう!私と、きぃちゃんで思いっきり走るよ!」


こんな儀式で、UFOなんか来やがったら、UFO研究家やらも、苦労しないだろう。月刊ムーの編集陣達も、喜んで、とっくのとうに馬鹿面下げて、こんな儀式をしていただろう。


と、いうかだ。こんな儀式、そもそも誰の考案なんだろうか? 心優莉はテレビの番組でこの儀式を知ったようではあるが、さぞ、売れない芸人やら、出だしの女優、俳優やらが、こぞって出演するような、名も浸透していない低予算番組なのだろう。

偏見だが。


仮に、中尾彬がこの番組に出ていて、中尾彬がこの儀式をやる側だったとしたならば、観てみたい気もしなくはないのだが、あんなねじねじな大御所が、そんなことをすることは、まずないのだろう。


そもそも、これは儀式なのか? ただの中学生の考えたおふざけにすら思える。(下手すりゃ、小学生レベルだ)こんなものを、テレビで、それも仮に、ゴールデンタイムでやっていたとなると、ある意味、テレビ業界に恐ろしいものを感じる。心優莉のことだ。きっとコント番組か何かを本気で、UFOを呼ぶ儀式だと思ったのだろう、と、俺は信じたかった。(寧ろ、その説が濃厚ではありそうな気がぷんぷんする。)


「そう言えば、殿様はもう少し裏声にもしていたっけ」


——その通りだった。その通りじゃねぇかよ。今時、殿様が出るテレビ番組なんて、バカがつく殿以外の何者でもないじゃないか。そういや、昨日やっていた。裏番組を観ていたのだが、CMの際にチャンネルを変えたら、やっていた。ていうか、昔からやっている有名なお笑い番組だぞ?それを、心優莉は、本気でUFOを呼んでいると信じこんだのか⁈


「まぁ、声まで限定しちゃうと、好翔、これすらもやらなそうだし、いっか。——それじゃ、準備いい?三人しっかり、声を揃えることが大切だからね!」


何にも、よくはないが、俺は、もう、何も言わない。言うだけ時間の無駄という奴だ。黙って付き合ってやろう。


これでも中身は、あの、四大天使聖の元ラビエル・ユリシオンだと言うのだから、本当に、わからない。

心優莉本人が、()()()の肉体だと、どうしても人間の頃と同じような感覚になってしまうと、言っていたけれど、にしても、だ。

五月のあの一件以前の心優莉とは確実に()()が違うのだから。表向きじゃ、一緒だったとしても、経験値が違う。何千年何万年もの間、この世界に存在していた大天使聖だぞ?


こんな能天気でも、それも、最高位の元天使なのだものな。(もう少し、人として落ちつくと思っていたが、考え過ぎだったのだろうか。)


俺は、そんなことを考えながら、心優莉と、絆愛とともに、十回、呪文のようなものを唱え、続けて馬鹿みたいに走り回る二人を、横目に見ていた。


挿絵(By みてみん)


こんな幼馴染が、俺の人生の救いだったのだと思うと、こんなその妹が俺の支えになってくれたのだと思うと、正直、複雑な気分ではあった。


(映像化したら、頭おかしい絵面なのは一目で分かるだろうな。)


そんな儀式を、十五回の交信、プラス、走り回りを一セットとして大体、十セットを終えた。


「うーん。来ないね。」


「こんなんで、来るか!」


実に阿保だ。


「何が、ダメだったのでしょうか?」


まず、根本的に違う。

心優莉に比べ、絆愛は大分息が切れているようだ。

運動能力の差。


「お前ら、汗だくじゃねぇかよ。」


絆愛は、いい、ベストも来ているし、何せ透けるほどのものがない。けれど、心優莉は、ベストを着用していないどころか、透けるほどのものがある。——胸にある。


「この暑さじゃ、汗くらいかくよ〜、かかない方がおかしい!」


まぁ、そうなんだけれども。


「心優莉、……お前、ベストか何か、着た方が良いんじゃねぇか?」


「えぇ〜、だってベストなんて暑いじゃない。好翔もきぃちゃんも、寒がりなんだよ。」


「一応、夏物なんだが。」


たしかに、俺も絆愛も暑がりか寒がりかと言われたら、寒がりなのだろう。六月の初めまで、パーカーにカーディガンを羽織っていた二人組だからな。

俺は、腕まくりこそしていたのだが、まぁ、寒がりだな。


「心優莉な、その、透けてるんだよ。若干。下着の色が、その、……若干。」


黒、または、ネイビー。ヘアピンとサイドテールに結ぶリボンと同系色と思われる。


(意外と、大人っぽい色だ。)


って、違う。何を解説しているんだ、俺は。


「大丈夫だよ、このくらい!海とかプールじゃ、水着 着るでしょ?そんなもんだよ。」


下着と、水着を一緒にすんな!何というか、こっちの方が、エで始まってロで終わる二文字。


「今日は、終わりにしよっか。熱中症になったらいけないからね! かき氷でも食べて帰ろ」


()()()。—–明日もする気かよ!


「それならさっき、かき氷の屋台が見えたんですよ!」


「おぉ!ナイスきぃちゃん!」


今時、屋台氷も珍しいな。九月だし。


「ったく、本当に、能天気な奴らだな。」


この儀式が呼び起こしたのだろうか、それとも単に偶然だったのだろうか。俺たちは、——この後、遭遇することになる。

予め断っておくと、それは宇宙人ではないけれど、——俺たちは遭遇した。確実に厄介と呼べる事案、事象、存在に。



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