32.「二学期の始業」
長い長いようで、過ぎ去ればそうでもなかったような、そんな夏休みが今年もまた、終わった。
九月一日の金曜日。
九月に入ったというのに、猛暑はとどまることを知らず、そんな真夏の残暑の中、雑音としか呼べない蝉の声が頭の中をこれでもかと、搔きまわす。
二学期最初の登校日は、素晴らしい夏空に、ずっと遠くに佇む入道雲が一つだけ浮かぶ程度。遮るもののない空から照りつけるのは、この世界を焼き尽くしでもするのではないかと言うほどに燃え盛る、真っ赤な太陽の日差し。
一歩、また一歩と歩みを進めるたびに、額から零れ落ちる汗の雫はその量を増し、俺は捲った袖で、定期的にその汗を拭くように額に手を回した。
暑さと二学期が始まると言う脱力感に只管、かられながらも足取り重く、俺は自分の通う学校へと長旅を終えた旅人のような気持ちで、ようやく到着することができた。(まぁ、徒歩十五分圏内なのだが)
あれ以来、これといって大ごとになるような事は起きておらず、俺自身も上手い具合に絆愛がそばにいる間は、無駄に馬鹿力になるようなこともなく、自分の力に自分自身、怯えることも無くなった。
所謂、普通の男子高校生として生活、出来ていた。
ただ、長年積み上げたイメージと立場がある以上、スクールライフ的には、特に何にも変わらなかった。
俺も相変わらず不良じみたナリをして髪は赤茶く染め上げ、赤芽から受け継がれた鋭く、印象は決して良くない、悪い目つきのおかげで、寄ってくるのは、相変わらず不良ばかりだ。
俺としても「今更、イメチェンしてもな……」というのが、本心でもあり、方向転換する気は今更、皆無だった。
流石に、いつものパーカーは暑いので代わりにベストを着てはいるが、校則にそり、しっかりと黒いものにしてはみたりと。
「よーしーとー!」
教室に入るや、すぐ様、馬鹿みたいに高いテンションで俺を呼ぶ声がした。
「げっ。」思わず、反射的に俺はそう発していた。
「おっはよー‼︎」
こんな真夏日に、見てるだけで暑苦しいほどのテンションで、駆け寄ってきたのは、一度は失いかけた大切な幼馴染である、深鈴 心優莉であった。だが、しかしだ。今、現在進行形においては、消えて欲しいと思ってしまったのが、本心だ。
「久しぶりだね〜、あ!でも、先週一緒に夏祭りに行ったばかりだね」
「お、おう。だな。」
夏休み前までの、腰のすぐ下くらいまでの長い髪をばっさり切り、輪郭に沿うようなショートボブになった心優莉だが、今更リアクションすることでもない。初めて出会った頃から夏になると毎年のように見る光景だ。
(個人的な印象もこっちの姿の方がしっくりくる感じは、あったりもする。)
本人曰く、夏は流石に暑いからばっさり切って次の年の夏にまた、まとめてばっさり切るようにしているのだと言う。
ぶっちゃけ、絆愛の唯一の特権のようだったショートボブを姉もしてしまうとなると、いよいよアレだ。絆愛は心優莉の下位互……
「おっと、よしと先輩……!それ以上は言わせませんよ……!」
心を読むように、心優莉の後ろからその下位互換が現れた。結局、俺は言ってしまった。
「好翔ったら、何てことを言うのよ!きぃちゃんだって可愛いでしょーが! 」
「んー。まぁ、そうだな。ロリコンには、ハマりそうだけどな。」
「今すぐに、指を切ってでも、この指輪を外したい気分です……。」
絆愛が、自身の左薬指を握りながら呆れたように言うと心優莉は 「ゴメンね。外れなくて」なんてきずなを慰めるように言い掛けていた。
あれから、死神みたいな奴と戦うこともなく、死呪生守指輪はさして必要としてはないが、俺にとっては、人を傷つけない点においては、とても重宝している。(絆愛にとっては、もはやアクセサリーの延長戦としか機能してないのだろうが)
俺は話を戻すように「まぁ、同じ髪型っつっても、心優莉は長い時と変わらずにサイドテールにしてるし、絆愛は、そのー、クルクルだから、差別化は出来るよな。髪以前にスタイルですでに——何だがな。」と言ってはみた。
「お姉ちゃん。なんで、好翔先輩っていつも、こう、一言余計なの……?」
「ふふ、昔から、あーだからね。あんな風に言っては、いるけど好意的に思ってる人にほど、あんな冷たいような言葉を吹きかけちゃうものなんだよ?」
「好きか、嫌いかで、言えば嫌いではねぇけど、違うな。」
前から言う通り俺は断然、姉派だ。性格こそ、たまにイラっとするほど明るいが、良きムードメーカーではあるし、人を差別化することなく平等に接する広い心の持ち主だ。そして何より、出るものは出て、引っ込むところは引っ込み、顔もわるくはない。以上。
ついでなので、絆愛の弁論もするとするならば、性格は、内気で人見知りだったりするので、割とペースを合わせ易く、先輩特権を使えば、割と言う事を聞いてくれるマメな後輩だ。
ただ、スタイルは、引っ込んではいるが出るものは出ず、だ。顔は姉に似て、美形ではあるが、くせ毛が目立つ。以上。
「で、俺に何か用か?絆愛まで、二年の教室に来て」
「用ってほどのことでもないけど、始業式終わったらさ、屋上に来てくれないかな!」
心優莉は、言った。
「屋上で何すんだよ?」
俺は、質問した。
「UFOを呼ぶのだよ‼︎」
心優莉は答えた。
あ、馬鹿だ。
「おい、絆愛。お前がついているにも関わらず、これまた、どういうわけだ。」
絆愛に近寄り俺は、問いただした。
「……それが、ですね」
*
「お姉ちゃん何見てるんですか?」
「きぃちゃん!すごいよ!UFOの呼び方だって! これ、明日やってみようよ!丁度、学校行くわけだし、屋上が空いてるでしょ」
*
「と、いうわけなんです」
とても、短く回想してくれてありがとう!
——じゃ、ねぇよっっっっ
心の中でノリツッコミしちまったじゃねぇか。
「心優莉、お前今じゃもう、天使の記憶あるんだよな?それなのに、こんな阿保みたいなことしようなんて、思ってんのか……?」
「確かに、天使の記憶はあるよ!神界での経験や知識は、確かに今の私には、ある!」
「うん」と頷く心優莉は何故か威張っている。
……だ、だったら。
「でも!UFOが存在するか否かなんてことは、教わったことなんてなかったから! 」
……。
言葉を探した。見つからなかった。
「宇宙……!それは、我々地球に住まう概念にとっては、正に想像を超えた、創造物……! 神様だって宇宙については、詳しくは知らないもの!私達が、理解しているのは、あくまで〝この世界〟のコトについてのみ!」
「と、言うようなお姉ちゃんの言述から、私はUFOを呼ぶ儀式の実行に同意しました!」
「……同意すんなよ!」
神に仕えた、たった四人の四大天使聖の一柱だった、ラビエル・ユリシオンが、こんな抜けた奴で務まっていたのかが、本当に謎だ。ただのド天然剥き出しな奴じゃないか。
こんな感じで大丈夫ならば普通の人でも、四大天使聖は、務まるのでは?だなんて思って仕方なかったが、心優莉の才を一応信じてはみた。
「そんなわけで、始業式終わったら、学校の屋上に集合ね!もちろん新校舎の方ね!」
なんか話しが実行の方向に向かっている。
「雰囲気的には旧校舎の方が、若干それっぽいけどな。」
「旧校舎の屋上は、換気扇とか、コーンも沢山置いてあって儀式で必須事項の走り回るなんてことがしづらいからね!」
なるほどな。って……どんな、儀式なんだよ、それ。
「それじゃあ、決定だね!」
「始業式とホームルームが終わったら放課後、屋上で待ち合わせで良いでしょうか?」
「異議なし。」
俺は、異議を申し立てた所で、どうせ心優莉が駄々を捏ねて付き合わされることになるのに変わりはないのだろうから、俺はもう何も言わなかった。
二学期の始業を感じさせる、学校行事の一つである、長ったらしい校長の時事ネタ混じりのしょうもない戯言に付き合い、これまたしょうもない遊びに俺は、付き合わされることになってしまうのだった。




