○△.「再来の日々」*
一章から二章へ進む前のちょっとした日常風景的なものを書き起こしたものとなってます。
私の名前は、深鈴 心優莉。市立間守ヶ丘高等学校、二年E組、机は五列ある内の窓側から数えて二列目の後ろから三番目。クラスでの役割は保健委員を一応やらせて貰ってたりします。勉強に追いつくことに手一杯なので部活には入ってません。
よし!ちゃんと今日も私は人間だ!
「お姉ちゃん先に行っちゃうよ〜」
未だ二階の自部屋でゆっくりと制服に着替える私に、下の階から私を呼ぶ妹のきぃちゃんの声がした。
「ちょっと、待って……。髪の毛が結べない……!」
私の朝は相変わらずにギリギリで、いつもきぃちゃんを待たせてしまいます。
髪の毛もそろそろ切り時かな。
また天使を経由して今度はしっかりとその記憶や経験も忘れずに脳裏に所有出来ているはずなのに、何故だかどうも人間の姿だと、これまで通りの心優莉になってしまうようで
「きぃちゃん、お待たせ——」
「お姉ちゃ——」
階段の最後の一段を踏みはずし見事に転びそうになった所を小さな体できぃちゃんは、支えてくれました。
「も、もう。お姉ちゃん階段くらいゆっくり下ってよね……!」
「えへへ、ごもっともです」
どうにも上手く行かないものです。とほほ。
そもそも十七年前に神様に転生させて貰った時からずっと、この身体自体が魂の馴染み辛い肉体だったのかもしれません。根本的に全面否定ですね。まぁ、記憶が吹っ飛んじゃうくらいなわけだしそう考えてもなくはないかと!
(神様が転生詠唱ミスったのも大分あると思うけど。)
玄関を開け、外に出ればずっと見慣れた道を歩き、私ときぃちゃんは同じ高校に登校します。
「そうだ、お姉ちゃん。今朝よしと先輩からLINEがあったんだけど」
「きぃちゃんいつの間に好翔とLINEの交換を!」
「あ、えぇと、お姉ちゃんに貰ったこの指輪あるでしょ……?これを身につけている以上、いつでも連絡取れるようにしなきゃだねって私からよしと先輩に……」
内気なきぃちゃんもすっかり成長したものです。前から好翔に心を開いてた感じはあったけれど、きぃちゃん自身から好翔に話かけることはあまりなかったのも事実なのですから。
「ふふ、せっかくその指輪もあることなんだし、付き合ってしまえば良かろうもん?」
「よ、良かろうもん……?
そ、それはないよ……! 好翔先輩は私のタイプじゃないし、あちらも私のこと子供としか見てないし……」
「そうかな〜私は、二人のこと見てて、とってもお似合いだと思ったけど」
「お姉ちゃんの方が何千倍もお似合いなんだけどね。好翔先輩も何やらお姉ちゃんのこと好きみたいだし、何よりお姉ちゃんも好翔先輩のこと好きでしょ?」
きぃちゃんは私にそんな風に聞いてきました。私の答えは決まっています。
胸を張って言います!
「勿論だよ〜好翔のことは大大大好きだよ! きぃちゃんのことも大大大好きだし!」
そう言うと何故だかきぃちゃんには「まぁ、そう言うと思ってたけど……!」
だなんて突っ込まれてしまいました。きぃちゃんは読心術か何かを習得したのでしょうか?
はい!そんなわけで学校に着きました。
いきなりの場面展開ですね!
私は三階にある自分の教室へ、きぃちゃんは二階の自分の教室へとしばしのお別れです。
「おはよ〜」
私は、いつも通りに教室の扉をくぐり誰に向けるわけでもなく一先ずの挨拶をしました。
「あ、心優莉ちゃんおはよっ」
私の挨拶にいち早く返事をしてくれたのは、クラスメートの百瀬 桜子、私はさくちゃんと呼んでいます!
そういえば、初登場なので、好翔が私やきぃちゃんにしてたみたく容姿の説明をしようと思います。
背は私と同じくらいで肩にかかるか、かからないかくらいのチョコレート色の髪の毛をいつも上の方で束ねるヘアスタイルで、おでこを常に出しています。そんなおでこがこれまた可愛いのです!
本人曰く「前髪が中々切れなくてねぇ、私としては短くしたいんだけども、事務所の人がうるさくて……」
というわけで、邪魔な前髪を気にならなくするためにそんな髪型をしているのだそう。
ちなみにアポなしで好翔の家に行った時に、好翔もよくそんな風にちょんまげ作ってるんですよ!好翔も前髪長いからね〜。
さくちゃんは、ちゃんと整えてるからちょんまげにはなってないけども、好翔は本当にびろ〜んって感じだから!カブトムシみたいな!
逸れました。さくちゃんの他己紹介に戻りましょう!さくちゃん実は流行りの女子高生読者モデルをやっているのです。それも若い子の知名度はそこそこで、うん、凄い!
なだけあって、顔も唇がぷっくらしていてとても可愛いし、スタイルも良いし天職だと思うのです。仕事の都合で中々学校に姿を見せないのが少々、寂しい気もするのですがね。
「お、深鈴おはー。なぁ、好翔まだ来てねぇか?」
さくちゃんとの会話に爽やかな笑顔でやって来たのは黒川 望夢、のぞむくんでした。
「好翔はまだみたいだよ。なんかきぃちゃんが好翔からLINE貰ったみたいでね、お昼には行くって送られて来たって」
「な?アイツ、起きてんのに来ないんかい……!」
「はいはい、ふりょーな悪ガキさんは行った行った。心優莉ちゃんとの女子トークに邪魔なんだから」
さくちゃんと、望夢くんはどうやら幼馴染のようで、幼稚園からの間柄なんだそう。
私と好翔は小学校からだから幼馴染歴では負けました。なんか悔しいかも……!
「望夢くん、好翔に何のようだったの?」
「それがよ、この一時限目終わって直ぐに隣の高校のそういう奴らが来るようでよ、その、喧嘩を。」
「望夢も良い加減そんな阿呆らしい暴力解決なんかやめて、大人しく勉強しなさいな〜」
さくちゃんが少々呆れた様子で望夢くんに言うと「俺は、何を言われようと喧嘩をやめねぇ!喧嘩が俺の生き甲斐なんだ!」と夢を語る漫画の主人公のように胸を張っていた。
「お互いに、変な幼馴染持つと大変ね。」
「そんなことないよ〜、賑やかで何より」
こうして、私の普通の一日は今日も始まった。普通が一番の幸せだなんて知っていたようで知らず、気付いていたようで、気づかないものなんだよね。
「ういーっす。」
教卓で屯しているとそう言い開いたままのドアをくぐって来る人がいました。
声の方に目を向けると、それはとても不機嫌そうにゾンビのようにフラフラと歩く好翔の姿でした。
「おぉ!好翔!」
歓喜の望夢くんを好翔はガン無視しました。
「好翔、おはよ!今日はお昼からなんじゃなかったの?」
私が元気よく聞くと「あずみさんが、今日は朝から家の掃除するから行って欲しいっつうから。行かなきゃ掃除手伝えって言われたし。」と大きなため息を吐いて好翔は答えました。
「手伝ってあげれば良かったじゃない」
さくちゃんが言うと好翔はまた答えました。
「掃除が何より嫌いなんだよ、俺は。だからこそ部屋も散らかさねぇし。」
「ふーん、でよ、好翔!話があるんだが!」
望夢くんが言うと、好翔はまたもや望夢くんをガン無視して、しれっと自分の席へと向かって行ったのです。
「望夢、あんた相当に優木くんに嫌わてんのね。」
「照れてんだよ」
さくちゃんに対して望夢くんは、笑顔でそう言いました。
「あ、そうだ、心優莉〜。ちょっといいか?」
窓側の後ろの方の席から好翔は教卓にいる私を呼びました。
「なーにー?」私は返事をしてすぐ様、好翔の元へ!
「お前ってさ、天界の天使とコンタクト的なこと取れたりすんのか?」
好翔は周りに聞こえないくらいの声量で私に聞いてきました。
「出来なくはないけど、どうしたの?」
「いや、それがよ。赤芽にどうしても言っておきてぇことが出来てな。」
そう言う好翔は、うっすらと怒りを隠しているように見えました。
「赤芽くんに? でも、赤芽くん、例の件で帰ったのは天界じゃなくて地獄だから、今の人間な私にはコンタクトは難しいかもしれないな。」
「それも、そうか。」
なぜ?と言わんばかりの私の表情を見て、好翔は勘付いたように話し出しました。
「赤芽のやつな。あのクソ親父、俺の赤ん坊の頃のアルバムの写真に、『クソ息子』って全部に書いてあったんだよ……。」
「あらま」
最初にあずみさんが掃除して出てきたアルバムの中身、友花さんと赤芽くんがいた頃の写真には全部にそう書いてあったのだそうです。
「あずみさんも、ずっとキョトンとしてるし、あんなこと母さんは絶対書かねぇだろうし……。」
好翔は大分ムカついているようで、「赤芽のクソ親父、もういっぺんあのパンチを喰らわせてぇ……」
かなり悍ましい表情でした。鬼の形相とはこの事ですよ!おっかないおっかない。
「あとよ」と、好翔はそう言い続けました。
「お前、語り手向いてないと思う。うん。」
言われてしまいました……! 確かに、私にはどうやら語り手は向いていないようでした。
ラビエルの姿だったらきっと素晴らしい語彙力で務められたのでしょうけど、やはり心優莉の姿だと、本調子も南無と言う感じのようですね。
やっぱり、一人称視点の語り手には好翔が一番だと思いました。
「と、言うわけで好翔にバトンタッチします!」
「は……?」
俺は、思わず吐露した。
(つか、もう入れ替わったんかよ。)
「それでは、皆さん、授業始まりますので、席に着いてください」
どうやら、一時間目は教育実習生の山口のようだ。とりあえずはゆっくりと寝られるようだ。よし。
「じゃぁ、また後でね、好翔!」
相変わらずの無邪気な笑顔で、心優莉は自分の席へと戻って行った。
こんなでも、一度は失くした日常なんだもんな。
俺は、不覚にも少しばかり微笑んでしまった。
ふと、窓の外を見やると六月も中頃だと言うのにマフラーに耳あて、手袋を付ける銀髪の少女が見えた。その反面着ている服はノースリーブのトレーナーのような物だ。
(コスプレかなんかか?)
俺の見たその少女の姿を俺は、忘れた頃に思い出すことになる。それは、夏休みが明けた最初の登校日の日だった——




