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追憶の天使  作者: 小河 太郎
【一章】『みゆり≒天使』
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31.「合縁奇縁」


五月二十三日から五月二十七日の間に起きた出来事。意識があった日だけを数えると、たった三日のことにすぎないが、それはかなり壮大で、今でも夢だったんじゃないかとも思うことさえある。


そんな夢物語から、俺は何ごともなかったかのように目覚めたのだ。


(はかな)く、(もろ)く、酷く残酷で、切なく、それでもどこか温かかった。そんな夢のような感触だけを片隅に、これまでと何にも変わらない、生活(にちじょう)がまた廻る。

今日も明日も明後日も明々後日も、生きている間中、一日が始まり、そして終わり、また始まる。そんな当たり前のようなことが当たり前ようにやってくる。


——そんな日が、帰ってきたんだ。


五月三十日の月曜日、その日はいつもの様に登校した。そう、いつもの様に気分で、だ。


その日に至っては、テスト一日目であり、そして何より、心優莉が戻って来てからの、最初の登校日だったのだ。


先週の火曜日の出来事、心優莉のことなんか、何一つとして覚えてなんかなかったクラス連中も、何事もなかったかのように、心優莉をすんなり受け入れ、しっかりと認識していた。

何事もあったのは、俺や心優莉本人なのだから、クラスの奴らに何事もなかったのは当然なのだが。



そうして今日、五月三十一日の水曜日。あんなことがあり、勉強なんかろくに出来やしないままで臨むことになった中間テストも終わり、クラス中がそれぞれにテストと言う名の重い荷が外れた開放感で包まれていた。


すぐに教室の中には、人一人として居なくなった。皆、溜まりに溜まっていた鬱憤を晴らすべく、それぞれ、すぐ様遊びに行ったり、今日の残りを思い切りとダラダラ家で過ごしたりと、各々なのだろう。


そんな俺は、まだ自席に座り窓の外をぼんやりと眺めていた。


清々しいくらいの夏晴れで、飛行機雲が飛んでいる。ただ梅雨入り混じりの空気だけがやけにジメジメとしている。この時期特有の天候だ。


たった一昨日まで、死んだり、死にかけたりの壮絶な体験がまるで嘘のようだった。


俺は、相変わらずに自分の世界に閉じこもっていた。俺には〝友達〟だなんて呼べる人間は誰一人としていないんだ。必要ともしていない。



——ただ



「えいっ!」


「おい、心優莉……。なんのマネだ?」


不意に俺に駆け寄って来た心優莉は、俺の頬を両手で掴むと、上の方へグイと引っ張った。


「表情が硬いよ、好翔!『笑顔』だよ!もし、心の底から笑えないって言うのなら、こんな風に『笑顔』のフリ(••)をしてみればいいんだよ?」


俺の頬を持ち上げたまま。


「形だけでも、そのつもりになれば、体がその気になってくれるから!まずはフリから!だからほら、笑った笑った〜!」


そう俺に言う心優莉は、いつにも増して満面の笑みだった。

本当に、どうしてコイツはこんなにも能天気で居られるのだろうか。


「わかったから、離せよ……」


「えへへ、下で待ってたのに好翔、全然降りてこないから戻ってきちゃったよ」


「好翔先輩! 早く行きますよ?今日こそはデラックスパフェを完食するんですから!」


「楽しそうだから俺も行くことにしたぜ!」


心優莉の後に続くように聴こえてきたのは絆愛と望夢の声だった。


「望夢も行くのかよ。お前はいらねーよ……。てかまたパフェ食いに行くのかよ……。飽きもせずに。」


「だって美味しかったからね!ほら!昼時で混まないうちに行くよ〜!」


「望夢が皆んなの分奢ってくれるんなら、行ってやるよ。」


「な、なんで俺が⁈ 皆んなの分までか⁈」


「黒川先輩の奢りですか!流石です……!」


「本当?望夢くんありがと!」


俺が何気なく言った冗談を鵜呑みにする望夢と、それを更に意図せずだろうが煽る姉妹。てか、絆愛の奴、いつの間に望夢に人見知りしなくなったんだ。

とは思ったが若干まだ見えない距離は感じるな。


「しゃあねぇな……、好翔の頼みとあらば俺が奢ってやるよ! 今日はテストが無事終わった祝勝会だ!」


祝勝会って……、まだ結果返ってきてねぇじゃねかよ。てか、奢りでいいのかよ。


「ほら、好翔。行こ?」


——俺に〝友達〟はいない


「あぁ」


ただ、俺には〝仲間〟がいる。代わりなんて決して用意することの出来ない、大切な仲間達が。


心優莉はいつも前向きな言葉を掛けては、自分だけの世界に閉じこもっているばかりの俺を連れ出してくれた。初めて会った時からそう、——ずっと



「お姉ちゃんは、やっぱりお姉ちゃんでした。天使の記憶が戻っても前と何にも変わらない」


「アイツはそういう奴なんだよ。あんなのが神に仕える四大天使聖の一人だって言うんだからな。」


「思えば、好翔先輩もお姉ちゃんも自分のことをよく知らなかったってことですものね。好翔先輩は死神、お姉ちゃんは天使」


「だな。赤芽が気づかせてくれたんだ。今じゃほんの少しだけ、感謝してるよ。全部の元凶でこそあったクソ親父だけどよ。」


一回、殺されたけど、まぁ……結果オーライなわけだし、なかったことにしよう。

アイツもアイツなりに苦労していたんだ。——実際、自業自得とは言え、俺と同じくらい、それ以上に辛い思いをしてきた訳だ。そんな赤芽が、キッカケを作ってくれたんだ。悪意しかなかったとは言え。


半分は死神であるこの俺と、半分は天使である幼馴染(みゆり)。そんな俺たちはこれから、その自覚を持って、新しく人間として生きていくだろうな。


「笑顔はまず、フリから、か。」


これからは、俺と心優莉は、それぞれが()()のフリをして生きていく。心優莉は兎も角、こんな俺でもフリをしていれば、上手くやって行けるのだろうか?


——人間として



「好翔先輩、何、にやけてるんですか?」


「……え、べ、別ににやけてねーよ」


「なんだ?好翔、変なコト考えてたんか?」


「ば、馬鹿言え。」


「ほーら!皆んな、早く早く!席無くなっちゃうよ!」


全く、俺が必死になって取り戻したかったのは、こんな日常なんだもんな。


そう考えれば、こんな俺でも、もう少しばかり笑えるのかもしれないな。


「ふふ、好翔、どうしたの?」


俺の顔を見るや、そう言って笑い掛ける、そんな幼馴染はやはり、俺の掛け替えのない存在だったんだと、改めて思わせてくれた。



天使だとしても、俺の幼馴染なんだからな。



———そして、同時に俺の



「いや、何でもねぇよ」



無事に一章、完結することが出来ました。

これも、少なからず読んでくれた方々のおかげです。これからも、陰ながら続章、続々章と執筆活動は続けていくつもりですので、応援して頂ければ励みになります。

一言でも感想頂ければ、参考にもなりますし何より僕としては、とても貴重なご意見にもなるので、頂ければ嬉しく思います!

一先ず、第一章をお読みくださいまして、本当にありがとうございました!そしてこれからも、未熟ながらも頑張って書きすすめて行くつもりですので本小説、作者共々よろしくお願い致します!

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