28.「一期一会—其の壱」
「なんて、圧だ……」
俺たちを取り囲んでいる天使の数は、ざっと三十は軽く超えているだろう。
どうやら、第七階級以外にも連れて来ているようだった。如何にも、モブって感じの奴らを差し置いている、—–十人程の天使達が、第七階級だろう。そして格別に種類が違う天使が一人。四大天使聖の一人だろうか。
「死神九番目。ようやく見つけましたよ。」
「やぁ、天使共、僕を見つけるのに一体何年かかっているんだよ、全く……。にしても、第八階級は君だけなのか?」
「貴方の代わりとなる九番目死神を、神様がお創りになった以上、無理に貴方を連れ戻す理由も、もはやありませんからね。ジブリールやアウリエルに手を焼かすほどのことではない、と言うことですよ。」
死神と話すその天使は、どうやら、第八階級の最高位、心優莉と同じ四大天使聖の一柱のようだ。
「なるほどね……。僕の番台の後継者。あの銀髪ロングの少女を模した子だったかい? 一度だけ見かけたことがある……。」
「と、言っても、ほんの半年ほど前に、その死神は生み出されたばかりですから、最近まで貴方の捜索をしていないことは、なかったのですがね。」
「殺すんだろ?僕を。いや、『消しさる』が正しいのか?」
「ま、待てよ。いくら何でも消すなんてことしなくたって……」と、自分の意見を言える話題だとばかりに俺は、突っ込んだ。
「口を包みしなさい人間。この方は四大天使聖が一柱。ミカエル・クロリオサ様で仰せられる」
話を切るような俺の質問に対して、別の一人の天使が割り入ってきた。
白く光る輪を頭に乗せ、合わせて両方横に広げたならば、身長くらいの大きさだろう翼を生やした、白髪の若い女性型だ。
絆愛は、「あの方が、第八階級の、ミカエル様……ですか」と緊張の趣きでいる。
「ジョフィエル。良いのですよ。九番目死神を見つけられたのも、あの方達のおかげでもありますし。」
俺達を庇うように言ったのは、先程から死神に語りかけていた、第八階級のその天使。
そして、正にその天使こそが、——ミカエルだと言う。その姿は、一際目立つ唯一赤に近い、天使の輪を頭上に浮かべ、天使として当然、翼を生やし、鋭くもどことなく優しい目、セミロングに毛先を軽くウェーブさせた、女性型の天使だった。
「優木 好翔様、深鈴 絆愛様、ですね? この度は多大なる貢献。神に代わり感謝を申し上げます。そして大変な迷惑を掛けてしまったことをも、お詫び致します。」
ミカエルと言うその聖天使様は、俺と絆愛の目を交互に見つめ、詫びと感謝を同時に述べた。
「俺たちはただ、自分達のためだけに戦っただけですよ。幼馴染を殺されて、どうすれば、また会うことが出来るのかって。それで死神と戦うことを決めて……」
「天界に戻って来たラビエルからも、お話は伺っておりますよ。とても立派だったと。」
「お姉ちゃんが……」
「立派だった……か。」
心優莉目線の立派とはどこからどこまで何だろうか。
ミカエルは再び、死神に目線を移し話を続けた。
「九番目。貴方をまもなく神の許可なくして役目を放棄し、人間、及び天使に対して多大なる被害をもたらしました。——わかっていますね?一先ずは、地獄に堕ちてもらいます。」
「ふうん。 君は閻魔の代わりまで務めるのかい。流石は神に最も近い天使、ミカエルだ。——けど、いいのかい?僕を生かしておいて。十分な重罪を僕は犯した。消し去るには十分な理由だろう?」
死神はそう言うと、今度は皮肉たっぷりと「君達、天使が僕の前で友花を消滅させたようにね。」そう言った。
ずっと薄い笑みを浮かべていた死神だったが。最後の一節を口にした時のその表情は正に、この世界にあるどんな物よりも、憎しみと憎悪で溢れ、とても悲しそうな、殺意に溢れた、そんな目をしていた。
無理もないだろう。ずっと目標のしていた、標的にしていた張本人が、そこに居るのだから。
「貴方を消しさるには、確かに、十分なくらい天使や、関係のない人間を天使と関連づけ、殺して来ました。それはもはや、数え切れないほど。——ですが、それでも貴方は、唯一無二の数少ない死神。更生することに期待しているのですよ。十いる死神が十一になるのに、越したことはありませんからね。」
「ふふ、まぁいいさ。今の僕はもはや俎上の魚だ。今更逆らうこともないさ。」
すると、また違う天使が話ながら、他の天使の列を退け、団円の中心にいる俺達に歩み寄ってきた。
「君は誤解をしているようだね。九番目。いや、今は、優木 赤芽の方がいいのかな?」
その天使は、輪っかと翼こそあっても、他の天使とは容姿が少しばかり異なり、魔術師っぽい見た目をした銀髪に、所々黒髪の交じる、お兄さん風な天使だった。
「アクラシエル……、何でお前まで。」
「面白そうだったからね。僕だって、こう見えても第七階級の大天使なんだ。」
ミカエルやジョフィエル、ほかの天使とは、どこか雰囲気が異なっていた。
そして何故だか——本当に天使なのか、と、疑いを持った自分がいた。
何というか、独特な雰囲気を持っていて、その瞑ったような細い目の内に、秘める何かを、俺は感じていたのかもしれない。何より他の第七階級の、どの天使とも違うオーラがある。
「よく考えてみなさいよ。ミカエルがそんな堕天使じみたことする訳ないだろう? ミカエルこそ、全ての天使の模範であるべき存在だ。死神を連れ戻す、だなんて理由だけで、人間一人の犠牲を惜しまない、なんてこと、すると思うかい?」
そう説明するアクラシエルだったが、「僕の場合はまた違うのかもしれないけど」と、最後に意味深な言葉を本人は、ボソッと呟いていた。
「だが、奴は、——ミカエルは僕の前で実際に。」
ミカエルは、死神の言い分に対し「それは、貴方がその人間との暮らしを諦め、霊界に戻って来てくれると思って、そう見せただけですよ。実際には、彼女はまだ生きているのです。」と冷静にも答えた。
「そ、そんなわけ……。嘘を付くなっ。だって僕は、あれから一度も友花のことを見ていない。」
「生きているは少し語弊があるでしょうか。そこは、勝手を承知での行為でしたが、彼女、優木友花にはあの時、消えてもらうフリをして、天使になって貰ったのですよ。ですから貴方が天界に戻って来さえしてくれたならば、いつだって彼女に会うことが出来た。」
「……友花が、天使に……?」
「勿論、彼女もそれは理解した上でのことでしたよ」
どうやら、俺の親は、もはやどちらも、人間ではないらしい。
いや、俺が生まれた時は、母さんはまだ、人間だったか。
「ミカエル。あ、……様。母さんは、天使となって生きているって言うんすか?」
「そういえば、貴方は優木 友花の息子様であられましたね。ということは、そこの死神の息子様でもあるということでしたか。」
「好翔先輩のお母様は今、どこにいるんですか?」
絆愛の問いに対して、代わりに口を開いたのは、アクラシエルだった。そしてその言葉は、ここにいる事情を何も知らない者たちの予想を裏切った台詞だった。
「今、——この場所にいるさ」
俺は、思わず「こ、ここに?」なんて、分かりやすく驚いた。
この場所に大勢の天使に紛れて、——母さんがいる?
「ほら、出ておいでよ!」
アクラシエルがそう言うと、俺たちを丸く囲んでいた天使達がぞろぞろと、道を作るように間を詰め始め、一筋の通り道を作った。
そして、その先には、一人の人。いや、
——天使が立っていた。
「と、友花……、なの、か?」
死神は、その先を見るや、その人物に対して問う。
———
「そうだよ……、赤芽くん!」
その人物は、本の少し、目に涙を浮かべながら微笑んでいた。




