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追憶の天使  作者: 小河 太郎
【一章】『みゆり≒天使』
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27.「阿吽の呼吸」


——こいつ


完全に絆愛を殺る気でいる。


「逃げろ、絆愛っ‼︎」


俺は、とっさに叫んだ。ただ、それは一足遅く。


「残念、おそーいおそーい。」と死神は、おちゃらけた口調で鎌を持った右腕に力を込めた。そして——


◆◇◇


死神が槍投げのように、その大きな鎌を直線上の更に後ろの方に立つ絆愛目掛けて勢いよく投げた。それは俺の真横を素通りし、狙い通りなのだろう、絆愛の腹をばっさりと切り裂いていた。


絆愛は声を出すこともなく、倒れ込んだ。傷口から溢れ出る、その真っ赤な血が何よりも致命傷だと言わんばかりだった。


「絆愛っ……! 大丈夫か……?」


いや、大丈夫ではない。先日の戦いの時よりも、その傷は深く、切り裂かれた部分はもはや薄皮でギリギリ繋がっているようだった。


「おっと動くなよ、息子。言ってなかったが、僕の鎌は、遠隔操作も出来るのさ。君が一歩でも彼女に立ち寄ろうものなら、直ぐにトドメを入れてやるまでさ」


俺は死神の根拠のない妄言を聞き入れるしかなく、絆愛の方を振り向いてやることしか出来なかった。


「最終的には、殺すだろ……。」


「ふふ、まぁね。背中に続いて、今度は大人しく腹を引き裂かれるとは、あの娘はなんて切りやすい。これで、君を治癒するべき者は使い物にならなくなった。ふふ、それも、あの娘の提案通りだろ?」


「しに……がみ……、それは、貴方……の思い違……い。」


「絆愛……、良かった。まだ話せるくらいの気力は残ってんだな?」


どこから声を出しているのか、蚊の鳴くような声で、絆愛は喉を震わせている。


「何で、お前、あんなこと言ったんだよ……!」


俺の呼びかけに「これで、良かったんです」と、今にも消えてしまいそうな声で言った。


そして絆愛がカーディガンのポケットから取り出したのは、俺を援護するためとは別にあった小型の拳銃だった。


「まだ、アイテムがあったのか。銃のサイズが変わったくらいで、今の君に何が出来ると?」


死神に言葉を返すことなく「先輩、役目は勤めました……よ。」と、絆愛は俺に言葉をかけた。


——役目?なんだ?


あの銃も恐らくは治癒系の銃?

絆愛が言いたいことは、援護役としての〝役〟を務めたと言うことなのか?


いや、だったら、その前に絆愛が言った前述とは矛盾がある。アイツはまだ何かあるような口振りで……


俺は、考える。絆愛が俺にかけたその言葉の意味を。

これが、理解出来るか出来ないかが、勝敗に直結するのだろうか?


(勝敗……?)


思えば絆愛が、何の考えもなく、死神に自分を先に殺すように促すなんてことは、しないはず。


死神は、今、あの物騒な鎌を持っていない。


——



俺は、閃いた。



——そうか、これは、この意味は



「好翔先輩、今のうちです……!最初で最期の……!」


僅かな気力を振り絞り、絆愛はそう俺に告げると、もう一つ、ライフルとは別にあった拳銃をそっと自らのこめかみに添え、引き金を引いた。


「あの娘、自殺……? いや、ライフルと変わらぬ性能だったら——」


シンと静まりかえったビル内を銃声の音が覆う。ライフルよりもずっと小さな銃だと言うのに、その残響はやたらに響いているように思えた。



———



最初で最期のスキ。



「絆愛の奴、なかなか考えたじゃねぇかよ」



——そうだ、絆愛が命がけで作り出してくれた一世一代のラストチャンス。



「いつの間に、僕の目の前に……?」



「——こんなスキをずっと待っていたんだ。終わりだ。何もかも、これで」



——確実で、最大で、強力な一撃を。死神(こいつ)



「赤い……目、それが——」


「——あぁ、これが、指輪が引き出してくれた、俺の力だ。」


俺の目は、まるで、死神のように——赤く染まっていたという。


◇◆◇



俺は今までの、どんな一撃よりも重い拳を、死神の懐へと入れた。


瞬間、小石くらいなら吹き飛ぶほどの爆風が打撃点より発生し、その衝撃波がフロア一帯に広がり、廃ビルの脆くなった窓ガラスなど、簡単に粉々にした。


死神は、そのまま後ろに飛んでいき、通過点にあった柱に強く叩きつけられ、そのまま意識を失ったように、その場に重力のまま、うつ伏せに倒れ込んだ。


「や、やりましたね。好翔先輩!」と絆愛は、小走りで駆け寄ってくる。


安堵の表情を浮かべる絆愛。破れた服の中から覗く肌は、しっかりと皮で繋がっている。


「あ、あぁ。本当にやったんだな……」


やはり、俺自身への身体への負担も、かなりのものだった。立っていることくらいなら出来ても、恐らく普通のパンチでさえ、今の俺には出来ないだろう。


死神はすぐに目を覚まし「何が、どういうわけ……だ?説明しろ。」と、少し苦しそうではあったが、狙い通り、殺さずに終われた。


「鎌だよ。お前が肌身離さなかったあの大鎌が、お前のそばから離れる時を待ってたんだ。あれのせいで、俺はやっと見出せた指輪の力を使った、最大の一撃をお前にお見舞い出来なかった。」


「私が、自分に当てて撃ったこの拳銃は、これもまた、治癒用の拳銃なんです。最も射程距離はライフルに劣りますし、スコープもなく、何より弾も一発限りですので、自己治癒用で間違いないかと思いまして、ライフルの大きさだと自分には向けられないですしね」


「ふふ、チートアイテムかよ……。」


チートアイテム。それは同意見。


「自己治癒は、それこそ一回きりみたいで、賭けてみたんですよ。命懸けで」


「絆愛がまさか、俺に渾身の一撃があるって気づいていたとはな。自分を囮にしてまで。

死んでたかも知れねぇってのに、正直そこまでやってくれるとは思ってなかった。」


「これでもサポート役なんですから!好翔先輩が鎌を警戒して、何か躊躇していたのは、何となく気づいたんですよ。」


「良かったな。僕が、直接手を下しに行かなくて。もし、鎌を投げて、ではなかったら、あのスキも出来る事なく君らは死んでいた。」


正にその通りだ。絆愛の無謀な行動のおかげで、ケリは着いたが、一歩違えば終わっていた。


「俺と絆愛が互いに信用してたからこそ、出来たことだ。」


「ふふ、絆……ね。僕の判断ミスだ。まさか、君があんなにも強力な一撃を隠していたとは思わなかったさ。正直、気を抜いていたのもあるがな……。」


「指輪の、心優莉のおかげさ。

お前こそ、自分の力を過信し過ぎたんだ。その慢心こそお前の敗因だ。悪く思うな。」


恐らくは、〝死神化〟それが、俺が指輪から、——心優莉から授かった恩知だった。


力を込めた時から、自身に掛かる不可を伴う一撃だったことを認識した。

筋肉はやたら気を張り詰め、骨の芯から圧迫されるのを感じた。多分、()()を長時間は愚か、短時間さえも維持することは、今の俺には出来まいと、確信した。

だから、——ほんの一瞬だけ、力を目一杯に集中させ、確実に一度で終わらせる他なかった。

その為、俺の腕をいくらでも切り放題やる鎌を、警戒するあまり、ありったけの力を込められずにいたのだ。


正に諸刃の剣。


「言ってくれるね……、息子。能ある鷹は爪を隠す。ふふ、君には似合わない言葉だけどね。認めざるを得ないようだ。」


この辺りで俺は、山程ある疑問を、ようやく訊き出すことにした。


「言え。お前が俺らを仮死状態にした訳と、こんな所に放置した理由を。」


俺の問いに死神は「良いだろう。どちらも理由は共通さ。」不敵な笑みを取り戻し言った。


死神の口から述べられた言葉は、全くの予想外、——いや、予想すらしていなかったため、予想外とは言えない。

その言葉は、正に予定外であり、心外だった。



◇◇◆



「——僕は息子、君に殺してほしかった……。それだけだ。」


「……え?」


その言葉に一瞬、耳を疑った。しかし、絆愛も反応が同じ所を見ると、聞き間違いではなさそうだった。


「結局、殺してはくれなかったけれど。」と、死神は呟くと「もう時期、第七階級以上の天使達が僕を消しにやってくる。大天使が束で来られたら、いくら僕だって勝ち目なんかない。」続けてそう言った。


「なんで、そんなこと、わかるんだよ?」


「気だよ。この場からでもわかる程に強大な気達だ。僕らの戦闘に気づいたんだろ。」


死神は語る。


「ラビエル・ユリシオン。優木 好翔(ゆうき よしと)の幼馴染であり、深鈴 絆愛(みすず きずな)の姉である、あの天使さ。アレを殺したのが僕の運の尽きだった。」


「お姉ちゃんを殺したとき……?」


「彼女から微かに天使の気を感じたんだ。だが、見た目もまるで人間で、魂も人間と化していた。

天使になったばかりの第一階級のが、人間に紛れていることは、よくあることで、最初はそう思ったんだ。」


「ただ、()()を殺した瞬間、溢れた魂の気は、まるでレベルが違かった。大天使とも違う。それは聖天使の気。」


「天使の記憶が無ければ、魂も人間だったってことか? それで、お前が肉体を殺したと同時に、心優莉、いや、ラビエルの魂は、記憶と共に本来の素質みたいなもんを取り戻した。」


「そう、その通りさ。いつも通りに、その場で魂も刈り取って、消滅させれば良かったものを、僕は唖然として、その魂を殺しそびれてしまったんだ。まぁ、聖天使の魂なんて所詮は死神でしかない僕に、殺せるかも怪しかったんだけれど。」


死神は続けた。


「で、直ぐに大天使供が動き出したさ。ラビエルが()()()()戻って来たんだから。

僕が見つかるのも時間の問題だろうってね。そして更に誤算だったのが、ラビエルの幼馴染が、自分が捨て去った息子だったってこと。それを知り、天使に殺されるくらいなら、いっそ、息子に殺されよう。そう思って僕は君に近づき、そして戦うことになるよう煽った。」


「それで、今更になって俺の前に現れた……と? だったら。だったら何で最初に戦った時、逆に俺たちを……?」


「僕だって、わざと負けるなんてことするつもりは無かったからね。単に君らの力不足だったってまでさ、ただ、あのまま殺すのも、勿体なく思えた。だから、最後のチャンスを与えた。それにあの天使にも会いたがっていたみたいだったしね。」


「だから、俺たちを殺しはしなかった? 」


「ラビエルに会えたなら、タダで帰ってくるわけない。それに賭けたんだ。仮死状態でなければ、肉体には戻ってはこれないからね。だから、肉体も大事にここに置いておいたのさ。

それでも君らの力が僕を倒すに足らなかったらその時は君達を今度こそ殺して、僕自身も死ぬつもりだった。天使に殺されるのだけは、プライドが許さない。」


死神は、死神なりの考え、だったのだろうが、それ以前に、とんでもなく迷惑な話ではあった。

死神が心優莉を殺しさえしなければ、こんなことには、ならかったのだ。


「何でしょう、この感じ。」


途端に、この建物の空気が一気に変わった。空気なんてものがまるでなくなったような、そんな空気。


「どうやら、来たようだね。」


「第七階級以上の天使達……か。」



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