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追憶の天使  作者: 小河 太郎
【一章】『みゆり≒天使』
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26.「治癒兵器」


思うように、指輪の力を引き出すことが出来ない。これでは、前回と何にも変わらない。


どうしたら、良いんだよ……。


そんな事を考えながら戦っていたばかりに、俺は既に左腕だけを残し、それ以外、手足は使い物にならなくなっていた。自然と脚から崩れ落ちた俺は、柱にもたれ掛かることしか出来なかった。


結局、この前と、何にも変わっちゃいねぇ。


◆◇◇


——万事休す。そんな時だった。


絆愛から、俺にもわかるほどの天使の気を強く感じた。


「絆愛の奴、まさか指輪の力を……?」


けど、仮に、そうだったとしても、絆愛じゃ死神(こいつ)には勝てない……。


「好翔先輩っ……! 私の想いです!受け取ってください!」


すると絆愛は、床に立ち膝をつき、指輪の力によって発生したライフルの銃口をこちらに向けた。


「そんな攻撃体制見せつけて、僕が大人しく弾に当たるとでも? 撃つだけ無駄だ」


死神の言う通りだ。いくら、心優莉の加護があるからって、あからさまな攻撃なんてすぐにかわされて——



「……⁈っ」



銃弾が鳴り響いた。鳴り響いた時には、その弾は見事に命中していた。



それは、——俺の額に。


◇◆◇


「僕が避けてもいないのに、外すだなんて、スコープ覗き込んでそれかい。それに、大事な好翔先輩に見事命中させるとは、哀れだな」


死神の哀れみに対して 「これで、良いんですよ……」と、絆愛は、らしくもなく、笑みを浮かべていた。


「バ、バカやろっ!絆愛……! 危うく死ぬ所だったろ‼︎ どこ見て撃って……」


って、アレ?


優木 好翔(ゆうき よしと)の傷が……」


触って確認すると、命中したはずの額には、弾の当たった跡すらなく、それどころか完全に言うことを聞かなくなっていた自分の体は、まるで生まれ変わったように軽かった。


「これって、どういう……」


後方支援型損傷治癒こうほうしえんがたそんしょうちゆアサルトライフル。私はそう名づけました!」


よくそんなネーミングが咄嗟(とっさ)に思い浮かんだと、褒めてやりたい。


「人を傷つけ、殺めるはずの道具を逆に治癒能力に特化した道具として扱う……か。さすがあの天使のアイテム。センスは悪くない」


テンプレのような、茶番なリアクションをしてしまったことが、とんでもなく恥ずかしくなった。


「特攻は先輩の特許ですから!私が全力でサポートします」


「無茶も承知の上ってわけだな。悪くねぇじゃねぇか。だったら自分の体なんか捨ててやるよ。」


——勝手に俺だけの戦いだと思い込んでいた。


けど、一人で戦ってたわけじゃないんだ。俺には、ずっと絆愛が、そして心優莉が付いていてくれたんだ。


「一発も外すんじゃねぇぞ?弾の制限はいくつだ?」


「任せて下さい!装弾数は三十発分です。替えがどうやらないみたいなので、それまでには何とか、死神をやっつけて下さい……! それに、私こう見えて、射的の腕には自信があったんです!」


一応、制限付きか。無制限だなんて、うまい話も早々にあるもんじゃないしな。


「三十発もありゃ、余裕だな。てか、射的って……、祭りじゃ、ねぇんだから。俺の動きにもしっかりついてこいよ」


「どうやら、好翔先輩の体のどこかに当たれば効くようですし、大丈夫です!」


それならまぁ、ほぼ不的中はないか?何て便利な銃だ。


「傷が癒えれば、またすぐにえぐるだけさ、回復が出来るようになったからって、勝った気でいるんじゃないか?基礎能力値が変わらなきゃ、何度やっても変わらないよ?」


「負ける気で戦っていたら、勝つもんも勝てねぇからな。」


俺は、今だに上手く使いこなせずにいる指輪を、そっと反対の手で撫でた。


心優莉……、教えてくれよ。どうしたら指輪(コイツ)は、俺に力を与えてくれるんだよ?


分からない……。決意はある。覚悟もある。心優莉を救いたい想いは絆愛にも勝るはずだ。


けれど、俺は今まで以上の力をまるで出せていなかった。


心優莉のやつ……、指輪を身に付けるだけじゃ、何の効果もないなんて、聞いてなかったぞ。


絆愛には、使えたんだ。何だって……。


「どうした?君だってその指輪の所有者だろ?死神の血をより強く出来る代物なんじゃないのか?」


死神は、俺の思考を読みでもしたかのように煽る。


「指輪の力に頼らなくとも、お前の醜い血なんかに、頼らなくとも、俺はやってやるさ。」


「ふうん。ふふ、僕が勝ったら、肩くらい揉んでほしいものだね」


心を落ち着かせる。指輪から全身で心優莉の温もりを感じとる。——それを俺の力の全てに出来たなら。


「まぁ、その前に息の根を止めちゃうんだけどね」と死神が言い終わるやいなや、すぐ様、死神は先手をかけてきた。


死神の出す、左フックを右腕でガードする。


「っっっっつ‼︎ 絆愛っ‼︎」その掛け声と共に、すぐ様入った大鎌の刃を、左腕で受け止めてはみたが、案の定、大量の出血と共に、袖ごと腕を削ぎ落とされてしまう。


「は、はい、先輩っ‼︎」と、絆愛は返事をし、すぐに態勢を立て、銃口をこちら側に向けた。


絆愛の弾が、俺の体の一部に命中すると、左腕はみるみる再生していく。

我ながら気持ち悪いくらいにスピーディー且つ従来よりも綺麗な腕になってにょっきりと。


「どっかの、緑色したナメクジ人間みたいな光景だな」


「言うな。」


予想していたのは、キラキラと切断面が神秘的に光ると、光の粒子が集まり、再び肉体を生成していくような光景かと思っていた。

しかし「ニョキッ」正にそんな効果音がぴったりで、一瞬で生えてくるその感覚が、実際問題、自分でも気持ち悪いと思った。


(なんで、この辺だけ現実味があるんだよ……)


それでも、これまでの死神が振う鎌に対しての警戒心も治癒が有ると言うだけで薄く、俺の攻撃も、もはや破れかぶれだった。


「てか、絆愛っ! 弾、あてりゃ良いってもんじゃねぇよっ……‼︎ ケツばっかバンバン当てやがって……‼︎ 個人的に気に触るから背中にしろ……‼︎」


「ですが、好翔先輩……‼︎ 先輩跳ねたりするんので、自然と背中より下に……っ」


俺と絆愛が、そんな呑気な会話をしているところを見やり「喋ってる余裕なんか、ないんじゃないの?」と死神は、相変わらずの不敵な笑みで言う。


「余計なお世話だよ」俺は、死神の煽りに臆することなく、言い返した。


死神が圧倒的な力で俺に傷を負わせると、絆愛が、すかさず銃弾を放ち、治癒と同時に、俺が今のありったけの一撃を込める。しかし、死神に当たる前に鎌で、手足ごと切り落とされるか先手で交わされるかの、そんな状況が続く。


(まだ……、まだ足りねぇ……。いくら治癒されたって、攻撃するこの俺の全開の力がこんなもんじゃ……)


治癒された分だけ、手足は再生され、体力も回復する。ただ、それは〝元どおり〟の体になるだけであり、決して〝パワーアップ〟する訳ではない。


故に、何度治癒されようが、それ以後の結果に変化はないのだ。


「息が切れてきたようだね? どうやら、傷は回復しても精神(なかみ)的にはどんどん弱っていくようだね」


図星だった。


「認めたくねぇけど、その通りみてぇだぜ。外見の外傷はなくなっても精神的疲労や、お前に傷を負わされた時の痛みが総合的に蓄積されて参ってきちまう……」


傷が治るとは言え、その時受けた痛みはとんでもないものだ。腕や足を切り落とされているのだから。

それに、外の傷が癒えれば良いということでもない。身体は万全でも、精神面が不安定になってしまえば、人間、それだけで『病』と勘違いをしてしまい、元気であるはずの体まで重く感じてしまうものだ。内面の疲労はその体にも直結していると言っていいだろう。心が病んでしまえば、勝手に勘違いし、身体にも影響が出て来てしまう。


『病は気から』なんて言葉があるが正にそれだ。


実際に、今までの俺がそうだった——


「——けど、あの頃の精神的苦痛に比べたらこんなもん比じゃねぇよ」


小学校に入学するや自らの価値観の違いで起こしてしまった例の一件。自業自得とは言え、学校に行きづらくなり、息辛くなり、生き辛かった。それは事実だ。


そんな中、心優莉に救われた。俺に手を差し伸べてくれた。そして、今回も心優莉に救われた。自らの犠牲も惜しまずに。あいつは、いつだって笑顔で。


だから、俺はその期待に、何がなんでも答えなくてはならない。


俺を支えてきてくれた心優莉のためにも、そして今、俺のために必死になって支えてくれている絆愛のためにも。


——俺は


「いくらこの手足を失くそうが、また記憶すら失くそうが、——俺は俺を救って来てくれた人のために、絶対に死神(おまえ)を倒す……‼︎」



——その時だった。


指輪が俺に語りかけてきた気がした。



◇◇◆



再び俺は、死神に拳を振るう。


一発、また一発と。しかし、何ら変わらず防がれてしまう。その度に手足は切り落とされて行く。挙句には上半身と下半身が離れ離れにさえなった。


床には、既に自分の体内の血量をはるかに上回るであろう血が、雨上がりの水溜りのように広がっている。


「君が臭い台詞を吐いてから少し、顔付きが変わった気がしたけれど、僕の気のせいだったのかな?進歩は皆無のようだ。」


「……うるせぇ。」


死神にスキさえ出来れば……。一瞬でいい、一秒で良い。あの鎌をなんとか出来れば……


()()()()()()()()()()、元も子もない——


俺は、死神に何とかスキを作らせようと、必死にフェイクすらかけて見るが、結局は見抜かれてしまう。


「どうした?何かしてやりたいようだが、僕には無駄だよ?」死神は見透かすように言う。


絆愛の弾も、もう時期底をつく頃だろうか。そろそろ動きを見せないと、本当に終わってしまう。


「死神さん……!こっちです!」


その時だった。ずっと後ろでライフルを構え続けていた絆愛が、声を大きく話だした。


「私を殺せば、すぐに決着が付くのではないでしょうか?回復する人が居なくなれば、直ぐに先輩はジリ貧になります……!」


「絆愛?お前、何言って」


大丈夫です、絆愛の表情は、俺に対してそう云いっているようにも思えた。


「なるほど、いい提案だね。うん。だったら——」


死神は、嗤う。微笑(わら)っていた。


そして、絆愛に、その真っ赤な血の気を帯びた目を向けた。


「天使の妹。望み通り、君から殺してあげるよ。」




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