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追憶の天使  作者: 小河 太郎
【一章】『みゆり≒天使』
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25.「覚悟と決意の証」


「好翔先輩……!」


私は、気づいたら、そんな風に声をあげていた。

私の視界を遮るように、好翔先輩と、死神が巻き上げたほこりは煙のようになり、この階中を覆った。


二人の話声と、拳をぶつけ合う音だけが聞こえる。


「大分、やるようになったじゃないか。と言いたい所だけど、まだまだだね。死神の真似事ですらない。」


「言ってろ。今は心優莉から貰った指輪がある。あの時とは、違うんだよ。」


「その割には、その指輪の力を使いこなせていないようだけど?前回と変わらず、全く君の戦闘力に変化がない。」


「っるせーなこれからだ」


ほこり舞う中、目を細める。


「見えた……!」


うっすらと、見えた二人の影。

今の、所は、この前の戦闘と変わらずに、完全に好翔先輩が死神に押されている……。


好翔先輩……。


「僕は、この大きな鎌を抱えてるんだ。左手、両足のみというハンデがありつつ、こうも余裕がある。だが、息子。君はどうだ?ハンデなくしても劣勢と見えるぞ?」


「その鎌がお荷物なのかよ? さっきからバンバン活用してんじゃねぇかよ。主力武器だろ。

ま、今にその余裕もなくなるぜ? 」


「言ってくれるね。そっくりそのまま返すよ!」


明らかな、はったり。

明らかな、力の差なのに、好翔先輩は、何とか喰らい付こうと必死そうだった。


もの凄い衝撃音と共に、地震が突き上げるような衝撃が、建物を廻る。死神のかかと落としが、好翔先輩の頭上を捉えると、その勢いで先輩は、脆くなった床を突き抜け、更に一階下へと落ちた。


「好翔先輩っ、大丈夫ですか⁈」


一フロア越しに出せる声を絞り出して、先輩の安否を確認する。


「こんくらい、大丈夫だ……! 叩き付けられた分、かなり衝撃やべぇがな……」


アリは、どんな高さから落ちても死なないと言う。

けれど、叩きつけられれば、空気抵抗はまるで変わる。いくら屋上から飛び降りても死ななかった好翔先輩でも、凄い勢いで叩き付けられたのならば、たったの一フロアでも、その衝撃はやはり、凄まじいものなのでしょう。


「息子、忠告するとね、気は抜かない方がいいよっ」


死神は四階の天井に足をつき、勢いよくその足をバネのように伸ばすと、好翔先輩が叩き付けられ、勢いよく空いた床穴から、好翔先輩目掛けて、落ちた三階へと突っ込んで行った。


「わ、私も下に降りなきゃ……」


停止中のエスカレーターを下っている時も痛々しい音がずっと聞こえている。


私も、何とか好翔先輩の役に立たないと……。


「指輪の使い方がイマイチ掴めねぇ……、このままじゃ、あん時の二の舞に……、どうすりゃ死神の力を最大限に引き出せる。」


「こんなものか、息子。期待していたが、正直ガッカリだ。何にも変わっちゃいない。君はあの天使に会って、それだけだったのか?」


「まだだ……。」


「どうやら、完全に、僕が圧倒していたようだ。今回も、君に勝機はもう無いに等しい。その体じゃ無理だ。」


「せ、先輩……」


好翔先輩は、壁にもたれ掛かり、両足と右手は骨折しているようにも見える。


あ、あんな一瞬で、こんなに……。死神の殺気も最初の戦いの時なんかよりもずっと……。



「完全に、デジャヴを覚えるよ。トドメを刺さなきゃね。残念ながら、完全に僕の期待はずれ、測り間違いだったようだよ。」


「ちくしょう……どうすりゃ、言いってんだよ……」


「死の狭間から無事生還、それも強力なはずのアイテムまで得て来たというのに、片時も僕を圧倒することが出来なかった。主人公補正もへったくれもなかったようだね。たった今、君を主人公に例えたことにも疑問を持つべき、か」


そう言って死神は、好翔先輩に向けて、あの大きな鎌の刃先を喉元に突き立てている。


「息子、最後に言い残すことはあるかい?」


先輩が、また死んじゃう……。


「まだ……だ。俺はまだ……、戦える……」


私に、出来ることは……?


「変わった遺言だ。死に際の台詞も、相変わらずだな。そんな風前の灯火で、君にはもう、何も出来ないよ」


私になら……。


「じゃあな、息子。今度はちゃんと、殺してやるよ」


———


『絆愛、いいな?取り敢えずは、手を出すんじゃねぇぞ? 俺が危なくてもあんな無茶はもうすんな。』


だからって好翔先輩を、このまま見捨てるなんて……


『きぃちゃんも何らかの能力が使えるようになるかもしれない!』


もし、本当にこの指輪に、私をもっと強くしてくれる力があるのなら……


私は、好翔先輩の役に立ちたい——


私の中にそんな力が眠っているのなら——


「……好翔先輩の力になりたい」


————



「この気配は……天使⁈」



「き、ず……な?」



——私は、願った。好翔先輩の力になりたい。誰かを救えるほどの力が欲しい。



深鈴 絆愛(みすず きずな)、何故あの娘から天使の気配が……?それに手に持っているのは、アサルトライフルか?だが、見たことない形状。完全オリジナル?」


「天使の気配……、アイツ、指輪の力を……?けど、ただの人間だぞ?何が……」


お姉ちゃんの温もりがする……。


とても温かくて、とても優しい、実際にお姉ちゃんに抱きしめられているような、そんな気がした。


言われずとも、体が自然と分かっている。指輪の力で引き出された私の力……。


好翔先輩の場合は、秘めている死神の力を最大限に引き出し、好翔先輩が望む限り、力をこれまで以上に弱めたり、増大させたりも出来るようだったけれど、私は、ただの人間(ひと)。——だからこそ、指輪が導いてくれたその力は、目に見える〝(カタチ)〟として、私の前に現れた。


アサルトライフルと拳銃がそれぞれ一つずつ。


私の好翔先輩を助けたいという、決意と覚悟が具現化したもの。



これなら———



「行ける……」



使い方……、見た目からして主力となるのは、恐らくライフルの方。装弾数(そうだんすう)は三十発分。見た目はいかにもライフルって感じだけど、色は薄い青寄りのグリーンな塗装で、持ったことなんかないけれど、本物の銃のような、重量感もまるで感じさせない。持った感じも私にピッタリフィットするような形になっている。


——?


「人を守るため、癒すための銃?」


指輪が私にそう告げた気がした。


銃は人を傷つけ、争うために生み出された武力兵器。でも、お姉ちゃんが授けてくれたこの指輪から導かれた道具。それでも銃なんて物騒だし、しっかり扱えるのか心配でしかないけれど、——今はそんなことも言っては、いられない。


「ほら、それを僕に向かって撃つんだろ?さっさと撃ってみたらどうだい? さもないと、君の大事な好翔先輩は、今度こそあの世行きだ」


死神にそそのかされても、今、焦って同様してしまえば、あっちの思うツボ。私は、前とは違う。お姉ちゃんの代わりに、好翔先輩を導いてあげられるのは、私しかいないのだから。

だから、もう私はどんなに怖くても臆しない。内気でひ弱な深鈴 絆愛(みすず きずな)は、今だけは、前向きでどんなことにも笑顔で乗り越えられる、そんなお姉ちゃんのような存在にならなくてはいけない。


癒しを司る大天使様(お姉ちゃん)が私に託した武器。


「絆愛……、もう、いい、やめろ。死神(こいつ)に殺されるだけだ……」


今回だけは、好翔先輩の気遣いにさえも反論してしまう。悪口にこそ反論はしていても、それ以外で、好翔先輩に逆らったことなんて今までなかったけれど、今回は、逆らう。



「とにかく今は、使ってみないことには始まらない……」



好翔先輩を救うための、反逆。



ライフルに、拳銃。二種類あるようだけれど、主力は、明らかである。拳銃は、ライフルと兼用で立ち動き、小回りを要する場合にライフルの代わりになると言える。


でも、指輪が創り出した物であるためか、前述の通り、ライフルに重量感は全くなく、あたかも銃の形をした発泡スチロールを抱えているような感じで、射程や威力、装弾数、スコープによる命中率などを総合しても拳銃は恐らく、弾がなくなった時の救済用くらいの感じだろうか。

しかしながら、入っている弾の数はたったの一発。日本のお巡りさんが普段腰に付けているリボルバーですら、五連発分はあると言うのに。

この拳銃も恐らくどこにもない、指輪特有の形状であり、装弾数は一発。兼用するにも、予備にしても、火力不足すぎはするけれど。

ライフルを含め、合計装弾数は三十一発で、替えはないようで、長期戦はかなり困難とみてよろしいかと。


無駄撃ちは出来ない。一発、一発を確実に命中させなきゃ、ダメだ……!



「よ、よし……!」





私は、咄嗟にスコープを覗き込む。




そして引き金を引き、弾丸を放った——




「これは、私の想い———」



好翔先輩に向けて——



私は撃った———




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