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追憶の天使  作者: 小河 太郎
【一章】『みゆり≒天使』
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24.「災会」


目が覚めたらそこは、見慣れない所だった。


「ん……んん?ここは、一体——」


自分の体に視線をやる。右腕は確かに治っていた。学校の屋上から飛び降りた時にできた、絆創膏越しの顎の擦り傷も、死神戦の他の負傷も、完治しているようだった。

ただ、服は所々布が破けていて、何より、染み付く多量な血の染み痕だけが、これまでの現状を酷く、物語っている。


どうやら、元の世界に戻っては来れたようだ。しかし、全くこの場所に覚えはなかった。


場所を探ろうと見上げると、天井はやや高めで、屋根には所々穴が空いている。その穴から陽の光が注ぎ込まれ、俺のいるこの場所を、薄暗く照らしていた。


どこかの廃墟、だろうか。鉄筋でできた柱が、一定の距離に並び、何本かは折れ曲がってたりもしている。

見る限り、床にもやや穴が空いていて、覗き込んで見ると下があるようだ。広さはおそらく立体的なデパートが一番近しく思える。天井の感じを見ると、ここがその最上階だろう。


「配線やら、倒れたカウンターやらが転がってるくらいか、後は、ハンガーとか、衣装ラック、か。足元も注意しとかねぇとな。そういや、絆愛の姿が見えねぇな」


心優莉が、しっかり俺たちを送り出せているならば、絆愛も戻って来ているはずだ。それとも肉体が同じ場所にいなかったということなんだろうか?


「にしても、何でこんな変な所にいるだよ。さっきまで居た幽界といい、目覚めて、はい、ここはどこでしょう。みたいなことは、やめて欲しいんだが……」


——本来いるべきは、学校の体育館か、精々校内か、その近所くらいだろう。


「先輩ー。好翔先輩ー」


絆愛の声だ。


「どこにいる?絆愛ぁー」


大声で呼びかけるが、この階にはいないようだ。


「下か」


止まっているエスカレーターを見つけると、俺はとりあえず下へ降りた。


『 4F』。下るとエスカレーター前の壁には、そう書かれていた。エスカレーターがある感じから、五階建てのデパートか何かの跡地と見て、間違いなさそうだ。


「あ、好翔先輩。ごめんなさい、上に置き去りにしてしまって。詳しい状況を調べようと思いまして、上から足音が聞こえたので起きたのかなーっと」


「置き去りにしたのかよ。起こせし。」


「す、すみません。先輩気持ち良さそうに寝ていたので……! ですが、私が目を覚ましたのも、ほんの十分くらい前ですし」


意外と、行動派だった。絆愛のことだから見知らぬ所を一人で、歩き回るなんてことしないとばかり。


「まぁ、いい。とりあえず場所は察しがついたろ?」


「はい。元々デパートか何かだった場所で、間違いはないかと、面影もそれなりにありますし。」


「俺たちの近所で、使わなくなった元デパートって言ったら、隣の駅前にある百貨店か。確か今、取り壊し作業中だったろ?」


「私も、そこで間違いないかと。死神さんが、私達をここに運んだのでしょうか?」


取り壊さなくとも、新しい店や、施設として使えば良いだろうに、何やら防災公園なるものに生まれ変わる予定らしい。

何より老朽化の問題もあったようだし、避難場所になるような場所が駅前にあるのなら、利便性もあり悪くはないのかもしれないのだが。

まぁ、隣町だから俺らには関係のない話と言うことに変わりはない。


「それしかねぇだろうよ。仮死状態にするわ、こんな場所に運び込むはで、アイツは何をしたいんだか……」


「どうします?一旦外に出ましょうか?」


「だな。こんな所にいてもしょうがねぇし、その方が良いかもしれねぇ。」


——その時だった。背後から第三者の声が聞こえた。


「どうやら目が覚めたようだね。優木 好翔(ゆうき よしと)深鈴 絆愛(みすず きずな)


俺と絆愛の前に現れたのは、音も無く、影に潜んで居たかのように現れたのは、——言うまでもなく死んだ魚のような目を真っ赤に染め上げた死神であり、俺の親父。その人だった。


「君たちを待っていたんだよ。特に我が息子である、好翔をね」


薄暗い建物内では、その瞳はやたら大げさに赤く光って見える。


「やっぱりお前、あの時、俺と絆愛を殺さなかったのか?」


「まぁね。理由はまだ言えないけど、お察しの通り、僕が君たちを殺すフリをして仮死状態にとどめたのさ。天使の妹はあんな真似さえしなければ生かして置いたのだけどね。」


やはり、俺の仮定は間違いなかったようだ。


「どうして、そんなことを……」


「はっきり言って、あの世で心優莉と再会して、こうして生きて帰ってこられた。お前と戦う理由はもうないんだ。出来るならこのまま別れるだけで済ませたいのだが」


「やっぱり、君は死神には不向きなようだね。まぁ、その選択肢も悪くはない。僕とて、君らの目的であった深鈴 心優莉(みすず みゆり)に再会出来たのなら、僕の邪魔をする理由もないだろうし、僕も君たちと戦う理由もない。」


妙な笑みを浮かべながら話していた。


「でしたら、もう……」


「だが、君らは僕と戦わなくてはいけない。最後に立ちはだかるは〝ラスボス〟ってわけさ。で、なければ、わざわざ仮死状態になんかせず、二度と肉体に戻れることのない、文字通りの死を与えていたさ。」


〝ラスボス〟その単語だけで、俺は全てを察した。


「ここまで連れてきたのにも関係があるんだな?」


「ここの取り壊し作業は、資材やら人員の問題で、五日後まで休みのようだ。そして隣町とはいえ、ある程度近場であり、人目に付かないという点で、血まみれの君たちを置いておくのには、都合が良かったのさ。それに最終的にはバラバラにされる建物だ。思う存分に暴れられるってわけ」


「初めからもう一度、戦う気で俺たちをこの場に運んだのか。」


「そういうこと。じゃあ、早速だけど天使から授かってきたその指輪の力、見させてもらうよ。」


「この指輪のこと、知っているんですか……?」


「そのアイテムは二人で初めて効果が出るんだろ?その点においては、天使の妹も巻き込んどいて良かったのかもしれないね。」


「……どこからどこまで知ってんだよ?」


死神には、俺たちが心優莉から、いや、ラビエル・ユリシオンから、何らかの武器のようなものを授かってくることを知ったいたかのような口振りだった。

そしてそれが、二人いて初めて効力を成すことすら、知っていた。


「さっきから、疑問形ばかりで返すなよ。どちらにせよ、この場所から去りたければ僕を倒さなくてはいけないんだ。今度こそ」


「その物言いだと、俺達に勝たせてくれるような口ぶりじゃねぇかよ。」


「まさか、勝負は勝負だ。殺す気で行くさ。そのニヤつき顔がぐしゃぐしゃになるくらいにしてやるさ。僕は、死神だぞ?」


勝負は避けられないようだ。死神がここに現れた時からすでに、相手は殺る気満々だったのも、感じてはいた。


「絆愛、いいな?取り敢えずは、手を出すんじゃねぇぞ? 俺が危なくても、あんな無茶はもうすんな。奴はあくまで俺だけを標的にしていた。今度もそうだろう。」


「わ、わかりました。好翔先輩……、どうか死なないで」


「俺を甘く見るな。『人間最強』だからな。屋上から落ちても死ななかった男だ」


「わかってますよ。 好翔先輩は最強ですから!」


自分に言い聞かせるためにも、はったりのような台詞を吐き捨て、今度こそは()()()()ためにも、俺は、気持ちを切り替えた。

後ろ向きな心構えを持てば、それは、もはや敗北の確定を、確定することになるからだ。


「ふふ、所詮は『死神最弱』ってことを分からせてやるさ」


「言ってくれんじゃねぇか、クソ親父」


——死神(コイツ)は、一筋縄じゃいかない。身をもって体感したからこそ、いっときの判断ミスが勝敗を決する。


「君にクソ親父呼ばわりされる覚えはないよ。クソ息子」


「今度こそ、終わらせてやるよ。」


「じゃ、今度は、僕から行かせて貰おうかな。」


「好きにしろ。」



その時、廃ビルの四フロア中には視界が奪われるほどの煙が舞った——




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