22.「死呪聖守の指輪」
死神の奴が何故、俺と絆愛を殺さなかったのか。そもそも、死神が仮死状態にしてやったのかも分からないが、——もし本当にそうだとしたら、俺たちを生かした理由が分からない。
——ただ
生き帰れるならば、こっちとしても願ったり叶ったりなのは、事実だ。
「生き帰れないこともないんだけど、今、好翔達が肉体に戻っても肉体の損傷が大きくて、動ける状態にはないと思うんだよね」
「たしかに、私は背中からばっさりえぐられて、先輩は右腕をちょん切られてますし……」
「おい、絆愛。生々しい言い方やめろ。」
そういや、——右腕、失くしたんだったな。今は魂だけだからか、ちゃんと右腕もあることだし、すっかりそんなことを忘れていた。
「そこでだよ!大天使ラビエル様の秘密兵器があるんだ〜♪」
「秘密兵器?」
すると心優莉は、着ている制服のスカートのポケットから指輪のようなものを取り出した。
「指、輪?」
「ただの指輪じゃないんだよ!『死呪聖守の指輪』って言ってね。私の大天使力を持って創り出した一級品の代物なのです!」
「へんな名前だな。」
「そのへんな名前の通り、死の呪いを聖なる力で守るぞー!みたいなものなの!プレゼントフォーユー!」
「指に、はめればいいんですかね。」
「身につけた所で、なんかメリットあんのか?」
「あるも何も、大アリだよ!身に付けておけば、死という概念を遠ざけてくれる、対死神用に作ってあるから耐性も十分なはずだよ!魂を、このまま戻した時の、肉体治癒もしっかりされて、傷が付く前よりいい感じになるかと。
それと力の制御もきくようになるの。だから好翔も必要な時以外は、普通の人みたいになれるってわけ。それに潜在能力も引き出してくれるから、前よりもずっと死神の力を使いこなせるだろうし、きぃちゃんも何らかの能力が使えるようになるかもしれない!」
「私も……」
「死神の力を、より……、そして、力の制御も、……か」
俺にとっては何よりも嬉しいことだった。ようやく普通の人間と同じになれる。それも必要に応じて今まで通りか、それ以上の力を発揮できるともなれば——
「すげぇな、これ!」
「好翔先輩が珍しく興奮してます!」
「私にかかればこんなもんよ!見直したでしょ〜?」
さすが、大天使様だ。そう思ったのも束の間。
「ただ、二人で一度付けたら死ぬまで取れないデメリットがあるんだけどもね。」
俺と絆愛は、とりあえず沈黙してみせた。
沈黙してみせると、言いたいことを取りあえず云うことにした。
「なんだその、地味に嫌なデメリットっ……」
「えへへ……、こればっかりはどうにもできなくてね。私の加護が付いてる分、変に外れないようになっちゃって〜……。それも二人とも薬指にはめないと効果も皆無。何にも発揮しない、ただの指輪も同然みたいなんだよね……!」
「く、薬指って婚約するときにはめる指だよね……? そうである意味って何かあるの……?」
「絶対ぇ、ないだろ……。なぁ、左薬指である意味は、本当にあるんだろうな?——右手の中指が確か、邪気をを払って逆に力を呼び込んで、自分の力にする的な意味合いだったろ?」
どこかで、聞いた覚えがあった指輪を付ける場所の意味。
はめるべきはそんな左中指ではないのかと、俺はそう思っていた。
「どうして、結婚指輪は、左手薬指にはめるか知ってる?左の薬指は事実関係はともかく、心臓に通ずる太い血管があるなんて古来から信じられていてね、命に最も近い場所とされているの。だから、——十ある指の中でも一番、神聖な場所として私達、天使や人間にも伝えられてきたことなんだよ!」
「命に一番近い……、そんな意味もあったんだな。」
「そう!そして『愛の進展と絆』これが、結婚指輪を左薬指に着ける理由。別に結婚していなくても、互いの愛を深め——そして絆を深め——なんて意味にもなるから、今回の場合は、後者!簡潔に薬指である理由を述べるならば、薬指には創造って意味も同時に存在するんだけどもね、それを交えると、『命の象徴である神聖なる指にその指輪を付けし時、互いに愛、絆を深め、同時に困難を砕く力を創造する。』これが薬指に指定した詳しい理由!」
言い伝えや迷信や、考えの問題でこそあるだろうが、信憑性に関しては十分、なのだろうか。
「思ってた以上にしっかりした理由があったんだな。愛は、絶対に深めねぇが、絆なら、まぁ。」
「……ちゃ、ちゃんとした理由があったんですね!」
「私だって、こんな大事な時に、ノリで左薬指なんかに付けさせるようなことは、しないよ……!さっきは、理由を聞かれなかったからさ……!」
そう言われると、俺は、絆愛のリアクションを見やる、絶対心優莉のノリかなんかだろう。的なことを思っていたに違いない。
いや、俺もそう思っていたかと言われたら、確実にYESと答える。
「癒しを司る天使である、私がこの指輪を授けるってことは、二人は新郎新婦であるも同然で、一生外れないのは、永遠を共にするってことでもあるわけ。そう!言うなれば、結婚おめでとう‼︎」
待て、それとこれとは、話は別だ。すぐに俺は、活力のないような感じで、口を開く。
「魂送列車トヤラハ、マダカー?」
「せせせせせせせせせせせせせせせせ先輩とけけけけけけけけけけけけけけけけ、結婚……っ‼︎」
対する絆愛は、やけにオーバーリアクションだった。
「二人共、分かりやすくリアクションを……。二人が互いを分かち合って初めて、指輪の存在意義が生まれるんだよ。つまり、常に二人一緒じゃなきゃダメ!半径一キロ以内に、お互いが収まっていないとそれこそ指輪は何の力も与えてくれない。」
有能なのか無能なのか。そんな指輪だった。今後のこと考えてもこの指輪が機能するのも、俺らが、学校にいる間くらいじゃねぇかよ。絆愛の家は、俺の家から一キロ圏内の近さではないのだ。
「お、俺にだって相手を選ぶ権利はあるぞ……!なんで、こんな上からツルペタストーンな毛先クルクル、ロリガキとそんなことを……!」
「わ、私だって、どうしてこんな目付き悪くて口悪くて、私に対して親切心のカケラもない、ただただお姉ちゃんラブな、なりヤン先輩なんかと……!」
「な、なりヤンとか失礼だろっ……!俺だって好きで、やってんじゃねぇしっ……!」
(てか、心優莉の前でお姉ちゃんラブな、とか言いやがった。」
「私そんな、ツルペタストーンじゃないですし……!ぬ、脱いだらちゃんと出てる所は出てるんですから……!着痩せするタイプなんです!」
「じゃあ、脱いでみろよっ……!子供の裸なんかなんとも思わねぇしっ……!どうせ、まな板なんたろ⁈」
「そ、それは流石にセクハラですっ……!お姉ちゃんがいる前で、何言ってるんですか……‼︎」
「ふふ♪ やっぱり二人はお似合いだね〜。お世辞なんなじゃなくて、本当にそう思うよ!こんなにお互いのこと言い合えるなんてそれこそもう、夫婦みた———」
「とりあえず、心優莉は、黙ってろ……‼︎」
「とりあえず、お姉ちゃんは黙ってて……‼︎」
——同時に言った。
「ハモるなんて仲良くても早々できないことを……!」
全く心優莉の奴め。やっぱりどこかしら完璧じゃないのな……。天使の記憶を取り戻しただけで、根本的には本当に変わらねぇ……。
「で、どうするの?お二人さん!」
指輪を付けないことには死ぬしかない。ただ、絆愛と一生腐れ縁のような関係になる。
——究極の選択だ。
もしも、この相手が心優莉だったら何の躊躇もしないのかもしれない。かと言って絆愛のことが嫌いって訳でもない。ただ——
「絆愛。お前は本当に俺なんかでいいのかよ?」
「い、言い訳ないじゃないですか……!私だってこの先、好きな人が出来るかもしれないんです。」
「だよな。それはお互い様だ」
現状、俺が好きなのは心優莉だ。それは多分、異性としても。
「ですが、好翔先輩のこと……。私は、先輩となら、一生一緒になっても構わない。そう思ってはいます。」
「あぁ、俺もだ。別にこの先お前と一生を交わしたからって、何らかの支障があるかのかと言えば、違う。力が制御出来るったって、俺より強い奴を相手にすることなんか、今後もうないだろう。お前が近くにいる間だけでも、普通の人間のようになれるんなら、それだけでも構わねぇさ。」
「あくまで、表面上。ですよね?私からすれば、好翔先輩はお姉ちゃんの幼馴染。」
「あぁ、俺からしてみれば、お前は幼馴染の妹。」
俺と絆愛は、お互いの目を合わせると笑みを浮かべてみせた。
「俺とお前は」
「私と先輩は」
——いつまで経ってもその『関係性』に何の変わりもない——
「好翔先輩」
「そういうことだ。」
「好翔、きぃちゃん……。ふふ」
俺と絆愛は、いつよりも、真っ直ぐな目で、心優莉を見つめていたのだろう。
そんな、——幼馴染の成長に、——妹の成長に、心優莉は、同じく幼馴染として、姉として、心の底から嬉しかったのだろう。
「それでこそ、私が大好きな二人だよ!そう言ってくれるって思ってたよ!」
全く、本当に能天気なやつだよ。心優莉は。
そんな心優莉が授けてくれた特別な指輪。こっからが俺と絆愛の再始動と、なる。




