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追憶の天使  作者: 小河 太郎
【一章】『みゆり≒天使』
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20.「記憶のかけら」


「待て、詠唱(えいしょう)間違えた……?」


心優莉を転生させる時に唱える詠唱を神が間違えた?


「うん……!なんか、あともう一節あったみたいなんだよね。まぁ、普通は私達、第八、第七階級の天使がする様なことだから、神様が直々に詠唱することなんか滅多にないから忘れてたのも無理ないよ!」


そもそも、最高位、次最高位の天使が人間に転生しようこと自体が、異例だったのだけど、とも言った。


「まさか心優莉が天使の記憶を失くしていたってのは……」


「ずばり、それが原因みたい!こうして()()が死ぬまで何ひとつ覚えていないわけだよ!」


「おい、待て待て、そいつ本当に神なのか……?」


神だぞ?全知全能を司るんじゃないのか? 神だぞ?


「私達のイメージでは殆どが、ヒゲの生やしたご老人の容姿かと……」


心優莉、曰くだ。その神の容姿と言うのが。


「見た目に関しては、それこそ先のイメージに囚われてるって話だよ!私達は神様によって生み出され創られた時にはすでにその形だったからね。最も神様は自分の容姿を自由に変えられるみたいでね、私が知ってる神様の容姿は今現在のものだけなんだけども、ディーンナントカを金髪にして更にチャラい感じにしたのが、神様!」


「……神は何故ディーンになった。」


「うーん。もうディーンナントカが神様の格好してるみたいな感じだもの。」


「だったらディーンナントカさんがこの時代に現れて神様びっくりしたんじゃない?自分がいるー!って」


なんだよ、その質問。絆愛よ、まず、突っ込む所はそこではない。


「『ま、俺の方が百倍カッコイイからどうでも良い』とは言ってたね」


「神?神なのか?本当にそいつは」


何度でも問う。


して、どこのチャラ男ナルシストだよ。


「話を戻すと、この約束事があったから、好翔以外の人達、きぃちゃんでさえ私のことを忘れてしまう。なんてことになったんだよね。」


俺は、てっきり死神が心優莉を殺した時にでも——


「死神が記憶操作したんじゃなかったのか。」


「流石に死神くらいじゃ、ここまで壮大な記憶操作は出来ないよ。魂を送るための能力と人間を少しばかり超える力があるくらいだもの」


そういえば、天使の超規模の記憶操作には敵わないと、死神本人が云っていたのを、思い出した。


「じゃあ、私がお姉ちゃんの記憶がなかったのも……」


「うん。その神様との約束が、私が()()として死んだ時。人々の私に対しての記憶は一切失くなるってものなの。」


だから、そういうことなのだろう。


「私が天使の記憶が残っていた前提として、なんだけど、仮にも人間である私が、天使だと気づかれたりなんかしたら色々とまずいみたいでね」


普通に、人間として認識していたはずの人が、実は天使だった。日常生活において、その真相に気づいた時には、そりゃ、プチパニックか。もし気づかれた、気付いたその人が、ゲスな学者か何かだったら。そういうことを視野に入れての()()()だったのだろう。


「……なるほどな。けどお前がこのまま死ななかったとして、誰かと結婚して、家族を持ってたりなんかしたら、相手側にとっても色々と不備が生じたりしちまうんじゃねぇのか?子供からしたらいきなり母親がいなくなっちまう。」


「その時は、もうそのまま、好翔にも起こったように、私は元から存在していなかったことになる。だから残された家族も私が居たことさえ知らないってことになるんだよ。——だからこそ、私は記憶があれば結婚なんてことは避けたと思うよ!記憶を失くしていた現状を見るとあのまま生きていたら誰かと結婚とかしちゃってたのかな〜とは思ったりだけど……!」


好翔とか。だなんて、冗談も交えつつの説明だった。


「それで記憶、痕跡も跡形もなく消える。ってか」


物理的な証拠も消えて失くなる。そうか、だから出席簿には名前なんかないし、絆愛も生まれてからずっと一人っ子だったことになっていた、のか。


でも、可笑しな話だよな。普通、当たり前のように存在していたものが突然失くなったら、気づくはずなのに、——記憶というのは、こんなにも適当なものなのだな。


「そのせいで、私、大好きだったお姉ちゃんのこと……何もかも忘れちゃって」


「きぃちゃんは何にも気にしなくていいんだよ。私が天使だったばっかりに……」


心優莉が転生した先が、たまたま深鈴と言う家系に転生した。——ただそれだけのことのようだ。故に、もし仮に、そのラビエル・ユリシオンなる天使の転生する時期が違かったり、別の家柄だったとしたならば、絆愛の姉は正真正銘の単なる人間の『深鈴 心優莉(みすず みゆり)』だった。


逆にもし、そうだったのならば、ここに立っている心優莉は、どんな人物だったのだろうか。そんなことを考えてしまう。


「心優莉、お前が本当は、一体何者なのかは大体わかった。けど、一つだけわからねぇことがあるんだ。」


「うん?好翔。」


俺は、生唾を飲み込み、一息つくと心優莉、もといラビエル・ユリシオンに問いかけた。


「お前、どうして俺なんかをこんなにも好いてくれてるんだ? 初めて話しかけてくれた時からずっと……。どうして、こんな俺なんか。」


ずっと訊いておきたった。けれど、中々訊くことが出来なかった。


心優莉は、答える。


「今だからはっきりと分かる。きっと私のどこかに微かに残っていたラビエル・ユリシオンとしての、人を導く使命が、ずっと俯いているばかりの貴方(よしと)に寄り添って行こう。そう思ったのかもしれないのかな。」


これまでの話を訊く限りそう、そうは感じていた。ただ、——本当にそれが理由だったとしたら、少しばかり複雑な気持ちなことも否定できない。

微かに残る、残っていたかもしれない、天使の使命心で、俺にあんなにも親しくしてくれた。——そう思いたくはなかったんだ。


「けど!この気持ちは好翔に話かけた、あの時から何ひとつ変わらないよ!好翔のことが誰よりも好きってこと!もちろん、きぃちゃんもだよ!」


「お姉ちゃん……」


いつもの飛び切りの笑顔でそう言い放った心優莉に、絆愛はそっと微笑んだ。不覚にも、らしくもなく、俺も少しばかり、笑みが溢れていたのかもしれない。


「そうか。やっぱり心優莉は心優莉だ。ラビエル何とかって奴なんかじゃねぇよ」


俺の前に立つコイツは他の誰でもない。深鈴 心優莉だ。俺が探し続けていた大切な幼馴染(ひと)


「その、お姉ちゃん。話しは変わるんだけど、此処が俗に言う三途の川だったとしたら、私と先輩はまだ、完全には死んでいないと言うことなの?」


——確かに言われてみればそうだ。本当に死んでいたとしたら、生と死の間に見るはずの三途の川なんかに、俺と絆愛がいるのはおかしな話しだ。


「そうでもあると言えばそうだし、違うと言えば違うのだよね。二人は確かに死神によって殺された。二人がこの場所に居るのには別の理由があるの」


「別の理由?」


俺は首を傾げそう言った。俺たちがこんな場所に居る理由。


一体、何だって。


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