19.「ラビエル・ユリシオン」
「ラビエル・ユリシオン。それが私の天使だった頃の、本来つけられていた名前なの」
「ラビエル……か」
「うん。この世界は神様を創造主として頂点に置いていてね、私はその中でも神様に使える四大天使聖の一柱。癒しを司る大天使なんだ」
「大天使ってお前、結構すごい天使だったのか……?」
「ふふふ、まぁね〜。天使は全部で第八階級まであってだね」
心優莉は、云う。説明口調で——
「上に行くほど偉いって言い方もあれだけれど、人間社会で例えるならば、第一階級はアルバイト生、第二階級はバイトリーダー、第三階級から第五階級は正社員、そうは言っても階級によって立場が若干変わってくる感じかな。第六、第七階級が、課長、部長みたいな感じで、それで第八階級が一番偉い社長みたいなものって訳!」
「お姉ちゃん、天使界だと社長さん並みだったの……!」
「心優莉が、社長。それもたった四人の大天使の一人。」
な、馬鹿な……。
「まぁ、私もそこまで昇格されるまでは、長い長い道のりだったのだよ……!癒しの大天使が欠番になった時に、私が次期一柱に選ばれた時はもう、びっくり、びっくり!」
「欠番って、天使も格下げだなんてことになっちまうのか?」
「天界なんかと比べたら人間世界にあるどんな大規模な企業も小さいものなのだけどね、色々あるんだよ、天界でも。」
心優莉は世間の波について行けてない、どこぞのサラリーマンが語るように言うと
「それに私だって最初は第一階級だったんだからね!」
と、再び気を取り直すと自分の職歴を元気よく述べた。
「 誰でも最初から偉い訳じゃねえって訳だな」
まぁ、家柄によっては、何だろうけど今時、中々ない話でもあるしな。
「おぉ、そうだ!天使には二種類あってね、元々天使として生まれてくる者と、人間だった者が魂を洗われて天使に転生するパターンがあるのだけど」
心優莉は思い出したかのように言う。
「最初から天使として生まれたか、人間から生まれ変わったかってか。心優莉はどっちだったんだよ?」
「私は後者。人間から天使に生まれ変わる時のメリットは人間時代の記憶を忘れないことなんだけど、もう随分昔のことだったから、よくは覚えてなかったりなんだけどね……! 」
と、言うことは、心優莉は、心優莉以前に、また別の人間を経験していると言うわけか。
人間を経て、天使、そして心優莉。まぁ、元を辿れば、その初代人間だった時も生まれ変わった後、だったのだろうけれど。
「 私みたいな理に巡らされて、人間だったのが天使になって第八階級にまで上り詰めたのは、天使、人類史が始まって初めてだったそうなんだ、すごくない!?第七階級に行くまでは、名前なんかなくて皆んな、番号で呼ばれてたりするんだけど、私も苦労の甲斐あってラビエルと言う名を先代から襲名することができたのだよ‼︎」
「ドヤるなよ。」
「その云い方だと、元から天使として生まれた方々の方が優れてるってことなんでしょうか?」
絆愛の問いに「天使としての叡智を最初から持って生まれる訳だからね。人類繁栄以前の天使は大体がこのタイプで、最近は人類も沢山増えて、日々死せる魂も尽きないみたいだから、純粋な天使って言うのは、神様ももう随分お創りになさってないみたいだけどね。」と、これまた難しい言葉を連ねた。
「もう少し、わかりやすく言ってくれ」そうは思ったが、口にすることはなかった。どうせ、わからない。
「つーか、さっきから普通にスルーしてたが、神様なんて本当にいたのか?」
今更疑うのもおかしな話だが、神様まで居るとなると一気にスケールが大きくなるような気がした。
「もちろんだよ!——そもそも私が第八階級まで昇格したのに、こうしてまた、人間になったって話だったねそういえば……!」
たしかに、いつのまにか質問と全く関係なくなっていたな。天使が人間になるまでの話。それが本題だ。
「言ってしまうと、どうして私は人間になったかなんて、簡単な理由。同じ人間として、同じ立場から、人々を見守りたい。そう思ったから神様に無理言ってこうして、転生させてもらったんだ」
「お前らしいっちゃ、お前らしい理由だな」
「癒しを司る大天使なのに、上から見下ろしてるだけで人間、誰一人として導いてあげれたことなんてなかったからね。何が大天使だよ〜!って。基本的に地上を見守り、見回るのは、もひとつ下の階級だったりだからね。昇格のデメリット!」
——基本、四大天使聖は世界の秩序を上手く調節するくらいで、滅多なことでは人間に干渉することもないらしい。だが、心優莉は自らの立場で様々な闇を抱えた人々に救済を与えることを望んだようだった。
「そこで、神様に人間に転生させてもらう許可を得たのだ!なかなか苦労したけどもね……!何せ、いきなり自分に仕える大天使の一人が欠けちゃうだなんて神様もいい気はしないものね。埋め合わせを探すのもなかなか時間掛かるみたいだったし」
心優莉は続けて 「それでも、神様はある約束を条件にそれを許してくれた。」と、満足気に語った。
「約束?」
『一つ、転生後、汝は天使としての使命において、人々を救済へ導くこと』
『一つ、転生後の寿命、満八十歳を迎える、または事故における死後、魂は再びラビエル・ユリシオンとして帰す』
『一つ、人間として生きていた期間、干渉した人々の記憶から汝のいた記憶、痕跡は跡形もなく消失すること』
「三つ目、好翔先輩以外の、私を含めた人達からお姉ちゃんの記憶の何もかもがなくなった理由……」
「そう!好翔はどうやら『人々』に含まれなかったみたいで、記憶が失くなるか、否かってまでにタイムロスがあったみたいなんだよね」
「結局は人間として認められて死ぬ間際に記憶を失くしちまったってのか。だったら初めから失くせってのにな。」
そうしたら、こんな思いしなくて済んだんだ。もう、心優莉を失うなんて経験は、二度としたくはない。絶対に。
人間以上死神未満。今でこそ、ようやく実感湧いたこんな肩書きこそが、納得こそ出来ないでいた。人間よりも優れた身体能力を持ちながら、死神にはまるで劣る身のこなし様。況してや、死んだ魂を送るなんてことさえ出来やしない。
——中途半端。
「ん?でもお姉ちゃん。一つ目の神様との約束で『天使の使命において、人々を救済へ導くこと』ってあるけど、お姉ちゃんは天使の頃の記憶を失くしていたんだよね?」
この点においては、心優莉もまた、人間以上天使未満。そう言っても間違いはないのだろう。
——記憶こそなくても、人間として転生し、天使としての天性の才を持ち、世界の何もかもから閉ざされていた、——閉ざしていた、この俺を導いてくれたのだ。本人も無意識だったはずのうちに。
「あー……、それはだね……」そう言う心優莉の表情は、若干の苦笑いへと変わっていた。
心優莉が記憶を失くしていた理由。
ずっと、人間として何の疑いもなく、生きていた理由。
しかしそれは、なんてふざけた理由なんだ。と聞けば誰もがそう思うだろう、そんなクソみたい理由だった。




