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追憶の天使  作者: 小河 太郎
【一章】『みゆり≒天使』
19/47

18.「再会」


「先輩。この声……」


聞き覚えのある声だった。俺と絆愛は、振り向いてその声の主を見やる。


———っっっ!?


——声の主と目が合った瞬間だった。突然、バットか何かで思い切り頭を殴られたような、そんな激しい頭痛が俺を襲った。


「 ——っゔ!!!!?……」


「!? ……せ、っ先輩!? どうしたんですか? 」


まるでテレビ番組を次から次へと変えるように今日までの俺の様々な出来事の記憶が、フラッシュバックしていく。



——よしと!一緒に帰ろっ!


———みゆり……お姉ちゃん?そんな人知らないですよ。


————なんで誰一人、心優莉のことを……。


—————僕は絶対に天使を許さない。


——————死神を甘く見るなよ?たかが人間くらい殺すのに一秒もいらない。


————————なぁ?親父に殺される気分はどうだ?好翔。



「はぁ……、はぁ……」



そういうことかよ……。



やっと頭が落ち着くと俺は、——思い出した。幼馴染の、——心優莉の顔を見て、思い出した。このわけのわからない場所に至るまでを。


「……好翔先輩?」


「絆愛。俺達がなんでこんな所にいるのか、この場所が何処なのか、思い出したよ。」



そうだ、俺と絆愛は、死神に……。



———『俺達は死んだんだ。』



殺された。


絆愛に聞こえたのかわからない程の、息の詰まる声で、俺はそう呟いていた。


「好翔、大丈夫……?」


目の前の、ずっと探し求めていた、幼馴染は俺をそっと気にかけてくれた。俺も返すように言葉を紡ぐ。


「あぁ、大丈夫だよ。……心優莉……、やっと会えた。」


心優莉は、心配そうに俺と絆愛を見つめていたが、すぐに()()()()を見せてくれた。


「うん……! 好翔!」


何一つ変わらない姿。それはまさに心優莉、その人だった。それもそうだよな。こんだけ色んなことがあってもたったの一昨日ぶりなんだ。姿が変わってなくて当たり前っちゃ、当たり前だ。


「……きぃちゃんも、また会えたね」


「お姉……ちゃん?お姉ちゃん……!」


絆愛が、心優莉と目が合った瞬間だった。


「——お姉ちゃん。私、私、どうしてお姉ちゃんのこと……」


いよいよ堪えていた涙も、押さえきれなかったのか、泣きじゃくる絆愛は、心優莉に抱きついていた。


俺にあんな風に言葉を掛けてくれていてもやっぱり心優莉の妹だ。

俺相手とは言え、元から積極的に誰かの助けになろうとするだなんて、らしくないことだったしな。よく我慢したさ。


「ん?あ!好翔も抱きついてきてくれても良いんだよ?」


「……するかっ!アホっ!」


「えへへ……」


いつもみたく無邪気な心優莉だった。ただ、その笑顔は、どこか俺たちを歓迎していないようでもあった。


それもそうか——


「ここで好翔ときぃちゃんと再会出来たことは、嬉しい反面、やっぱり望まない再会、でもあるんだよね。」


「さっき、あの世と現世の間っつったよな?三途の川とも。」


「うん。これが本来の三途の川なんだ。私達がイメージする向こう岸でこっちを呼ぶ人なんかが見える程の狭い幅でもなければ、川でもない。船なんか浮かばない程の水位で、そんな水面に終わりはない。それが此処。」


「じゃあ、あの三途の川ってのは、」


「あんなの、誰かが勝手にイメージして作ったものだよ。それがねずみ算的に浸透していって生と死の狭間から生還した人は、この場所のイメージを勝手にそう思い込んでしまうってだけ!」


心優莉は、話を続ける。


「大体のイメージがあっても、同じあの世でも人によってイメージは、細かくは違ってたりするでしょ?漫画家の鳥山明の描くあの世と、冨樫裕太のあの世じゃ閻魔様の容姿でさえ違う。だから三途の川も水さえ有れど、実際にはこんなにも違う!大体、生死の狭間で見聞きしたことを鮮明に覚えてる人なんて早々にいないもの」


「そんな、ものなの、か?」


「そうだよ〜、人間って言うのは先の認識に囚われてしまう。まぁ、若干、天使達が記憶操作したりもしてるんだけどもね。この場所は、天界ほどじゃないけれど、神聖な場でも、あるわけだし。」


心優莉は、俺達に微笑みかけながら、説明口調で、更に云う。


「 例えば地動説なんかを例に挙げると、それまでは天動説。——すなわち地球を軸にして太陽やそれらの星々が地球の周りを回っている。そう考えられていた。でも、ガリレオさんは、その天動説を覆す程の地動説を唱えた。太陽を中心に地球がその周りを回っているって説だね。でもそれまで人々に浸透していたのは天動説で、ガリレオさんは、当時の技術面では地動説を証明する程の根拠を挙げることは出来ずに、愛弟子やニュートンを得て、ようやく地動説(それ)を証明することが出来た。今でもそれを認めないなんて天文学者さんもいるみたいだけどね。」


そんな長い説明を要約するように「それほどに人々にとってその概念がどれくらいイメージとして定着しているかってことは大切なんだよ!」と、心優莉は、俺達に伝えたかった本質部分を簡潔に述べた。



正直、驚いた。——いや、三途の川についてではない。心優莉が具体例に地動説と天動説を挙げたことだ。今までの心優莉ならば、こんな難しい話を例に挙げたりなんか出来なかったはずだ。


「それとね」と、心優莉は、俺達が話の内を理解し難いような表情でいるところを見るや——


「もっと簡単に言うと科学的根拠がないモノは先のイメージでどんな形にも変わっちゃうってこと。死神だって実際会ってみたらイメージと違ってたでしょ?実際の死神は人間の魂を刈るんじゃなくて、人間の魂を霊界に送ってくれるんだから決して恐れるべき存在じゃないんだよ。 あ、でも九番目……好翔のお父さんは、大きな鎌持ってたし、天使を殺すためなら人間も殺してたみたいだから、案外イメージ通りだったのかも……へへ」


心優莉のそんな追述に絆愛は、どこかで理解してはいるようだが、表情は固く、眉間にシワがより、閉じた口を真ん中に寄せていた。


俺でさえ、お手上げなのだから無理はない。大体、非現実的過ぎるんだ。俺は物語を作る想像力には、欠けているため、余計にややこしく思えた。


そうか、やはり心優莉は——


「お前、やっぱり天使、なのか?」


「……うん!」


「やっぱりか。俺の知ってる心優莉(おまえ)はこんな秀才じゃねぇもんな。」


「だとしたら、本当にお姉ちゃんが天使だったのなら私は、何なの?」


確かに姉が天使ならば、絆愛が天使でも不思議ではないが。絆愛自身、質問の趣旨も正しくそれだろう。


「きぃちゃんはきぃちゃんだよ!それ以外の何者でもない。私がちょっと特別な存在だったみたいなんだ。私が転生した先が深鈴家であっただけ。私が転生しなくても深鈴 心優莉(みすず みゆり)は深鈴 心優莉だった。きぃちゃんはその妹ってだけ」


「隠してたのか?自分が天使だってことを」


「ううん。知らなかったの、私も。死神に殺されて此処に来て、ようやく思い出したんだ、自分が天使だったってことを」


「ずっと自分が天使だってことを忘れてたってことかよ?それってどういう。」


「私が人間に転生した時に神様と決めた約束事があったのだけどね」


「約束事?お姉ちゃんと神様……の」


「そう!よし、ならば私が、『深鈴 心優莉』になるまでの話をしてあげよう!」


心優莉が心優莉になるまでの……話。


「教えてくれ。」俺は、ほんの少し間を空けて、言った。


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