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追憶の天使  作者: 小河 太郎
【一章】『みゆり≒天使』
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16.「追想の過日—其の参」


夏休みが終わり、二学期がやってきた。——周りを見渡すとやたらと色黒になってる奴や髪をばっさり切った奴、何故かキャラが完全に変わってる奴。様々だった。


俺は、と、言えば何にも変わってない。一学期となにもかも変わっていない。見た目も、立場も。


気がついたら深鈴を探している自分がいた。


自分から関わるなって言ったはずなのに。


目線は深鈴を見つけていた。髪の毛はショートカットになっていた。肩に付かないくらいのふんわりした感じでさっぱりしている。


ふと目が合った。勿論、深鈴とだ。


俺に気が付いた深鈴がこっちに向かってきた。


「よしとくん、久し振りだね! 元気だった?髪の毛、切ってみたんだよ?どうかな!」


——全然ノリは変わっていなかった。


「俺は、ロングヘアの方が好みなんだ。」


何まともに答えているんだ俺は。


「そっか〜。ま!でも直ぐに伸ばすんだけどね〜。夏は、暑いから毎年肩より上で切ってるんだ」


どうでもいいを、通り越して——どうでもいい。


そんなことよりだ。


「お前……、俺が夏休み前、なんて云ったのか忘れたのか?」


「ん?」


ん? じゃねぇよ。コイツ、頭のネジ足りてないんじゃないか。


「俺は、二度と近づくなって何回も———」


「忘れないよ、ウザいって言われちゃった時は正直、挫けちゃったもの!」


食い気味に、ただ、気強くではなく優しく微笑んで、深鈴は言った。


「だ、だったら……」


「それでも、よしとくんのこと、諦められなかったから!絶対にちゃんとお友達になるまで引かないよ!夏休みを跨げば、よしとくんも私のこと受け入れてくれるかなって。えへへ」


コイツは一体俺を何だと思ってるんだよ。別に俺を男として好きだから、何てことは深鈴に限って絶対ないだろう。そんな風には見えない。

だからと言って、たかが友達になりたいってだけでこんなにも何度も懲りもせずに……。


「お前……、馬鹿だな。」


「なんでわかったのっ……! たしかに勉強出来ないけど……!」


勉強できねぇのか。まぁそんな気はしてたけど。明るくて元気なのが取り柄って感じだもんな。


「そういう意味で言ったんじゃないんだけどなぁ……。」

俺は、呆れ気味に言う。


「ふふ、よしとくんのそういう所!いいと思うな〜」


「は?口が悪いのが、か?」


「うーん、それも個性?だけどそうやって正直に自分の気持ちを相手に伝えられるって所!気を使われるより断然清々しいもの!」


どこまでポジティブなんだ。いや、この場合ポジティブと言うのか? やっぱりただの馬鹿としか。


「その辺、お前もだよな、嘘なんかつかねぇタイプだろ?」


「わかる? 嘘つくのは嫌いだもの!自分も相手もいい気持ちしないじゃない!」


「時と場合によっちゃ、嘘付いた方がいい時もあるだろ」


自分のこの力。正直に言えるわけないんだ。今はあれが本気だったってことにはなっているのだろう。


「さすがよしとくんだね!大人っぽい雰囲気は伊達じゃないね!それと——」


大人っぽいか。

年相応かそれより下かもしれない同級生に言われてしまった。


「私のこと、『みゆり』って呼び捨てにしていいからね!私も『よしと』って呼ぶから!」


いつの間にそんな距離が縮まったんだ……?


夏休みと言う長期の空白なんかまるで感じさせなかった。


「だ、だれが呼ぶかよっ……バーカ!」


「あれ?よしと、ちょっと赤くなってるよ〜。 そんな顔もするんだ!」


なんだろう。


不覚にも悪い気はしなかった。


寧ろ俺が望んでいたのは、こんなことが当たり前の学校生活じゃなかったか?


照れ隠しだか知らないが、人当たりは良いとは言えず、一人の空間を作りだし、挙句はいじめられるようになり事件を起こす。結果的には本格的に誰からも近づかれなくなった。俺も更に人を避けるようになった。


そんなまま六年間、いや、大人なるまで、社会人になってからもそんな生活を送るのだとばかり思っていた。


この子はそんな俺に———





「さぁ、皆さん、席替えはどうだったかなー?新しいパートナーと楽しくやっていくのよ!あ、でも授業中は静かにねー!」


「まじかよ……」


「わぁ!やった!よしとと隣だ〜」


「今回は、くじ引きによって決まった席でやっていきますよ! もし嫌いな子でも神様のイタズラだと思ってこれをキッカケに仲良くなろうねー」


「神が本当にいるなら呪ってやろうかな。」


「へへ、神様って気が効くんだね〜」


「どこがだよ……」



「三年三組か。意外と同じ奴ばかりだな。初めてのクラス替えっつっても、こんなもんか」


「よしと!また宜しくね!」


そうか、心優莉も同じクラスなのか。このクラスも賑やかになりそうだな。俺は三年になっても相変わらずの立場なんだろうが。


「早速隣の席だよ!」


「通路挟んでだけどな。」


「ふふ、それでも嬉しいよ」


心のどこかじゃ、俺もまた、——嬉しかったのかもしれない。



「心優莉、やったな。また同じクラスだってよ。これで六年間お前と一緒ってわけだ」


「言葉と違ってなんで嫌そうなのっ?だけどもやったね!」


「お、おう。」


先生が気を利かせたのか、それこそ神の気まぐれ。イタズラなのだろうか。


「中学校は学区域的に同じなのは絶対だし、あとは同じクラスになれるかどうかだね!」


「もう、いいのだが。」


——そう言いつつも、心優莉と一緒にいられることが何より幸せに感じている自分がいた。それこそ言葉では否定ばかりしていたが



流石に中学ばかりは、クラス一緒にはならかったな」


「でも好翔!何やら少人数クラスが一緒なんだってよ!それだけでも嬉しいことだよ」


「俺の勉強の邪魔だけはすんなよな。」


「わかってるよ〜! 好翔には迷惑かけない!」


と、言いつつ俺に分からない所を質問責めしては理解しないと言うワンパターンな少人数の時間が待っていた。


二年生では少人数すら一緒にはならかったが、休み時間にはいつも俺のクラスの、俺の席に駆け寄ってくれた。


「わぁ、好翔?どうしたのその髪の毛……!」


「染めたんだよ……。この方が都合がいいと思ったんだ。」


不良を気取れば、より人が寄り付かなくなるだろう。そう思い進級を気に、赤茶色に髪を染めた。


「これは、これでいい感じだね〜。いかす〜」


こいつには女友達はいないのか。と言いたい所だが、俺と違って人望だけはある奴だ。


俺なんかと、こんだけ関わっていても、なお人望の厚い心優莉には、人を惹きつける何かがあるのだろうか。


——ただ、やたらに明るくて騒がしいだけの奴だと思うのだが。


普通だったらこんな俺なんかと仲良くしてるだけでマイナス評価になるに違いないはずなんだ。


「私ね、好翔と同じ高校に行くんだ!絶対に合格する!」


「お前じゃ無理だろ……。もう少し楽な所にしとけよ。最後に同じクラスになれただけ良かったろ?」


「それじゃ、ダメだよ!進学して離れ離れになっちゃったらなんか……なんかヤダ!」


「その語彙力じゃ無理だな。」



「好翔!見てみてー!新しい制服だよ!スカートの色がベリーグッだよね!」


「水色かぁ、悪くねぇんじゃん? にしてもまさか本当に一緒に入学式を迎えられるとは。」


「私だってやればできる子なのだよ!」


「早速同じクラスだし、お前の努力も増し増しってことなのか。」


「へへ、今、好翔とこうして一緒に居られてるってことが本当に幸せ!」


「……おう。」


——こんな台詞吐かれてドキッとしない男子はこの世に存在しないだろう。


ただ心優莉は、それを平気で口にする。恋愛感情ってものがないのか異性に興味がないのか、やっぱり馬鹿なのか。


それが心優莉って奴なんだけど。


「俺もだ」云いかけたが、そんな言葉、照れ臭くて言えるわけがない。


「大学も一緒になろうね!」


「高校の入学式も、まだなんだが……? それに俺、進学しねぇかもよ。」


「それじゃぁ、好翔の就職先について行くよ!」


「いい加減、俺離れしろよ……!全く。子供じゃねぇんだから。」


見た目は大人、頭脳は子供。飛んだポンコツ探偵だ。中身はてんで出会った頃と変わりないのに対して、その体と来たら見事にボンッキュッボンッなのだ。

純粋無垢でスタイル抜群で恋愛を知らないとか、いつか危ない目に合う気がしてならないんだよな。


「心優莉、やっぱり俺から離れちゃダメだ。」


「なんと!好翔もいよいよそんなこと言ってくれるようになりましたか!」


俺としたことが……。付き合ってたとしてもなかなか言える言葉じゃない。


「あー!いや、忘れてくれ。」


「え〜何で何で?すっごく嬉しかったのに?」


——いつの間にか、こんなにも距離が縮まっていた。


そんな幼馴染との、——心優莉との日々が何より楽しかった。


言葉では口にしたことなんかなかったが、心優莉は俺にとって、なくてはならい存在だった。


もしも心優莉が居なかったらと思うと、ぞっとしてしまうほどに。



大切な人。



———そう、大切な、幼馴染(ひと)だった。




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