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追憶の天使  作者: 小河 太郎
【一章】『みゆり≒天使』
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14.「追想の過日—其の壱」


俺は、——人間だ。そして、死神だ。


父親が死神で、母親が、人間。

俺は、そんな二人から生まれ、『例の件』を機に、正に悪い意味で、異端児として扱われてきた。


見た目や、心身の成長の仕方は、丸っ切り人間だ。——しかし、身体能力だけは、人間とはまるで違った。自分でも認めざるを得ない、可愛い言い方をして、()鹿()()。人間に対しては、正に強力無比だった。


俺の人生は、それだけで、狂いを繰るった。

まぁ、死神の血を言い訳にしても、自分で自ら墓穴を掘った生き方をしてきたのだがな。


俺は、必ず、()()()で間違える。そんな生き方をしてきた。


忘れもしない、小学一年生の頃に俺に対してのいじめに歯向かったが為、相手に重傷を負わせた『例の件』。俺自身、特異な力を認識するキッカケにもなり、孤独(ひとり)を余儀なくされた瞬間だった。


中学生に入り、幼心にも、どうせ人にも寄りつかれないのなら、いっそ不良のようなナリで格好付けて、やろう。

と、そんなことを思えば、今にも続くなりヤンの完成となった。人を傷つけたくない一心で、自分からも、人との関わりを避けていた面もあったというのに、喧嘩という名の、必然的暴力を振るう機会が増し、——俺は、すぐに、自分の軽い行いを悔いた。

いつ、死人が出るのやら、そんなコトを考えては、加減するよう、意識して喧嘩する日々だった。


そして、俺は、幼馴染を失った。自分の無力さに、その妹さえ失った。


——そして、俺も、死んだ。


——俺は、また、失敗したんだ。


◆▼◆


「はーい、皆さーん授業が始まるのでちゃんと席に着いてくださーい!」


そんな先生の声掛けに回りは一斉に元気よく返事をする。


俺は、元から席について居たため、特に何も気にせずにボケーっと窓の外を眺めていた。

桜がとても綺麗だ。新芽がチラホラ見える感じからもうすぐ見頃も終わるのだろう。


「それでは、教科書の十三ページ目を開いてください! 今日はここの音読をしますよー」


音読か、面倒くさいな。 なんでわざわざ教科書に書いてあることを声に出さなきゃいけないのか。


「それじゃあ、誰かにお手本見せてもらおうかなー? 誰にしようか」


俺を当てたりしたら許さないからな。そんなことを思った。


「じゃあ、心優莉ちゃん! ここの一行目から五行目までお願いします!」


「はーい!」


手を真っ直ぐに上げ、元気よく返事をすると、その児童は椅子を引いて、席を立ち上がる。


深鈴 心優莉(みすず みゆり)だったっけか。


めちゃくちゃ元気で明るい奴。それが第一印象だった。 ああいう奴は俺と違って、クラスの人気者になるタイプだ。一生関わらないだろう。


俺は別に友達を作ろうだなんて思ってはいない。何かの流れでそれなりの関係にさえなれば、それだけでいいのだから。


「はーい、心優莉ちゃんよく出来ました!ありがとね〜」


「えへへ、褒められた」



能天気な奴だ。



四時間目の終了を告げるチャイムが校内に鳴り響く。



「やっとご飯か……、腹減って仕方ない」


そう、独り言を呟いた矢先だった。


「おい、優木!お前、母親と父親がいないんだってな!」


いかにも絵に描いたようないじめっ子みたいな奴らが三人、俺の行く手を遮る。 リーダーっぽい奴がたしか、竹杉(たけすぎ)って名前だったか?


「手、洗いに行きたいんだけど。てか、それどっから聞いたんだよ」


「風の噂でな! で、どうなんだよ優木」


風の噂だなんてこの年齢にして、どこで覚えたのだろうか。とりあえずシカトすることにした。


「お前っ シカトしてんじゃねえよ! 図星だろ? なぁ?」


ズボシってどういう意味だっけか。 だなんて、当時の俺は考えていた。

てかなんでコイツ、こんなも口調が小一っぽくねぇんだよ。


「あ!コラ待て、クソ野郎!」


なんかあったら先生にちくろう。そうしよう。小学生の頃なんて、所詮、そんなものだ。先生にちくっておけば、基本的に相手は怖気付く。

子供にとっては、母親に次ぐ、鬼とし、恐るべき大人だ。PTAが黙ってはいないだろう。


この日は、特にこれ以上のことは起きなかった。


——来る翌日が来た。


もはや恒例のように、竹杉らが俺に絡んできていた。


「昨日はガン無視しやがって、俺を怒らせると怖えんだぜ?あぁぁん⁈」


いつのヤンキーだよ。俺は、そんなコトを思った。


「お前、そんなだから捨てられたんだろ?なぁ?ちげぇねぇや‼︎」


竹杉らは、言うと、耳障りな程に「ははは」と、高笑いもした。ラジオなら、軽くノイズが走りそうくらいの。


「捨てられたんじゃねぇよ。お母さんは死んじゃって、お父さんは行方不明みたいなんだ。」


「やっぱり両親いないんじゃねぇか!! ははっ!」


笑い声が一々、胸糞悪い。ラジオなら、もはや電波障害でもおこしたのではないかというくらいの音割れだっただろう。


「何がしたいんだ……。」


こんなちょっかいを毎日のように出されるようになった。


「アレだろ?お母さんはお前が嫌で自殺したんだろ⁈ お父さんはそうだな、これまたお前が嫌で家出って所か!」


「んなわけねーだろ! いい加減にしてくれねぇか? 毎日毎日、飽きもせず。」


「はぁ? なんで? だってお前みたいな奴、揶揄うの楽しいじゃんか!なぁ?お前ら?」


両親がいないことは俺だってずっと気にしていた。 両親の温もりをどこがで追い求めている自分がいる。コイツらは、俺のそんな気に漬け込んで、一体何だって言うんだ。


「お前みたいな奴はよ、いじめてなんぼだろ?特にクラスでも目立たねえ、そのくせ、人を見下すような悪い目つき。ムカつくんだよ?」


「目つきは関係ねぇだろ。生まれつきなんだからよ……!」


「関係あるんだよ、大体いじめってのはそいつの雰囲気とか見た目が気に入らねぇからするんだろ? お前がそうなんだよ」


——コイツら。


こんな偏見のせいで世の中の弱い者はいじめを受けてしまうのだ。同じ人間であるはずなのに、何故こうも、同じ人間同士で格差が出てしまうのだろうか。


「そうそう、その目だよ! いや〜、ほんとムカつく。」


俺は、不意に睨みを利かせていたようだ。

クラス中が何事かと俺に注目する。

誰かが、からかわれていたり、怒られていたりしたならば、気になって見やるのが人間ってもんだ。


けど、俺だって言われてるだけじゃ、たまったもんじゃない。先手必勝だ。 ここで俺がコイツを脅せば逆にそっちがいい笑いもんになるだろう。


(力には少し自信があるんだ。)


「なぁ?なんか言ってみろよ?あぁぁん? ぶちのめすぞ?」


もう我慢できなかった。


拳を強く握りしめた。



「——お前がな」



俺は怒りの感情に、身を任せてしまった。


(これがいけなかったんだ。)


教室のざわめきは、一瞬で悲鳴へと変わった。


「た、竹杉っ 大丈夫っ?」言ったのは、竹杉に付く二人のうちの一人。


——嘘、だろ……?


「だ、誰か早く先生をっ‼︎」

「ゆ、優木くん……?」

「何アレ、優木……」


俺としては、いくら感情に身を任せたと言っても多少の手加減はしたはずだった。——あくまで脅すだけのつもりだった。


竹杉の鼻の骨が折れたらしく、(大量に血を流していた。)それも粉砕骨折のようだった。


もし、本気だったら何らかの後遺症くらい、分けはなかったのだろうか?


大人の本気とは違う。六歳の俺の拳で、それも体感七割程の力で骨を粉砕骨折。


力に自信があったと言うのも、昔から硬いビンの蓋を容易く開けることが出来たり、腕立ても知らずのうちに百回は平気で出来ていたり、お使いに出た時なんかはお米やペットボトルがあった時もさほど苦労しなかったからであって。——けど、


(こんなことって)


父親がいなかったせいで、男なら誰しもこの年頃ならするだろう、相撲やら腕相撲やら力比べなんかもしたことなんかなかった。 だから気づかなかったんだろうか。


——自分は普通じゃない。初めて自分で自分の内にあった部分を知った。


放課後、両親の代わりに俺を引き取ってくれていたあずみさんが慌てた様子でやってきた。竹杉の両親も勿論いた。 何か揉めているようだ。かなり深刻そうに。


竹杉は、しばらく近くの病院で入院するようだ。(後遺症は、完全に否定出来ないようではあったが)命に別状がなかったのなら、本当に良かった。俺は、そんなことしか、考えてはいなかった。

この歳で人殺しのレッテルだけは貼られたくはなかったのだ。


同時に、俺はこの場に居たくなかった。 だから飛び出してしまった。


この日をキッカケに、俺はクラスの誰からも避けられるようになった。近づいたら同じ目に遭わされてしまう。そう思われても仕方ないだろう。


俺としても、これ以上は騒ぎは起こしたくなかったわけで、結果としてはこれで良かったのかもしれない。あずみさんとも自然と距離を置くようになった。


両親が居ないのも、本当はこんな俺を捨てたのかもしれない。だ、なんて勝手に思い込んだりもしてしまう。


完全に孤独だった。(こんな俺にはこれがぴったりなんだろう。)


次第に人と関わらない一番の方法は学校に行かないことだと考え、不登校になりつつあった。


だが、あずみさんや先生の催促で週一、二回は学校に行っていた。


夏休みまであと十日程のことだ。こんな俺に声をかけてくる奴がいた。


——こんな俺に。


「よしとくんは、カブトムシとクワガタどっちが好き?」


「は?」


突然すぎて、質問の内容もまるで意味が分からなすぎて、ついそんな反応をしてしまった。


「あ! 私、深鈴 心優莉(みすず みゆり)って言うの! ちゃんとお話ししたのは初めてだよね?よしとくん♪」


この子がこれから俺の人生を大きく変えることになるのは、——言うまでもない。


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