00.「何れ菖蒲か杜若」*
小説初投稿作品になります!
ご指摘やアドバイス等々、感想を頂ければ今後の小説活動の参考になりますので、一言でも添えて頂ければれば、幸いです!
ちなみに、*このマークが、タイトル横にありましたら、挿絵ありの内容となっておりますので、よろしくお願いします。
「ねぇ、好翔。神様っていると思う?」
「何だよ唐突に」
「質問の答え!」
——00.◆
俺の隣にいる彼女は、唐突に、突然にそんな突拍子もないことを口にした。
「俺は神とか、そういう類は信じねぇタチだからな」
俺の返答に彼女は、つまらないなぁと、息をするように言った。
先程から彼女、とは言ってはいるが、この場合の彼女とは、三人称視点での彼女なわけで、誤解しないでもらいたい。
単なる幼馴染だ。
「心優莉は信じてんのかよ?」
深鈴 心優莉、それが彼女の名前だ。
一見すれば、清楚な名前だが、清楚とは無縁である。
かと言って、不潔というわけでもなく、(一応女子なわけだし)やたら前向きで、明るいような能天気な奴、というわけだ。
「私はいて欲しいな〜って感じかな?
いないって決めつけちゃう方が面白くないじゃない」
「ただの願望じゃんかよ」
「結論はね」
こんな、悩みとか苦悩とか、全く皆無であろう心優莉に、神様にも縋りたいような、そんなことでもあるのだろうか?
俺は問う。
「別に、神様に助けて欲しいってわけじゃないのだけれど、いないよりは、いて欲しいでしょ」
「本当に願望でしかないのな」
まぁね、と、心優莉は無邪気な笑みを浮かべると、俺のほんの少し先を行き、歩道と河川敷を仕切る、膝くらいまでの低いコンクリート塀をバランスよく歩き出した。
どこかの体操選手、曲芸師にでもなるのか、コイツは。
「臆病の神降ろしって言葉があるでしょう?人々は、誰だって神様に縋りたいようなこともあるってことだよ!」
「お前からそんな言葉を聞くとは思わなかっな」
それと、と、心優莉はボソッと言うと、その足を止め、俺が追いつくのを待っているように、狭い塀の上で、爪先を器用に揃え、後ろで手を組み、背を向けていた。
俺は、追いつき、そして追い越した。
今度は俺の背後にいる心優莉が言った。
「——それじゃあさ、天使って信じる?」
俺は、立ち止まり、首から上だけを振り向かせた。
「神も信じてねぇような俺だぜ?
答えはさっきと変わらねぇよ。神がいない以上、天使の在否なんか雀の涙くらいの可能性だろ。」
川辺に咲く、菖蒲の花を揺らすように、風が優しく吹きつけると、彼女の長い髪をそっと靡かせた。
——どことなく
今日、この時ばかりの心優莉は、少しばかり雰囲気が違うような、そんな気がした。
「ふふ、そっか」
それもそうだね、と、塀から飛び降り、両足で地面に着地すると、再び心優莉は俺の横に並んだ。
楽しそうな笑顔を浮かべていた。
「普通は、男の人が道路側に立つものだよ?」
「お前が、自分から回り込んだんだろ。」
「それもそうだ!」
本当、彼女はいつも楽しそうにしている。
こんな、いつもといつまでも変わらないはずの日常の中を、毎日が初めて見る光景かのように、彼女は、心優莉は、とても楽しそうにしている。
五月初旬にしては、やや肌寒い帰り道。
段々と長くなりつつある日も、この時間になると、殆ど沈みかけている。雲に隠れ、この世界の裏側へと、沈んでいく、昇っていく。
俺と心優莉は、今日も変わらずにその道を歩いているのだ。
学校に行く時、家に帰る時、飽きるほどに慣れ親しんだこんな道を、
俺は当然のように何にも思わない。
心優莉は、何を思っているのだろうか。
少なくとも、何か楽しいことを考えているのだろうな。
この月、五月のちょうど下旬に差し掛かるくらいだろうか。
俺は、俺達のこんな日常は、終わり始まることになるのは、そんな頃だっただろうか。
しかし、そんなことを、俺は勿論、心優莉もまだ、知らなかったし、知るよしはなかった。
それは、俺の生涯にも渡り、未来永劫、引き剥がされることはない、業。
一難去ってもまた一難と、容赦なく、俺達の前に立ちはだかることになる。
神がいるならば、呪ってやろう。
天使がいるのならば、憎んでやろう。
こんな俺の、優木好翔の、どうしようもなく、どうしようもない、そんな運命を与えた奴らを。
「——ねぇ、好翔」
心優莉のその笑顔が、そんな笑い声が、そんな優しい声が、俺にとっては唯一無二の、——そんな存在だったのだ。