三話
シグナルとワニが学校に到着し、教室に入ると、中には既に数人の生徒がいた。
「おはよう。84,576番、87,125番。」
生徒の一人が二人を見ると挨拶をする。
挨拶を返すと二人はすぐに他の生徒と同じように自分の席に座る。教室を沈黙が支配する。
いつも通りの、日常の光景だ。生徒たちは全員、教室に入ると挨拶をして自分の席に座って何もしない。
勉強する事も、雑談する事もなくただ座っている。やるべき事もやれる事もないから。
学校は生活に必要最低限の事を知る為の、教室は平仮名や片仮名、数字を学ぶだけの場所なのだ。
それが当たり前で、誰も何も疑問を抱かない。それでも何かしたいと思う人はいる。
シグナルだ。みんなの知らない、自分の知っている事、思う事を話して意見を聞きたい。
学校の教室で雑談をする事自体は法律にも校則にも禁じられていない。『教室で雑談をする』という概念が彼らには存在しないのだ。
その上、必要最低限以上の知識を教える事は法律に違反する。だからシグナルは雑談をする気もないし、出来ないのだ。
しないのが当たり前で、もし雑談をしてしまえば法律に違反する可能性があるから。その後も続々と生徒が教室に入ってきては挨拶をして自分の席に座る。そして何もしない。
その生徒たちの中にシグナルの親友、はっぱの姿もあった。しかし、彼だけは他の生徒と様子が違った。
教室に入ると他の生徒の挨拶を無視してシグナルに近づくと、耳元で囁いた。
「放課後、話がある。誰かに聞かれたらお互い困るような話なんだ。うちに来てくれないか?」
シグナルは通常ではあり得ない状況に戸惑いながらも頷いた。
それを見るとはっぱも安心したように頷いて、次はワニに近づくいて同じように耳元で囁いた。
二人とも非日常の状況に驚き、戸惑っていたので、その時は気にしていなかったが、はっぱが口にした言葉は異様に流暢だった。それはまるでかつて存在した日本語のように。