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三十六話

兼憲の裏返った絶叫にも近い声で呼ばれた当人は満面の笑みで距離を縮める。

「元気にしていたか、金獅子くん。今はなんて呼ばれているのかね、かね。」

兼憲は質問を無視して、反対に守を問い詰めた。

「なんで守がここに居る!ここがどこだか知っているだろう。皇国神皇宮殿だぞ。」

「おいおい。なんで私が敵で現れてきた事が前提なんだよ。Non NAMEの危機を察知して旧友が助けに来たとか考えられない訳?」

「それを……本気で言っているのか、守。」

衛藤守は鮮血のように真っ赤なオーラを身に纏っている。

こんな禍々しいオーラを発する主が助けに来たとは、拓や凛でも思わない。

「まぁ、そうだよね。予想の通りだよ。私は君たちを殺しに来た。」

距離はどんどん縮まり、近づいてくる。

「……私がここで足止めする。遥、みんなを連れて本部まで逃げろ。これは……勝ち目がない。」

現Non NAME最強の隊長、兼憲がこんなにも弱気で、弱々しい姿を見るのは一同初めてだった。

遥は一瞬、何か言いかけたが、すぐに口を閉じ、言葉を飲み込んで頷いた。

「私たちならば彼の攻撃を防げるのではないか?奴がどれほど強いといえども、神の加護による攻撃であろう?」

現状を少しでも良くしようと七瀬、九鬼なりに考えたのだろう。

しかし、そんな分かりきった事を兼憲が見落とすはずがない。

「いや。朱師の力は神の加護ではない。神に対峙する鬼の力だ。」

「お……鬼の力……だと……。」

Non NAMEには伝わらなかったが、七瀬、九鬼には伝わった。

「それでは、神の加護で防ぐ事は叶わぬ……。」

「だから早く!」

しかし、兼憲も恐れるほどの実力者が黙って敵を逃すはずがない。

「行かせないよ。」

いつの間にか手にしていた刀身が真っ黒な剣で兼憲に斬りかかる。

一瞬の狂いもなく、丁度のタイミングで券を合わせて防いだ兼憲だが、ごうの衝撃に耐えきれず横の壁へと飛ばされ、打ちつけられた。

次の標的はその場にいる者を逃そうとする遥。

だが、遥も伊達にNon NAMEの副リーダーを務めている訳ではない。

全く慌てる事なく祝詞を唱え、守の刃が届くか届かないかのところで兼憲だけを残して消えた。


悲鳴と共に拓はNon NAME本部の作戦司令室に帰ってきた事に気がついた。

戦場ではないのに何故悲鳴が。

閉じていた瞼をゆっくりと開くと、確かに見慣れた作戦司令室の光景が広がっていた。

なのにそこはいつも通りの作戦司令室ではなかった。

「遥!意識をしっかり保て!大丈夫。絶対に助けるから。」

「私が痛みを和らげる。空けてくれ。」

「救護はまだか。早くしろ!」

飛び交う声と目にした姿で状況を理解した。

守の攻撃が届く直前に兼憲を除く全員をNon NAME本部に逃した遥だったが、遥本人は守の攻撃を避けきれなかった。

いや、後ろにいた他の人々を守る為に自ら盾となったのだ。

友理奈、七瀬、桜井に囲まれ、倒れたまま悲痛な叫び声を上げている遥の左肩を、真っ黒に輝く剣の刀身半分が完全に貫通している。

すぐに駆けつけた救護の医者によって遥は医務室へ運ばれた。

「結衣、遥について行ってくれ。拓と凛は報告とこのお二方、七瀬家当主と九鬼家当主の説明をよろしく頼む。」

桜井の指示通り、結衣は遥と共に医務室へ、拓と凛は桜井への作戦報告と諸々伝えるべき事を話した。

「報告します。……」


残された兼憲は鬼を纏う守と向かい合っていた。

しかし、双方ともに戦いを続けようとする気はない。

兼憲の手には剣ではなく”N”と刻まれたペンが握られていた。

対峙する守は先ほどまで持っていた黒い剣を背後へと投げ捨てた。

カランと音を立てて落ちた黒い剣は刀身を半分以上失っている。

「さてと。俺たちが離れ離れになってから今までの話をしようか。我々は戦うべきではない。どちらが強いのか興味はあるけどな。」

「ええ。私も守がいなくなってから強くなったんですよ。負ける気がしませんが、やめておきましょう。まずはそちらからお願いします。どうせ守はNon NAMEの動きを全て把握しているでしょうし。」

床に胡座あぐらをかいて座った守に近づいて、兼憲も座って向かい合った。


「御名答。そうだな、悲劇の日の話をしようか。あの日、俺は不覚にもエレクトに捕らえられてしまった。若干の疲れがあったんだろうなぁ。エレクト本部まで連れてこられた俺はまず皇国神皇に会った。正確に言うと師家の当主四人と皇国神皇に、だが。あの時、俺は何を考えていたのか分からない。護衛を一人も付けていなかった皇国神皇を斬り殺したんだ。師家の奴らに護衛はいたが、皇国神皇を守ろうとする素振りはなかった。覆いかぶさる護衛の隙間から斬り殺された皇国神皇の姿を見た師家当主どもの慌てふためき様は滑稽だった。エレクトに追われる事は必至と思い、少しでもNon NAMEの為にと考えて、逃げながら日本全国を見て廻った。その過程で二人の子供、悠輝と実彩に出会った。今、Non NAMEのな。北から南まであらゆる場所を見た俺は思ったんだ。『殺す事でしか救えない事もある』と。Non NAMEでリーダーをやっていた時から気が付いていた事だった。ずっと目を逸らしていた。不殺を掲げるNon NAMEの長が決して考えてはならないと。日本政府は間違えていない。だが、正しくはない。Non NAMEは間違えていない。しかし、正しくはない。ならば二つが合わされば。日本政府Non NAME連合は絶対善と成り得る。決意した俺がエレクト本部に戻ると、殺された皇国神皇に代わって為政者となった一二三にのまえふみは俺を拘束する事なく、なんと皇国神皇として日本政府に招き入れ、歓迎した。日本政府内では皇国神皇の死は伏せられており、皇国神皇が殺された事、殺した者が取って代わった事は師家の中でのみ共有された。元々皇国神皇は姿を現すことが殆ど無かったから全く問題なく変わる事が出来た。それから俺は機会を待った。動き出せるタイミングを。そして、今日。遂にやって来た。十氏家円卓会議は、日本政府最大の汚点は消えた。日本政府は俺のものだ。」

守の高らかな笑い声が響く。

「Non NAME。日本政府およびエレクトと停戦し、和睦を結んで日本政府の傘下に加わらないか。」

兼憲はずっと真顔で守を見つめ、黙ったまま守の話を聞いていた。

しかし、守の問いに視線を逸らすと、ようやく口を開いた。

「……悲劇の日、Non NAMEは大きな被害を受けながらも、どうにか再興した。私が守に代わってリーダーを務め、残った職員と新たな本部を築き、実行部隊も強化した。当時三人しかいなかったのが、今では十人いる。Non NAMEの活動はより活発となった。日本の中心部だけでなく、郊外でも活動するようになった。出来るだけ全国を定期的に訪れるようにもした。そんなNon NAMEの活動の中で思った。『やはり殺す事で救えるものはない』と。どんなに歪んだ人でも生きていれば変われる。そして、他人を変えられる。日本政府の全てを否定しない。Non NAMEでは人々全員の生活は支えられない。だがしかし、日本政府やエレクトのやり方は人々を『殺して』物事を解決しようとするもの。……守。我々Non NAMEは決して日本政府の傘下に加わることはない。考え方、やり方を変えなければね。守からの提案は、承伏しかねる。」

守は自分の信念を絶対的なものと信じている。

兼憲も今まで守の考えを否定した事はなかった。

しかし、今現在は真っ向から対立する存在。

互いの考えは相容れれる気配すらない。

「お前はかつて存在していた世界を肯定すると言うのか。」

かつて存在した世界。

人々に基本的人権が認められ、他者の人権を侵害しなければ、公共の福祉を害しなければ、何事も許されていた世界。

娯楽が存在しており、何を知るか、何を好きになるか、何をするか、全て自由だった世界。

「あの混沌とした世界を望むと言うのか。今のこの平和な世界を知って尚。」

「もちろんですよ、守。かつての世界は確かに間違えていた。当時の状況に合っていなかった。しかし、今は違う。今の日本ならば、かつての世界で間違えていた部分を修正して、より良い世界を完成させられる。その為ならば私は、いいや私たちNon NAMEは何でもしましょう。」

場が沈黙する。

お互い交わることの無い考えがぶつかり合って、全く先に進まない。

「悠久ともいえよう時の確執が今ここで、二人の対話によって解決するはずも無いか。ただ、それでも一つ意見が一致している部分があるようだな。」

「えぇ、そのようで。」

二人は目を見合わせて、全く同じ言葉を口にした。

「「条約を結びましょう。」」

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