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三十五話

怒り、悲しみ、愁い、疑念、苦しみ、寂しさ、喜びすら感じとれる兼憲、七瀬、九鬼の声が重なり、その空間に響き渡る。

「いかにも。Non NAMEの方々、七瀬家、九鬼家。よくぞいらした。姿も見せず失礼かと思うが、身分の差を弁えて欲しい。君のような下劣な者に皇国神皇たる私が姿を見せぬのは当然であるとな。」

遠くから交響しながら聞えてくる声は拓の持っていた印象を覆すものだった。

皇国神皇はきっと老体であり、語り口調は他の十氏家よりも人間味がないと思ってたのに、その声は明らかに壮年のもので、語り口調はNon NAMEの流暢なものと変わらない、全く違和感がない。

十氏家会議とNon NAMEと中立であったと主張した七瀬や九鬼でさえ、長く会話を交わしていると違和感がある時があったというのに。

「我々十氏家の家柄さえ下劣というのか、にのまえ皇国神皇。」

七瀬が反論したが、星国神皇は答える価値がないと完全に無視した。

「答えろ!」

強く言っても態度を変えない。

「その先に私はいない。十氏家円卓会議の解散が目的だったのだろ?目的は果たされた。今すぐ去れ。」

しかし、Non NAMEと七瀬、九鬼は動かない。去れと言われて素直に去るならば、こんな所まで来ていない。

「皇国神皇。一つよろしいですか。」

答えるはずがないことは承知している。だから構わず兼憲は尋ねた。

「神皇は今『十氏家円卓会議の解散が目的』と我々が今ここにいる理由と仰いましたが、実は違います。さらに、神皇は我々の『目的は果たされた』とも仰ってしまわれましたね。」

何を突然言い出したのか、Non NAMEの四人には分からなかったが、十氏家である七瀬と九鬼には兼憲が何を考えているのかすぐに分かった。

「一皇国神皇の発言により十氏家円卓会議は現時点をもって解散とする。また、四條家の当主不在のため、八重家当主、八重兼憲が世襲する。そして、師家四條家当主の権限により、かつて存在した十氏家円卓会議を模範とした十氏家会議を設立する。成員はかつての十氏家円卓会議と同様の十氏家とする。ただし、当主不在の家は当主をそれぞれ立てて新設十氏家会議に申告、総員の承認を得てからの参加するものとする。この会議の議長は設立者四條兼憲とし、私は今ここで第一回十氏家会議を招集し、開催する。」 

流水の如く兼憲によって宣言されたことはNon NAMEによる日本政府乗っ取りと等しい行為だった。

「三栖家、五明家、六義家、八重家、十字家は当主不在の為不参加。一家は欠席。今回の議題として、エレクトの廃止、現行法の全見直しを四條家から提案させて頂く。」

ずっと一皇国神皇は黙っていた。

兼憲が話を妨げる隙を与えずに話し続けていた事もあり、皇国神皇は何も出来なかった。

「……茶番は止めろ。十氏家円卓会議は解散などしていないだろう。私が言ったところで民衆に宣言されていない。無駄な事だ。」

ようやく口を開いた皇国神皇の言葉を兼憲予想し、既に手を打っていた。

「何をおっしゃいますか。全て皇国神皇のお言葉として民衆に生放送されていましたよ。」

姿を見せていないので定かではないが、皇国神皇の表情は絶望に染まっていることだろう。

「十氏家会議は最高決定機関なので、ここでの決定は絶対。日本政府の決定です。さぁ、七瀬家。九鬼家。ゆっくり議論を深めましょう。Non NAMEが責任を持ってこの会議の場を守ってくれるでしょうから。」

こんな事が可能だったのか。

Non NAMEは目の前で起こっている光景が信じられなかった。

この会議で提案された事が賛成多数で可決されれば、Non NAMEの悲願が達成される事となる。

「議論を深めるも何も、七瀬家は以前からエレクトの存在に疑問を感じ、法律も見直す必要があると考え、提案までしていた。三栖家と四條家有っては通らぬ提案であったがな。」

「我々、九鬼家も同様。現在のエレクトや法律に疑問を持っている。是非とも改善すべきだと思うがね。」

「尽くされましたかね。それでは、決議に移ります。四條家の提案した両案に賛成の方は挙手を願う。」

会議の場に三つの手が挙がる。

「満場一致で両案は可決された。」

次の瞬間、空間に皇国神皇の声が響き渡った。

「宣言する。一家は十氏家会議を脱退し、十氏会議を皇国神皇および日本皇国に敵対する叛逆集団として皇軍エレクトが殲滅する。十氏家会議が組織する旧日本皇国に組みする者も同様に殲滅する。猶予は三日。その間に脱退もしくは皇国神皇に従う者は不問とする。私が日本皇国である。」

十氏家会議の決定が民衆に流された同様、皇国神皇の宣言も民衆に流され、共に正式なものとなった。

それでもNon NAME側は動じなかった。

「十氏家会議と皇国神皇、民衆がどちらについていくと思う?十氏家という言わば独裁を民衆が良しとしていたのは紛いなりにも会議の体裁を保っていたからだ。皇国神皇、一家による独裁を民衆が認めるはずがない。エレクトも従うとは思えんぞ。」

兼憲の指摘に皇国神皇の不気味な笑い声が響く。

「認めようが認めまいがどうでも良い。は変わらない。いずれ従うべき者は従う。従わぬ者は殺すまで。」

一皇国神皇は言葉を重ねる。

「……Non NAME、七瀬飛鳥、九鬼正人。今ここで死ね。」

Non NAMEはその立場上、「死ね」と言われる事は多々ある。

エレクトとの戦闘中、必ず一回は言われるだろう。

しかし、それは言葉に過ぎず、Non NAMEは何も感じない。

しかし、辺りに響いた皇国神皇の声からは感情が感じられないにも関わらず、Non NAMEと七瀬、九鬼に「死の恐怖」というものを与えた。

このような経験は拓や凛はもちろんのこと、幾度となく修羅場を潜り抜けてきた兼憲や遥、結衣にも初めての経験だった。

辛うじて自我を保つ彼らは、目の前に「死の恐怖」の元凶とも言える存在がいる事に気がついた。

開かれた扉の奥からゆっくりと、ゆっくりと一人の影が迫ってくる。

最初は誰もがその者の正体に気が付けなかった。

しかし、兼憲が気づいたのち、すぐにNon NAME全員が気が付いた。

「朱師……。衛藤守!」

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