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三十三話

Non NAMEが現れたのは薄暗く、巨大な円卓しかない部屋だった。

目の前には八人の老若男女が円卓を囲っていて、それぞれの後ろに従者のようなものが立っている。その八人のうち、三人は今にも気絶しそうな蒼白い表情だった。

対して、残りの五人は落ち着いた表情で突然の来客を見つめていた。

「おかえりなさい、八重家。歓迎する気は一切ありませんが。」

「二三殿。それはありがたい。到着早々この場を荒らしたくはないのでね。」

兼憲がそう告げると同時に、蒼白い表情の三人と、八人の後ろに控える従者が懐から何か取り出してNon NAMEに向けてきたが、何もすることなく全員静かに気絶した。

「歓迎したい…という気持ちはあったみたいですね。」

あまりにも突然、無慈悲に味方がやられたので、冷静を装っていた五人、二三、三栖、四條、七瀬、九鬼の表情にも動揺が浮かぶ。

八重が現界した剣を手にして近づいてくるにつれて、恐怖の表情へ変わっていく。それでも席を離れたり、逃げようとしたりする気配はない。

流石は一国のトップに君臨する者たち。只者ではない。兼憲はまず四條に近づいていき、立ち止まった。

「か・・・兼憲。兄さん何もしてないぞ。ほ・・・本当に見ていただけだ・・・。」

兼憲と瓜二つの四條が兼憲と似た声で命乞いする姿は滑稽だった。兼憲は聞く耳持たず、躊躇なく四條を斬った。気絶した四條は床に倒れ込む。

「それ以上にどんな行為が必要か。法務のトップが人々の人権を守らないで誰が守るんだよ。」

呟きながら、今度は三栖の側に立つ。

「全ては私の責任だ。・・・斬れ。」

「御意。」

兼憲は振り上げた剣を振り下ろす。気絶し、床に倒れる直前に兼憲は三栖を支えて椅子に座らせる。

次は三栖の対角に座る一二三にのまえふみを睨みつける。円卓を回ってではなく、兼憲は円卓の上に乗って二三の正面に座った。

二三の表情に先程までの余裕は一切無く、まるで今まさに食べられようとしている小動物のようだった。

「そんなに怖がるなって。爆弾で吹き飛ばされて殺されるよりかはマシだろ?」

いつ手に入れたのか、兼憲の手には先の戦闘でエレクトが使用した新兵器があった。二三の口がガクガクと音を立てて震える。

「別に死ぬ訳じゃない。死ぬより痛いだけだ。」

無表情のまま、無慈悲にかつて仲間であった者たちや親族すら斬ってしまった兼憲に対して、拓は久しぶりに恐怖を覚えた。

しかし、その恐怖はただ怖いだけではなく畏怖に近いものであった。Non NAMEも十氏家も何もすることなく兼憲と二三を見ていた。

「ははは・・・早く倒せ・・・。もったいぶるな。怖くなんかない。早く気絶させろ。」

ようやく言葉が出た二三に兼憲は失笑する。そして、真顔に戻ると冷たく告げた。

「さっき言ったろ?楽に気絶いけると思うな。」

兼憲は手にした剣で二三の片手のてのひらを刺す。長い刀身は完全に掌を貫通した。

「あーーーーーーーーーーーーっ!」

二三は絶叫する。

今までこの人は一切痛みというものを知らずに生きてきたのだろう。

この時に二三が感じていた痛みは、芯が出ていないボールペンで軽く突かれている程度。

一般人からすればかゆい程度で済まされる。

Non NAMEの剣は威力を上げればダイヤモンドでも切断出来るが、威力を下げれば触れられても何も感じない程までになる。

兼憲は全くといって良いほど痛みを感じない威力にしているのだ。

「まだ足りない!遥。」

兼憲の合図と同時に遥がペンを投げる。空中で形を変え、兼憲の手に収まった時には剣が現界していた。

その剣を今度は反対の掌に刺した。

「うぁぁーーーーーーーーーーーーっ!」

二三の悲鳴が激しさを増す。延々と叫んでいて良く息が保つ。

感じている痛みの強さを知っているNon NAMEは喜劇でも見ているような感覚だった。

そんなNon NAMEに対し、十氏家の七瀬家と九鬼家の表情は硬直している。

次は我が身と真剣な面持ちで苦しむ二三を見つめていた。

ずっと叫び続けていた二三の悲鳴は次第に笑い声と変わっていった。

これはあまりの痛みに狂ってしまったのか。くすぐったいから笑ってしまったのか分からない。

様子からはもう痛みを感じているようには見えなかった。

潮時と判断した兼憲は二三の両掌から剣を抜くと、交差するように構え、二三の首を切り落とした。

笑い声を高らかに上げながら、二三は床に大の字で倒れた。

七瀬と九鬼が姿勢を整える。

次はどちらがやられるか。

しかし、両家の予想は大きく外れた。

兼憲は手に握られた双剣がペンに戻ると、一つを遥に投げ返した。

「さて。七瀬家。九鬼家。戦う意思はお持ちですか?そちらにあるようでしたらこちらも全力で……かな、で抵抗致します。私たちNon NAMEには戦う意思がありません。他の十氏家の敵討ちも良し。戦う意思がないことをお示しになっても良し。ただし、逃げたりしないように。さぁ!どうぞ。」

悪魔を目の前にしたかのような表情だった両家は予想外の出来事に笑ってしまった。

「当然のことを聞くな。我々に戦う意思は無い。」

七瀬の返答によって、今回の任務の戦いは終了した。Non NAME一同武装を一旦解除する。

「しかし、何故急に?」

緊張の解けた円卓の部屋において、九鬼から至極当然な質問が出た。

兼憲の判断に従ったに過ぎないNon NAMEの拓と凛も何故急に兼憲が戦いを止めたのか、理由が分からなかった。

二人の隣に立っている遥と結衣にはその理由が分かっているようだったが、二人に聞く前に兼憲が説明した。

「七瀬家と九鬼家は神道の血統だ。神の加護の強さでいえばNon NAMEと比べられないほど受けている。『国津神』なんて呼び方が適当かもしれない、七瀬家と九鬼家は。」

十氏家に神道の血統がいる話は聞いた事があったが、まさか本当の話だったとは。兼憲が続ける。

「ただし、神の力を人に向けるのではなく、人を守る為のみに使ってきた七瀬家と九鬼家にNon NAMEほどの戦闘力はない。だが、Non NAMEの全力の攻撃をもってしても両家に我々の刃は届かない。最強の矛と最強の盾。どちらが強いのか。そんな議論がかつて存在したらしい。答えは単純。どちらも勝つ事が出来ず、負ける事もない。つまり、戦うべきでないんだ。Non NAMEと七瀬家、九鬼家は。」

拓と凛にはなかなか受け入れ難い事であったが、紛れも無い事実なのである。

「これはどちらかの降伏ではなく、和解といった形になりますが、今後両家はどうするおつもりで?十氏家としてこれからもこの国を支配していくおつもりですか?それとも、我々にくみするおつもりですか?」

客観的に考えれば兼憲の問いは衝撃的なものである。

そんな問いに七瀬家も九鬼家もまるで尋ねられるのが分かっていたかのように即答した。

「我々は今も昔も中立。この地のために動いてきたつもりだったが、私は間違えていたようだ。Non NAME。お前たちが全面的に正しいと認める気はさらさら無いが、私のいるべき立場は十氏家ではない。七瀬家当主、七瀬飛鳥並びに七瀬家はNon NAMEに付き従い、十氏家を離脱する事を今ここに宣言する。」

「我ら九鬼家もこの美しい地を守る為に十氏家に身を置いていたが、十氏家の行いはこの地を傷付けるばかり。我々は本来十氏家と対立する考えの持ち主。流れに身を任せて忘れていた。九鬼家当主、九鬼正人及び九鬼家はNon NAMEに付き従い、十氏家を離脱する事を今ここに宣言する。」

両家当主の返答に兼憲は頷くと、軍服の裾を翻し、円卓の部屋の扉を向いた。

「承知した。それでは早速だが、皇国神皇にご挨拶しに行こうか。」

今まで黙って成り行きを見ていたNon NAMEだったが、流石に驚きを隠せなかった。

「そうね、そうしましょ。それが一番簡単だし。」

「それでは行こうかのぉ。」

加えて、七瀬家も九鬼家も兼憲に同意してしまったので、他四名はついて行く他なかった。

「遥。歩いて行くのは面倒だから瞬間移動する。」

「え?私はどこにあるか知らないわよ?」

「大丈夫。私が分かっている。」

一人でどんどん決めてしまうリーダー兼憲に呆れてため息をつきながら、遥は差し出された兼憲の手を握る。

瞬間。円卓の部屋に残ったのは無様に倒れる十氏家だけだった。

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