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三十一話

 前進するエレクト隊の上空に出現したNon NAMEは眼下に広がる光景に驚きを隠せなかった。

そこにいるエレクト隊の人数は未だかつて見たことのない量。冷静にその光景を眺めていられたのはリーダー兼憲だけだった。

「兼憲。以前に同じようなことはあった?」

結衣の問いに、上空を浮遊する兼憲はゆっくりと頷く。

「悲劇の日にはこれ以上のエレクトが出撃していた。ただ、向かって行く先のことを考えるとこれは異常だ。この先には反政府組織も人口集中都市も一切ない。ただの荒野があるだけ。この規模だと率いているのは間違いなく十氏家一角の六義家。一体何を企んでいるんだ。」

六義家。その名を聞いて拓と凛は姿勢を正した。

以前、ミサと悠の暮らしていた村で一度だけ戦ったことがある。その時は兼憲の助けがあり、何とか勝つことが出来たが、本人の戦闘能力も、軍の指揮能力も、拓と凛が出会ってきたエレクトの中で群を抜いて最強だ。

「ここでこれから何が起こるんだろう。」

凛のつぶやきの答えを持つものはこの場にいない。経験豊富な兼憲さえこの先の展開を予想出来ていないのだから。

「少ない情報から考えられることを伝えておく。まず、今回のエレクトは重要な何かを任せられている。ただ、この先にあるあらゆる場所とは全くの無関係と断言して良い。ならば考えられる目的はNon NAMEとの戦いそのもの。おそらく今回はNon NAMEに勝利出来る秘策を持っている。もしくは秘策の試作が出来上がり、効果や規模等々の検証の為の出兵だろう。ここの戦場を中継で十氏家円卓会議が見ている可能性も高い。今まで戦ってきたエレクトとは別物と考えた方が良いかもしれない。」

Non NAMEたちの前では、どんな時でも微笑みを絶やさない兼憲が真面目な表情で四人に伝えた。自然と四人の表情も堅くなり、緊張している様子がうかがえる。

「こちらの戦法は拓と凛にとにかく攻めてもらう。やられなければ良い。遥と結衣は二人のサポートをしながら隙を見て攻撃。私は全体を見渡して、何か非常事態が起きた時に対処できるように準備しておく。異常を感じない限りはいつも通り、着実に、一人ずつ削っていくように。あとは連絡を密に。分かったな。」

「はい。」

四人の返事からは、わずかながら不安が感じとれた。が、その表情からはこれから何が起ころうとも動じない、強い意志が感じられた。


 拓と凛は前進するエレクトの前に舞い降りる。遥と結衣は二人から少しだけ離れた上空で待機している。さらにそこから離れたところの上空。兼憲が戦場を見下みおろしている。

「我々はNon NAMEです。即刻撤退しなさい。これ以上の進軍はNon NAMEが許可しません。それでも進軍しようというなら、全力で抵抗します。」

毎回同じような宣言をする。宣言の聞き手、エレクトはNon NAMEを見て恐怖の表情となるか、呆れた表情になるかの二通りだが、今回は違った。

待ちに待ったNon NAMEがやっと来た。そんな喜びの表情だった。

「明らかにいつもとエレクトの様子が違います。相手に精神的余裕があるようです。」

拓が他のNon NAMEにインカムで連絡を取る。

「少し上から見てもそんな様子が見て取れるわね。」

「エレクト全体にまだ動きはない。引き続き警戒しながら続けてくれ。」

拓と凛は小さく頷いて、エレクトに向き合った。

「Non NAMEですか。毎回毎回ご苦労様なこった。我々は皇国神皇様の勅命で動いております。全力で抵抗する?最期まで抵抗頑張って下さい。…六義様。お願い致します。」

拓と凛に言い返した隊員が通信機で六義へ連絡した。次の瞬間、空高くにいる兼憲にも聞こえるほどの大きな声が戦場を包み込んだ。

「この戦場にいる人民と賊民に告ぐ。私はエレクト軍大将、十氏家一角を担う六義なのだ。人民よ、敵は数名。必ずや我らが勝利出来る。不運にも倒れし者の仇は私が討とう。恐れるな!」

図太い声が響動どよめく。エレクトからこんな迫力を感じたのは初めてだ。

「賊民よ。この戦場に足を踏み入れた事を後悔せよ。楽にけると思うな。その罪を身に刻んでやる。」

六義はNon NAMEを脅しているつもりかもしれないが、Non NAMEは全く動じていない。エレクトがどうやって自分たちを攻略してくるか楽しみにしている。そんな気持ちを兼憲が言葉にした。

「Non NAMEリーダーの兼憲だ。Non NAMEに処刑宣告とはいい勇気だ。尊敬に値する。ただし、淘汰とうたされるのはエレクトだ。正義を掲げるエレクトに、Non NAMEの正義をもってこの世の悪意こそが普遍である事を示そう。れるものならやってみろ。」

地声であるはずなのに兼憲の声は戦場に響き渡った。エレクトはせっかく六義の鼓舞で士気が高まったにも関わらず、恐怖がぶり返してきた様だ。対して、Non NAMEの士気は高揚した。

「ひ…ひ…怯むな。奴は十氏家の裏切り者。裏切り者には死を。銃を構えろ!」

先程までの威勢は何処へやら。六義の震える声で指示されてエレクトはNon NAMEに銃を構える。銃口に宿る殺気はいつも以上ではあるものの、弱い。Non NAMEはいつも通り勝利を確信した。精神的に優位である限り、Non NAMEがエレクトに敗北することは皆無。エレクトの攻撃がNon NAMEに効くことは絶対に有り得ない。例え、かつてこの世界に存在したという水爆という武器を用いようとも。

「う…撃て!」

拓と凛を体験した事のないような銃弾の嵐が襲う。だが関係ない。

二人は冷静に対処する。ペンで現界させた剣で当たりそうな弾を全て斬る。仮に当たる前に斬れなくとも、神の加護で守られた二人が傷つけられることは絶対にない。

Non NAMEにとってこれは戦いじゃない。作業である。

その為、いくら油断しないように気をつけても若干の油断が生まれてしまう。エレクトはその隙を突いてきた。突然、エレクトの銃弾の嵐が止む。

この時はまだNon NAME一同、冷静に状況を見ていた。

「別攻撃、撃て!」

一瞬、間を空けて再び銃撃を再開する。先ほどと何も変わらない、平凡な攻撃。

地上の拓、凛と上空にいる遥、結衣は少しずつ距離を詰める。

「別攻撃」の意味が分からぬまま、エレクトとNon NAMEの距離はあと一歩踏み出せば届く程まで近づいていた。拓、凛の上空に浮かぶ遥、結衣も5メートルくらいの高さまで降りてきた。

Non NAMEが攻撃に転じようと構えた刹那。数十個の銃弾ではない何かがNon NAME目掛けて飛んで来た。

普段、エレクトの撃ってくる銃弾は跳弾によってエレクトへ向かうのを避けるために全て斬り落としている。

しかし、Non NAMEにとって未確認物体であった何かを拓、凛、遥、結衣は咄嗟とっさの判断で斬り落とす事無くはじいてしまった。

エレクトによって投げ込まれた数十個の新兵器はNon NAME四人によって全て弾き返されてしまい、一つもNon NAMEの足元に届く事無くエレクトの密集する場所に散らばって落ちた。

既に Non NAMEの前から新兵器が消えてから四人は自らが重大なミスをしてしまったかもしれない事に気づいた。

そして、残念ながら四人が同時に想定した光景がすぐに目の前に広がる。

エレクトの足元に落ちた新兵器は次々と爆発し始め、前方のエレクト隊員の身体が宙を跳ぶ。

その様子を見た後方のエレクト隊員は手を止める。しかし、彼らの手にする新兵器は既に起動済み。時すでに遅し。

握られた手の中で次々と爆発を始め、一人、また一人、空へ跳び散っていった。

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