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二十八話

本部までは相変わらず一瞬だった。瞬間移動する前から楽しみにしていた実彩と悠輝は本部の作戦司令室に到着した瞬間、大きな声で喜びを露わにした。とてもつい先ほどまで無気力で非生産的な生活していたものたちとは思えない。

「おかえり。Non NAME諸君。それと、ようこそNon NAMEへ、衛藤実彩さん、衛藤悠輝さん。私は桜井辰樹。こちらが大神友理奈だ。」

知らない人から突然名前を呼ばれ、二人の表情が一瞬強張ったが、声の主が自らの名を名乗るとすぐにその表情はほころんだ。

「守の仲間だった人たちですよね?辰っちゃんと白百合さん。会いたかったです!」

興奮して駆け寄ってきたので桜井と友理奈は困った様子だったが、その表情は嬉しそうだった。

「本当に守を知ってるやつらだったとはな。驚きだ。」

しばらくは四人で守という人物の話で盛り上がっていた。しかし、悠輝の一言で会話がぴたりと止まった。

「辰っちゃんとか呼び名だからもっと可愛いのかと思った。でも、嶺上の白百合さんはイメージ通り。」

先ほど兼憲も呼んでいたが、実彩と悠輝は拓たちが知らない呼び名で二人を呼んだので、その呼び名は何なのか疑問に思ったが、二人ともあまりそう呼ばれたくない様子だったので詮索するのはやめた。

「ん…あぁ。そうだ。拓、任務報告をまとめといてくれ。後で見る。終わったらゆっくり休んでくれ。」

その後Non NAMEメンバーはそれぞれ自室に戻ったり、談話室でゆったりしたり自由に過ごした。新入り二人の案内は翌日に持ち越しになって、とりあえず空き部屋で寝てもらうことになった。拓は凛、御坂と一緒に任務報告をまとめ、作戦司令室に提出すると自室に戻った。体を休めるために横になる。眠るつもりはなかったが、いつの間にか眠りに落ちていた。


インカムから流れる声で拓は目を覚ました。

「おはようございます。Non NAME諸君に連絡します。兼憲隊長より重要な話があります。至急作戦司令室に集合して下さい。繰り返します。……」

友理奈の声だった。眠りについた覚えのなかった拓だったが、着ている服が戦闘服である軍服だったので、昨夜から今までの事を察した。作戦司令室へ駆け足で向かいながら指を鳴らして着替える。予想していた通り、拓が着いた時には皆、整列していた。

「拓、遅い。」

「すみません。」

桜井の注意に軽く謝ると凛と御坂の横に並んだ。

「全員揃ったわね。それでは兼憲、よろしく。」

兼憲は友理奈と入れ替わりでNon NAMEの前に立つ。その表情は少し険しく、他メンバーも真剣な表情をしているので、拓、凛、御坂は何か良くない知らせがあるのでは。と身構えた。

「重要な話だ。よく聞いてくれ。この度、新しい仲間を二人迎える事になった。」

兼憲の話し始めた事は想像とは少し違い、めでたい事だった。なのに何故こんなに張り詰めた雰囲気で話しているのか、拓たちには謎だった。

「その名は衛藤実彩。雅称を『ミサ』とす。その名は衛藤悠輝。雅称を『ゆう』とす。豊葦原中国とよあしはらのなかつくにの再興を求めし守人もりびと。八百万の神に畏み畏み申す。畏み畏み申す。……。」

兼憲がひざまずき、挙げた祝詞はいつになく心が込もっているように感じられた。すると何やら作戦司令室が段々と明るくなり、遂には異界のごとき様子へと変貌した。そして天から女性なのか、男性なのか、はたまた機械なのか。「ナニモノ」と称するのが適当な「モノ」の声が聞こえてきた。

「守人の願い、確かに聞き届けた。」

刹那。そこは作戦司令室だった。

「ふぅ。何度やっても慣れるものじゃないね。前回は三人だったから大変だったけど、二人も楽じゃない。上手くいって良かった良かった。」

ようやく微笑んだ兼憲はその場に座り込んだ。他メンバーも口々につぶやきながら体を伸ばしたり、しゃがんだりしている。拓も不思議と疲労を感じた。今この場で何が起こったのか。理解していないのは拓たち三人、いや、拓と凛だけだった。

「天からこうやって神の加護を受けたのか…。」

拓、凛と並んで立っている御坂が何かつぶやいたが、二人には全くもって何をいったのか分からなかった。

「あのぉ…すみません。一体何が起こったんですか?」

拓が恐る恐る質問すると、少し離れたところにいた友理奈が説明してくれた。

「御坂が正解ね。今、八百万の神からミサと悠に加護を与えてもらう為にお願いをしたの。加護を与えて欲しい人の本名とメンバーに呼ばれる名前、私たちは『雅称』と呼んでるけど、この二つの名を明かして加護を求めて願う。この時に天とここを繋ぐために神の加護の力、つまりNon NAMEみんなの力が必要なの。素質があればすんなり叶うし、素質がなくとも兼憲が脅しまがいのことをして加護を与えさせるから結局叶う。まぁ一度しかやったことないけど。その代わり、神々は兼憲に加護を与えてないんだけど。まぁ、それだけが理由じゃないけどね。」

何が起こったのかは理解したが、それよりも衝撃的な、兼憲は神の加護を受けていないという方が気になってしまった。

「じゃあ、どうやって超人的力を使ってるんですか?ペンの武器とか飛行とか…。」

拓の質問を事前に予想していたかのように兼憲本人が答えた。

「ペンの武器は他のメンバーから借りて使ってる。一度武器にしてしまえば想像力次第でどうにかなる。飛行は軍服に与えられてる加護で行なってることだから、私の能力はあまり関係ない。実はNon NAMEの道具は使い方さえ分かれば大半が加護なしでも使える。技術が進歩したかなんかで。」

拓は兼憲の説明で納得したが、改めて兼憲が敵ではなく味方で良かったと感じた。

「そういえば俺らがNon NAMEに入るときも同じような事やったんですか?」

今度は凛が質問した。拓たちはいつの間にか超人的な力が使えるようになっていた。いつから使えたかなんて意識しなかった。

「君たちのときもやったよ。今までで一番大変だったかな。拓も凛もすんなり認められたから良かったけど。そういえば御坂は既に天に認知されていたなぁ。雅称も同じ『御坂』で。元々神の加護を与えられていたことになるんだが、一般人だとしたら有り得ないんだけどね。心当たりは?御坂。」

先程から呆然としている御坂に兼憲の言葉は聞こえていない。

「おーい、御坂ー。帰ってこーい。」

再度呼びかけられてようやく我に返った。全く話を聞いていなかったと思いきや、全て聞いていた。

「はい。加護を与えられた記憶自体はありませんけど、恐らく何度か天とは接触してます。先程の空間に見覚えがありましたし。」

ほぼ生まれた時から、物心つく前から一緒に暮らしていた拓や凛もそんな話は聞いたことがなかった。しかし、よく思い出してみればNon NAMEと初めて会った日、御坂は神の加護による障壁を出現させていた。加護の強さでいえばNon NAMEの中でも一二を争う。天と接触したことがあっても不思議ではないように感じられた。御坂の話を聞いた友理奈と兼憲は今まで1ピース足りていなかったパズルの最後のピースが見つかったかのような喜びの表情を浮かべて、何度も頷いた。

「ようやく辻褄があったわ。御坂は恐らく神道の血統なのね。それも相当高位の。」

定かではないが、少なくとも御坂は政府の思想に染まらず、Non NAMEになった事はラッキーだったという事だ。

「すっかり話し込んでしまった。部屋に戻って良いぞ。…あ、そうだ。ミサと悠が起きたら拓、凛、御坂のうち誰か一人、遥と一緒に本部内の案内をして欲しい。関わりの多い人がいた方が気が楽だからな。また連絡する。」

『了解しました。』

そう言って部屋に帰ろうとする兼憲に拓が声をかけた。

「最後に一つ、良いですか?」

「おう。良いぞ。」

「本人に聞きづらいので……。友理奈さんの雅称って何だったんですか?」

質問された兼憲は何故かにやけている。

「友理奈さーん。友理奈さんの雅称、別に教えても良いですよね。」

スクリーンの前に座っていた友理奈に兼憲が大声で確認を取る。

「えっ、別に良いけど。」

確認が取れると、兼憲はさらに笑みを深めた。

「友理奈さんの雅称は『嶺上りんしゃん白百合しらゆり』だよ。」

刹那、兼憲の横には車椅子に乗ったままポールペンを兼憲の首に当てている友理奈がいた。

「……違う。」

それは殺意の権現。こんな友理奈を見るのは初めてだった。兼憲も未だかつて見せたことのないような恐怖の表情をしていた。

「ご…ごめんなさい。」

そのまま崩れ落ちた兼憲に代わって、友理奈本人が答えた。

「私の雅称は『白百合しらゆり』よ。」

いつも通りの友理奈に戻っていたが、これ以上この話題に触れるのは危険と判断した拓は友理奈にお礼を言って、兼憲を放置したまま自室へと駆けて戻った。

兼憲から呼ばれたのは夕方になってからだった。

「ミサと悠が起きたから、談話室に来てくれ。」

強がって元気な様子を見せていたミサと悠だったが、やはり心身の疲れは相当なものだったのだろう。ほぼ丸一日寝ていた。出撃もなく、三人はずっと部屋でゆっくりしていたので、拓たちもゆっくり休めた。話し合いの結果、一番社交性がある拓が案内することになった。Non NAMEの制服ともいえる軍服を身に包んで談話室に入ると、既に兼憲、遥、ミサ、悠が楽しそうに話していた。朝以来の兼憲はいつも通りに戻っていたようなので何も触れないことにした。

「あっ。拓さん、おはようございます。」

「夜までお待たせしてすみません。」

軍服を着たミサと悠が拓に挨拶する。その隣にいる遥は先程まで寝ていたのだろう。寝間着だ。

「みなさん、こんにちは。ミサさん、悠さん、ついでに遥さん。よく眠れました?」

「バッチリです。」「それはもうぐっすり。」「ついでって何じゃい!」

元気そうな二人の返事と遥の見事なツッコミに拓は微笑んだ。

「それじゃあ、遥と拓。よろしく。」

そう言って兼憲は談話室を出ていった。

「はい。じゃあ、私たちも行こうか。Non NAME本部内を案内します。迷子にならないようにしっかりついて来てください。」

遥を先頭に本部内を一周した。道中はミサと悠と雑談しながら拓も一緒に回った。

「先輩の皆さんのこと、なんて呼んだら良いんですかねぇ。」

「僕らのことは普通に拓、凛、御坂って呼び捨てで構わないよ。大して年も変わらないだろうし。先輩達は……」

「私たちも遥とか兼憲とか呼び捨てで。あっ!けど、さっき紹介したナビゲーターの桜井って人は絶対に『さん付け』で呼んでね。怒っちゃうから。あと、もう一人も『さん付け』してるかな。色んな意味でNon NAME最強だからね、友理奈さんは。」

拓は今朝の友理奈さんの恐ろしさを思い出しそうになって、必死に頭の奥底に押し込んだ。全て見終わった後、最後にNon NAMEに入る者は必ず来る事になっている場所、Non NAMEの起源の場所を訪れた。拓が初めてここに来たときは正直ただの古ぼけた部屋にしか感じなかった。それが当然のことである。事実、客観的に見ればただの古ぼけた部屋だ。しかし、Non NAMEとして活動し始め、Non NAMEとして経験を重ねた今、この部屋から先代たちの想いが拓へと伝わってきた。

「もっと…もっと僕は輝きます…。」

思わず口にしてしまった心の声は幸いミサと悠には聞こえていなかったみたいだが、遥にはバッチリ聞こえてしまったようだ。横目で見ながら悪戯っぽく微笑んでいた。

「…頑張って。」

遥は小声で拓にそう言ってウインクすると、ミサと悠に駆け寄った。拓は若干照れながらも、その場で強く拳を握り締めると、前に立つ三人の横に並んだ。

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