二十四話
今の時代、なかなかお目にかかれないほどの田舎。
そこにある村。兼憲の指示で飛んできた拓、凛、御坂は村の上空に出現した。
村はエレクトに占領されている。いや、よく見るとエレクトだけでなく、民間人と思われる人々もある一点の方を向いていた。二人を除いて。
「私達は首を縦に振らない。私達以外の周りの誰もが頷いたとしても。最後の最期まで抵抗し続けてやる。この村を支配したいなら私達を抹殺すれば良い。」
人々に囲まれている一人が叫ぶ。
抵抗している二人は拓たちと同世代の青年の男女だ。
人々に異端の徒とされ、エレクトだけじゃなく民間人と思われる人々にも銃口を向けられている。
それでも臆する事なく、精悍な顔つきで「言葉」と「意志」という名の武器を構えている。
エレクトに従う気は皆無。処罰は時間の問題だ。正確に言えば、エレクト隊の長の気分次第。
「あれ、民間人だよな?どうしてエレクトだけじゃなく民間人まで武器を…。」
凛の感じた疑問は拓も御坂も考えた事だが、今はそんな事を深く考えている余裕はない。抵抗している二人の命が危険だ。
「あとで考えよう。今は急ぐぞ!」
三人は拓の怒号を合図に急降下する。
正直なところ間に合うか微妙だ。エレクトがゆっくりしてくれれば。
「間に合え…。間に合ってくれ…。」
限界速度で降下しながら拓は祈った。
Non NAMEが上空から迫ってきているなんて知らないエレクトは完全なる有利な状況を愉しもうとしていた。
無力なのに、どうせすぐ殺されるのに立ち向かい続ける二人を痛めつける事を。
「エレクトの名において、番号なしと番号なしを処刑する。」
銃を構えるエレクト隊員たちが兜の下で醜く笑顔を浮かべる。
処刑対象を一撃で処刑するのは暗黙のルールで禁止されている。
最初は脚。まず片脚を撃ったら降伏を促す。それでも降伏しなければもう片脚を撃つ。そして再び降伏を促す。
降伏しなければ今度は両腕を片方ずつ。そこまで追い詰めてから遠慮なく撃ち殺す。
今までは片脚を撃つ前か、撃った直後にみんな降伏した。が、誰一人生きて帰した事はない。
この子供達はどれくらい耐えられるのか。
エレクト隊の長がさらに笑みを深め、最初の一発を撃つ人のところへと足を向ける。
今エレクトのいる村は、首都圏から離れているため、自治制に近い状態であった。
つまり、民間人でも選民なら武器を持っているのだ。もし異端者が出たら処刑できるように。
エレクトの並ぶ隣で正義ヅラしている民間人の一人、この村の村長の耳元で指示を出した。
村長はしたり顔で頷く。それもまた滑稽。あともう一人、撃つ役目は副官に任せた。
エレクト隊の長はゆっくりと右手を上げる。笑い声を我慢しながら、勢いよく振り下ろす。
「撃てぇ!」
銃声が二発聞こえる。
見事子供達の左脚に命中した。心地良い悲鳴が響き渡り、二人は立っていられず、地面に崩れ落ちた。
エレクト隊は喜びの笑みを浮かべる。
Non NAMEが急に強くなった日から民間人の悲鳴さえなかなか聞けなくなってしまったので、久々の悲鳴に無意識で笑顔になってしまった。対して民間人は正義を全うしたという達成感ある表情をしていた。
「豊かなら幸せなのか。いや、違う。貧しくとも、そこに笑顔があるのなら幸せなんだ…。幸せを求める叫びを圧し殺す、見えない壁が生まれた時にはこの世界に出来ていた。同調しなければ裏切り者だ。だけど、同じように幸せを奪われているあなたたちからも撃たれるとは思わなかった。」
撃たれた少女が心から訴えても、その場にいる誰一人の心にも届かない。
逆に観客者を楽しませるだけだった。それでも二人の心は決して折れない。
「痛いだろ。自分たちがやってきたことをすべきではなかったと思うが良い。政府に従うか?」
いつもならここで皆降伏してしまい、これ以上悲鳴を聞くことが出来なくなってしまうが、今回の子供達は違った。
「屈するものか…。僕らには僕らの正義がある。その正義の名の下に抵抗し続ける。」
「撃てばいい。ここで抵抗することをやめてしまったら生きてる価値はない。例え生き延びても死んだも同然。私達の思想を消し去りたいなら、私達ごと抹殺しなさい。」
予想外の嬉しい答えにエレクト隊の長は遂に笑いをこらえきれなくなった。
高らかに笑いながら再び右手を挙げる。先ほど撃った二人とは違う二人が右脚狙って銃を構える。
子供達はその状況を恐れるどころか、異端者として見下し続ける周りの民間人たちに再び語り始めた。
「政府の思想に染まって得られた調和だけじゃ危険なんだ。人は元々対立しながら生きてきた。争って、争って、自分たちで最善の答えを導かなけばいけなかった。今みたいに無気力で非生産的なつまらない毎日じゃなかったはず。自由はいけない事なの?いいや、いけないことのはずがない。人はそれぞれ個性があってバラバラだった。だから…私達が乱す事で気づいて!新しい世界に。」
左脚から血を流し、痛みを堪えながら訴えた彼女の叫びも残念ながら全く人々の心に響かなかった。
傷ついた二人を見ても同情どころか、まるでケダモノを見ているかのような表情をしている。
人々はとうの昔に「人の心」を失い、政府の思想に完全に染まっているのだ。
さすがの二人もその光景から目をそらすために俯いた。
今なら必ず良い悲鳴を上げてくれる。
チャンスと見たエレクト隊の長は勢いよく右手を振り下ろす。
しかし、銃弾は放たれることなく、村に大きな音が鳴り響いただけだった。




