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十六話

三人はいつもと変わらない時間に目が覚めた。昨晩の調子からは想像できないほど寝覚めは良いものだった。昨日の光景は頭の中にはっきりと刻み込まれている。しかし、その光景に関して特別な感情は抱かなくなった。それが良い事なのか悪い事なのか分からない。ただ一つ言えるのは、自分たちは『Non NAMEになったという事』だ。

拓たちは朝食を摂るために食堂へと向かった。時間が時間だったので、多くの人がごった返していて、広々としている食堂が少し小さく見えた。

「おぉ!拓、凛、御坂!昨日の戦い見たよ。」

「カッコ良かったぞ!お疲れ。」

「これからも頑張って。」

拓たちは名前を把握していない、Non NAME本部にいる人々から口々に応援された。戦場にいなかった彼らが何故拓たちの戦いを見ることが出来たのか。それは、Non NAMEの戦闘を含むあらゆる活動は全て映像や文書として記録される。戦闘やライブの場合はリアルタイムでNon NAME本部に放送されるのだ。どの様に撮影されているのか分からないが、その映像はまるで、その場で見ている気分になるほどリアルなのだ。見るだけでその場にいなくても興奮してしまう。基礎訓練中の拓たち三人も任務があるたびに見ていたので気持ちは良く分かる。

「ありがとうございます。頑張ります。」

応援されるたびに能面のように微笑みながら、一人ひとりにお礼を言っていく。

「未だに人と話しかけられるのは慣れないね…。」

「知らない人だと特にねぇ。」

「だいぶマシにはなってきていると思うけど、まだね。」

三人は身を寄せて呟いた。あまり目立たぬ様に食堂端に設置してある机に固まっていると、人の波に隠れられたのか、声をかけてくる人はいなくなった。しかし、Non NAME実行部隊の面々から隠れることはさすがに出来なかった。

「やあやあ、おはよう。拓、凛、御坂。よく眠れたかな?」

いつになく上機嫌の兼憲に声をかけられた三人は、突然の事に少し驚いてビクッとしてしまった。

「あぁ…おはようございます。おかげさまで三人ともよく眠れましたよ。」

「そうか。それは良かった。」

それだけ言うと兼憲は食堂の人混みへと消えていった。一体どんな意図があったのか。拓たち三人には兼憲の考えなど分かるはずもなく、首を傾げて兼憲の背中を見つめた。

朝食を摂り終えた三人は再び見知らぬNon NAME本部にいる人たちに声をかけられないように、食堂の隅っこを歩いて気づかれないよう足早に自室へと戻っていった。

作戦司令室やNon NAME実行部隊の各自室がある、本部の中心とも言える建物はNon NAMEの中でも限られた人しか入ることを許されていない神聖な場所として扱われている。則ち、その建物に入ってしまえば知ってる顔しかいないのだ。逃げるように作戦司令室に辿り着くと、そこにはいつもいる桜井と友理奈の二人はもちろん、兼憲もいた。

「お、帰ってきたか。拓、凛、御坂。」

食堂で話しかけられた時と同様、いつになく上機嫌に見える。この上機嫌さは三人にとって恐怖でしかなかった。何を企んでいるのか。何をやらせようというのか。思考を巡らすが、答えが導き出せるはずがない。

「諸君。少しだけ私と組手でもしないか?三対一で構わないからさ。」

兼憲と三対一での組手は基礎訓練をしていた頃から幾度となくやってきた。今現在の日々の訓練でもたまにやる事だから、改まって申し込むほど珍しい事ではない。やはり何かを企んでいる。しかし、そんな不確定な根拠で隊長の組手の申し出を断るわけにはいかない。

「はい。是非よろしくお願いします。」

兼憲に連れられ、三人は広々とした道場にやってきた。

「ルールはいつも通りだ。私対拓、凛、御坂。武器と祝詞を唱えての神の加護の使用は禁止。素手で正々堂々とやろうな。」

拓たち三人は黙って頷くと、兼憲と距離を置いてから拳を構えた。それに合わせて兼憲も構える。

「始め!」

兼憲の合図で拓、凛、御坂は兼憲へと突進する。拓は右側から、凛は左側から、そして御坂は兼憲の正面から攻撃を仕掛ける。神の加護を受けていない一般人が神の加護を身にまとい、威力や速度が増していて、且つそれぞれ別方向から同時にやってくる拳三つを受けたり躱したり出来るはずがない。しかし、それをやってのけるのがNon NAMEのリーダー、兼憲なのだ。左右からの攻撃はそれぞれ片手で受け、はたき落とし、正面からの攻撃は狙いを正確に予測して、体を逸らして躱した。その後も拓たち三人は完璧とも言える連携で兼憲に攻撃を仕掛けるが、攻撃を与えるどころか擦る気配すらない。十分以上続き、さすがに疲れが見えてきた三人は攻撃の手を休めた。

「そういえばお前ら、実行部隊以外のNon NAMEの人たちを避けて、逃げてるように見えたんだが。まるで今の私のように。…って言い方もおかしいか。私に気づかれている時点で今の私のように完璧に逃げられてないもんな。まだ続けるか?」

拓たち三人は肩で息をしながら頷いた。

「よし。来い。」

今度はあまり長く持たなかった。結局攻撃を与える事が出来ずに、三人とも足払いされて床に座り込んでしまった。

「良い組手だったよ。結構危ない場面もいくつかあったしね。」

組手の感想を言いながら、兼憲も拓たちの隣に座る。

「一人ひとりの力は無力だ。だが、諸君は一人じゃない。諸君を支え、応援してくれる誰かがいる。その誰かを大切にしろよ。」

それだけ言い残すと、一人ひとり頭を撫でて道場から出ていった。

兼憲が拓たちに残した言葉の意味は考えずともすぐに分かった。簡単にいえば、Non NAMEの他の人とも仲良くやっていけ。という事だ。そういえば初めてNon NAME本部に来た時、遥と仁は実行部隊以外のNon NAMEの人とも仲良く話していた。あれくらいの関係にならなくては。いや、なりたい。そう思った三人はまず情報を集めた。Non NAMEに関する話を質問する一番の適任は兼憲なのは間違いない。しかし、兼憲はNon NAMEリーダーの仕事がたくさんあり、忙しい。次に適任なのは桜井と友理奈だ。桜井は何か質問するとイライラした様子で自分で調べろと言いそうなので、拓たちは友理奈さんにNon NAMEの実行部隊以外の人たちについて聞きにいった。

「友理奈。教えて欲しい事があるんですけど、少し良いですか。」

「ええ。良いわよ。」

拓たちの予想通り友理奈は優しく、分かりやすく説明してくれた。

「Non NAMEに入ったばかりの頃、一言で『Non NAME』と言っても部門のようなものがいくつもあるっていう話は桜井さんからされたでしょ?その部門ようなものを全て説明すると、まず実行部隊。これはあなたたちのことだしよく分かってるよね。次に後方支援隊。作戦指揮から装備の点検や作戦司令室の整備、清掃、実行部隊の食事関連の諸々などなど、一言で言えば実行部隊を支えている人たちの事よ。作戦司令室のある建物にいる、実行部隊以外の人と考えれば良いわ。私や桜井さんも後方支援隊よ。最後に一般部隊。形式的に部隊なんて言い方してるけど、簡単に言うとNon NAMEに賛同している一般人。Non NAMEの大ファンね。根本的な思想は政府の思想に染まってしまっているけれど、政府に従うことに反対した人たちよ。政府に処刑されそうになったところを助けたり、ライブを見てNon NAMEに影響されたり。ここにいる理由は様々よ。彼らは作戦司令室の建物の外の環境を整備してくれているし、そこで自給自足の暮らしをしているわ。」

拓たちの知りたい事は大体分かった。しかし、どうしたら仲良くしていけるのかがどうしても分からない。

「関わりは少ないかも知れないけれど、仲良くなってね。話を聞いてあげて、軽く返事をするだけでも良いから、絶対に怖がって逃げたりしちゃダメよ。」

まるで避けて逃げていた事を知っているかのような最後の釘刺しは三人の背筋をゾクッとさせた。足りない頭で考えても良案が出てくるはずがない。当たって砕ける気で行くしかない。

三人は一般部隊のNon NAMEの人たちと話すために、作戦司令室の、建物の外に出て散歩した。Non NAME本部の外を歩くのは始めてきた時以来だ。前回の任務ですっかり人気者になった三人は一人に見つかると、どんどん人が集まってきた。

「拓と凛と御坂だ!」

「すげぇー。生のNon NAME!」

「映像で見るよりカッコいい〜!」

人の圧倒感に押されそうになってしまった拓だったが、どうにかその場の会話の主導権を握った。

「皆さんおはようございます。私達、あまり皆さんと関わりがないのでゆっくりお話ししたいんですよ。良いですか?」

口々に帰ってきた返事は肯定的なものばかりで否定的なものは一切聞こえてこなかった。その後、拓たちと一般部隊の人たちはNon NAME本部に来るまでの話や戦闘の様子の話、普段の生活の話などなど、延々と話し続けた。気づけば太陽が沈んで、星が輝いていた。

「Non NAME諸君!任務だ。」

ちょうど話の句切れ目に桜井の声がインカムから聞こえた。再会を約束して拓たちは作戦司令室へと全速力で向かった。いつもは作戦司令室のある建物の中での移動なのですぐだったが、外からの移動となると時間がかかる。案の定、三人は最後の到着だった。

「遅い。何をやっていた。」

「すみません。一般部隊の人たちと雑談を…。」

「分かった。以後気をつけるように。」

口では注意した桜井だったが、表情は微笑んでいた。

「今回の任務は集会取り締まりの阻止だと思われる。非Non NAMEの反政府集団が集会を行なっているところを取り締まるつもりだろう。その集会に結構な人数集まってるからサービスでライブやってこい!」

桜井の最後の一言でNon NAMEのテンションが上がった気がした。

「エレクトの撃退は遥、結衣、拓、凛、御坂に任せる。準備が出来次第、全員で乗り込むぞ!」

兼憲のメンバー選抜の声もいつもより気合が入っているように感じた。

『はい。』

「よぉし!行ってこいっ!」

兼憲のテンション高めの合図で一斉に瞬間移動した。

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