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十一話

日本のある場所。九人の老若男女が巨大な円卓を囲んで座っていた。九人とそれぞれの脇に控えている従者の装いは九人九色。唯一共通していることは、その場にいる全員が正装であることだけだ。おごそかな雰囲気で誰一人口を開かくことなく、ただ沈黙している。そんな中、円卓の部屋に引き戸の音が響き渡る。入ってきたのは紋付羽織袴姿の壮年男性だった。姿が見えた途端、円卓を囲む九人が一斉に起立し、その場にいる全員が姿勢を正した。入ってきた男性は全く気にする様子もなく、円卓の一番上座に座る。一拍おいて立ち上がった九人も席に着いた。

「これより十氏家円卓会議を開催する。」

一番上座に座る壮年男性、にのまえの左隣に座る者、一二三にのまえふみが高らかに宣言すると、大きな拍手が円卓の部屋に響動めく。

「まず始めに三栖みす様、御報告をお願い致します。」

二三に指名されて立ち上がったのは、一の右隣に座る軍服を着た御老体だった。

「報告致す。我らが率いるエレクトと対立している最大民間結社、自称Non NAMEに新たに三名の者が加わったと思われる。その者は番号84,576番、87,125番、そして88,812番。先日叛逆者として連行しようとしたところ、Non NAMEに誘拐された。その後消息不明となり今に至る。」

三栖が腰を下ろすと、再び二三が口を開く。

「各家、何か質問ありますか?」

静かな空間に手が一つゆっくり挙がる。立ち上がったのは丸々太った中年男性だった。細身の男女が集まるこの場において、彼の体格は異常だった。

五明ごみょう様、どうぞご質問を。」

「失礼。Non NAMEに新たな人員が加わることで考えられる影響はどれほどかね?軍事費を増やさないといけませんか?民間人らの欲求が増す可能性は?」

質問された三栖は控えていた従者と小声で話した後、質問の返事をするため立ち上がった。

「Non NAMEの戦闘力は間違いなく上昇するでしょう。その為、軍事費を増やしたいところではあるが、今すぐという話ではない。費用を増やして欲しいとなれば後々また申し上げる。民間人への影響も皆無に等しいだろう。」

その答えに根拠があろうがなかろうが、この会議において「疑う」という概念が存在しない。答えられたまま捉えるのだ。

「よろしいですかな?五明様。」

二三に問われて五明は頷く。

「それでは続いて四條しじょう様。お願い致します。」

立ち上がったのは美しい顔立ちの若い男性だった。

「はい。前回の会議から新たに制定や施行した法律はありません。法律違反によってエレクトから身柄を引き受けた人数は六名。いずれもNon NAMEに感化されただけの非Non NAME民間人でした。この六人は今後、法律に則して四條家と八重家が処罰を与えます。三栖様には親族への処罰を。五明様には物資配給の停止をお願いします。以上です。」

四條が静かに座ると先ほどと同じように二三が各家に質問の確認をしたが、四條に対する質問はなかった。

「次は五明様、お願いします。」

再び丸々太った男性がゆっくりと立ち上がる。

「えー、前回から物資配給の数は受取人の生物的死亡、社会的死亡などによって減少しました。ここ最近はずっと減少傾向にあるので選民への配給の格上げ、民間人のへの配給は現状維持に変更する方針です。何か異議、質問ありますか?」

質問の声は上がらなかった。

「五明様への質問も無いようなので打ち切ります。」

二三はそう言うと、右隣に座っている、日本政府総攬者(にほんせいふそうらんしゃ)である一の方を向き、跪いた。

一皇国神皇(にのまえこうこくしんのう)。何かございますでしょうか?」

奏された一は言葉で返すことなく、片手を上げて答えた。それを見て、二三は立ち上がると円卓に向き直った。

「神皇様も何も無いようです。最後に六義家、七瀬家、八重家代行、九鬼家、十字家の皆さん、何かあります?」

粛然とした薄暗い円卓の部屋に真っ白な手が鋭く掲げられる。その手の主は指名される前に口を開いた。

「指名前に失礼する。貴様たちがどのようにこの国を治めようが私の知ったことでは無いが、この地を汚すな。貴様たちはこの地、豊葦原(とよあしはら)を荒らしすぎだ。戦を早く終わらせろ。勝てぬ戦ならするな。この地を平穏な世にするというから我々七瀬家と九鬼家が協力していることを忘れるな。このままだと貴様ら神祇に見限られるぞ。」

若い(かんなぎ)だった。見た目のか弱さとは裏腹に、その声は場を支配する強さがあった。しかし、円卓の部屋に集まっている人々は皆、只者ではない。

「非成人の巫女風情が生意気な。口を慎め!」

名指しではないものの、七瀬は暗に軍部を批判したのだ。軍部トップの次期当主で、エレクトでも要職を務める六義が立ち上がって、向かいに座る七瀬を怒鳴った。しかし、後に続く者はなく、七瀬も六義の言葉に聞く耳持たず。部屋は清閑の地と化す。

「口を慎むのはそちらではないかな、六義殿。」

沈黙を破ったのは七瀬の右隣に座る九鬼だった。

「その通りだ。座りなさい。七瀬殿、私の教育不届で失礼した。六義の言葉は私から撤回させていただく。」

九鬼に続くように軍部トップのエレクト総帥の三栖が六義を促し、七瀬に謝罪した。六義は周りに味方はいないと判断すると、わざと音を立てて座った。謝罪された七瀬は三栖に対して深く会釈した後、小声で九鬼に感謝を述べた。最後まで傍観していた二三は言い争いが終わったとみると、何事もなかったかのように会議の進行を再開した。

「何かありますか?無いようですね。それでは閉会します。各家代表の皆様、今回もお集まりいただきありがとございました。お帰りの際はお気をつけて。」

二三が席に着くと同時に、一番上座に座っていた一が立ち上がる。一拍おいて他の者たちも一斉に起立し、姿勢を正す。一の退出と同時に円卓会議は解散となった。

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