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十話

Non NAME六人は上空100メートルほどの空中に浮かんでいた。

私服だった装いも、拓たちが初めてNon NAMEに出会った時に遥と仁が着ていた軍服に変わっていた。

どういう原理なのか気になったが、そんな事を聞ける雰囲気じゃない。

下の地上を見ると、そこには黒い川のような人の行列が動いている。

黒い鎧で身を包んだエレクトの隊列だ。

「染やん。ペンを一本貸せ。」

兼憲が染やんから四色ボールペンを受け取ると、頂点をノックした。途端、ボールペンは双眼鏡へと形を変える。

「あれだな。染やん、結衣、皆様方に即刻基地に撤退するよう促してこい。従わないようなら……」

兼憲の軍服の長い裾が風に吹かれてなびく。

「殲滅だ。」

『御意、隊長。』

拓、凛、御坂は兼憲の恐ろしい声音に背筋が凍りついた。

朝、食堂で寝ぼけながら朝食を食べていた兼憲とは別人。まるで人格が変わったかのようだ。

染やんと結衣は兼憲の指示通り、エレクトの隊列の先頭へと落下に近い降下で向かった。

「染やんと結衣のこと、見えるか?大丈夫か?」

声はいつも通りの穏やかな声に戻っている。

しかし、拓たち三人は反応に遅れてしまった。

「おいおい。確かにエレクトは恐ろしいが、私たちがいれば君たちは絶対に安全だから大丈夫だよ、そんなに怖がらないで。」

兼憲が冗談で言っているのか、本気で言っているのか分からないが、少なくともその励ましに全く効果はなかった。

途中、エレクトから狙撃されたりしたが、何事もなく地上に辿り着いた染やんと結衣は鳥が地に舞い降りたかのように優雅に着地した。

エレクトが進軍をやめ、双方が睨み合う。

「分かっていると思うが、Non NAMEだ。これより先の進軍は我々が許さない。今すぐ撤退しなさい。従わないなら全力で対抗する。」

染やんが高らかに宣言する。

いつものちゃらんぽらんに見える様子とは全く違う。威圧感が半端ない。

拓が今の染やんと向き合ったら一目散に逃げるだろう。後ろに静かに佇む結衣も、近寄りがたい雰囲気を醸し出している。

それでもエレクトは引き下がらない。

「我々は政府の命により進軍を許されている。今すぐ我々の行進の邪魔を辞めなければ、こちらの全力を持って処刑する。」

今度は結衣が冷たく微笑んでエレクトに向かって言い放った。

「了解しました。……れるものならやってみろ。」

刹那。展開し始めていたエレクトが染やんと結衣を包囲して、二人に銃口を向ける。

しかし、二人は全く動じる事なくその場に佇んでいた。

「撃てぇー!」

その隊の隊長であろう人物の合図でエレクトが一斉に発砲する。

「危ないっ!」

拓は本能で降下をしようとしたが、兼憲が腕を上げて制止した。

「大丈夫だ、よく見てろ。」

我に返って降下をやめた拓だったが、そもそも拓は降下出来ていなかった。

大きな銃声が鳴り響く中、インカムから撃たれているはずの染やんの声が聞こえた。

「そろそろ新人さんへの演武も終わって良いっすか?」

とても撃たれている人の話し声には聞こえない。

光がチカチカとしてよく見えない、あの弾幕の中では何が起こっているのか拓たちには予想も出来ない。

「あぁ。早く楽しい戦闘を見せてやってくれ。私も上から楽しむから。」

『了解でーす。』

二人の返事と同時に銃声が止んだ。

エレクトが発砲を止めたのだ。

いや。正確にいうと「止めさせられた」のだ。

二人に銃口を向けていたエレクトは一瞬で気絶したのだ。今まで撃たれていた染やんと結衣は全くの無傷で、手に青い刀身の剣を持って立っていた。

「何が…起きたんですか?」

目の前に広がっている光景を見て、拓は兼憲に質問したが、すぐに質問した事を後悔した。

隣で浮遊している兼憲は自らの身長以上の長さがある狙撃銃の銃口を地上に向けたまま、なんと微笑んでいたのだ。

「あん?あぁ、本部に帰ったら色々説明するから、今はこの状況に慣れておけ。」

兼憲は返事を待つ事なく、狙撃銃を機関銃並みの勢いで連射した。

本来、狙撃銃はそんなに連射するものでも、出来るものでもないが、兼憲はやっているのだ。

しかも空中浮遊しながら。

地上はNon NAME三人による攻撃で血の一切描かれていない地獄絵図だった。

次々と人が倒れていき、仇取りのために挑んでいっては倒され、また挑んでは倒され。

エレクトに勝ち目がないのは見て明らかだった。それでもエレクトは戦う事を止めない。

これは戦いというより「一方的な虐殺」に近い。

拓たち三人はもう見ていられず、目を背けた。その瞬間、インカムから怒鳴り声が聞こえた。

「兼憲!それぐらいにしとけ。もう止めろ!」

桜井だ。しかし、兼憲に止める気配はない。

「いい加減にしろ!兼憲!」

再度怒鳴られてようやく兼憲は我に返った。

「すみません、桜井さん。」

「謝るべき相手は隣にいる三人だ、全く。」

桜井に言われて、兼憲は拓たちを一瞥する。

その表情にはもう先ほどまでの恐ろしさは残っておらず、申し訳なさそうな表情をしていた。

「染やん、結衣。そろそろ切り上げるぞ。」

「でも、まだ半分も…」

「もう十分だ!上に上がってこい。」

兼憲に強く促され、渋々上昇してきた。

エレクトは背を向けた染やんと結衣に向かって銃弾を浴びせたが、二人には全く当たる事なく、放たれた銃弾は虚しく地上に落ちていく。

「よし。じゃあ皆様方には帰っていただこうか。」

兼憲、染やん、結衣は空中で合流すると、横一列に並んで右の手の平を地上にかざした。

『この地に宿る神々に畏み畏み申す(かしこみかしこみもうす)。』

三人が言葉を揃えて唱えた瞬間、エレクトが立つ地上が光り輝く。

その光はだんだんと強くなり、エレクトの姿を捉えられなくなるほどまで強くなると、徐々に元の地面に戻っていった。

その時にはあれ程大量にいたエレクトも誰一人残っていなかった。

拓たちは目の前で起こった現象に対しての疑問より、なぜ最初からこの手段を取らなかったのかという怒りに近い疑問の方が優った。

「さぁ、本部に帰ろう。」

兼憲の合図で結衣がまた指を鳴らす。

六人はNon NAME本部の作戦司令室に立っていた。先ほどまでずっと浮いていて、久々の床だが全く違和感がない。

「お疲れ様です、皆さん。」

兼憲、染やん、結衣は手を挙げて答えたが、拓たち三人はとても返事をすることが出来なかった。

「今すぐ説明という名の釈明をした方が良いと思うけど……兼憲とか実行部隊からじゃない方が良いですね、たぶん。桜井さん、友理奈さんお願いして良いですか?」

遥に言われ、桜井が面倒くさそうに振り向く。

「ったく。お前らの代わりに説明しといてやるから、部屋から出てけ。こいつらが怖がって話に集中出来ねぇ。全く。毎度毎度……。」

桜井に言われた通り、実行部隊メンバーは作戦司令室を出ていった。

「んで、説明なんだけど、俺がしても良いが、それじゃあいつらからするのと同じくらい話が頭に入らないと思うから。友理奈さん、頼んだ。」

それだけいうと、桜井はまたスクリーンと向かい合った。友理奈は桜井に会釈すると、拓たち三人に微笑んで言った。

「ここじゃゆっくり出来ないでしょうから、移動しましょうか。」

友理奈は座っている椅子の肘掛けに手をかざした。すると椅子が少し浮き上がり、移動し始めた。

「ついて来て。」

案内されたのは椅子と机しかない小さな部屋だった。

「どうぞ、好きに座って。」

三人は友理奈に促されるまま座ると、拓たちに向き合うように友理奈が椅子を着地させた。

そして、三人を順番に見つめ、何か決心したように一度息を吐いた。

「まず最初に一つ言っておくね。実際に見て分かったと思うけど、断言するわ。Non NAMEに『正義』はない。どちらかといえばNon NAMEは『悪』ね。武力で人々を統制しようとした政府に対し、同じように武力で対抗してしまった時点でNon NAMEに正義はないの。」

拓たちはすでに痛感していた。

正義だと信じていたNon NAMEは見方を変えれば悪。ある意味テロリストであり、世界の平穏を乱す存在なのだ。

「本題に入るわね。Non NAMEの起源の話よ。かつて選民によって様々な制度がつくられていた頃、その制度に反対する人たちは現れてはどんどん処刑されて、最終的には政府の方針に反対する者はいなくなったことになってるわ。でも実際には少数だけど政府に反乱する者たちはいたの。その者たちがNon NAMEという組織を作り上げ、守り続け、後世に繋ぎ、残してきた。でもそれは圧倒的支配力を持つ政府に対して為す術もなく、ただ存在するだけの組織だった。その状況を一変させたのが、かつて日本人の多くが信仰していたとされる八百万の神だったの。人々の信仰によって存在し続ける神々は、日本人がいつの間にか信仰する事を忘れてしまった為、存続の危機に陥っていたの。そこで神々は存続の危機脱却のためにNon NAMEを利用した。Non NAMEに神の加護を与え、信仰を取り戻させようとしたのね。その加護と科学技術の複合で完成したのが君たちも持っているペンやインカムだったり、空中を自由に動き回ったり、瞬間移動する能力だったり。でも、神の加護を受けるための資格は、政府側に加護が与えられないよう、Non NAME側の神道の血筋の者か『忘れられた世界の真理を求める』者たちだけに限られたの。でも、その資格は反政府であるNon NAMEでも厳しい条件だったの。神道の血筋でも政府の思想に染まっていて、Non NAME側ではなかったり、世界の真理を求める知識欲が人々から欠如していたり、結局、神の加護を受けられたのは数人だったそうよ。残念ながら今もその状態から変わってないけど。でも、政府とNon NAMEの戦力差は逆転したわ。政府軍一個師団に対し、Non NAMEは一人でも圧倒出来るようになったの。その気になれば皆殺し出来るほどに。しかし、Non NAMEは決して政府軍と同じような下劣な存在に成り下がらないように、大きく二つの誓いを掲げたの。自分たちからは攻撃しない、殺しはしない。先守後攻、無殺生の二つを。でも、それは永遠に終わることのない政府とNon NAME側の戦争の幕開けだったの。」

友理奈の言葉は拓たち三人に恐ろしさを与えていた。普段通りの優しい語り口調なのに、言葉一つひとつかのしかかってくるように重たい。

三人の額に冷や汗が流れる。

それでも構うことなく友理奈は説明を続けた。

「君たち、『止まない雨はない』とか『明けない夜はない』って言葉は聞いたことあるよね。Non NAMEに入ってから知った言葉だと思うけど。『今は悪い状態だとしても、いつかは終わってきっと良い状態になる』みたいな意味だけど、それって『時間』の概念があってようやく成り立つ事なんだよね。止まない雨はない、いつかは止むと言っても、『いつか』の概念がなければこの言葉は生まれなかったよね。二者が争う時、戦力的に劣勢な一方が『時間』の概念を有していなければ、その争いに自発的終わりはないの。終わりがあるとしたら、優勢側の謎の降伏か、劣勢側の完全無力化つまり滅亡のみ。これをNon NAMEとエレクトに置き換えると、Non NAMEは優勢であり、『時間』の概念を有している。対して、エレクトは劣勢であり、『時間』の概念を有していない。つまり、Non NAMEの謎の降伏かエレクトの完全無力化、滅亡が戦争の終わりだと考えられるわね。でも、二つともあり得ない。Non NAMEは圧倒的な武力と強い意志で政府に抵抗し続ける。降伏なんて絶対にしない。エレクトはNon NAMEの無殺生と絶対的支配によって政府軍、エレクトは存在し続ける。滅亡は考えられない。人々を救いたい。その為にはエレクトをどうにかしなければならない。しかし、殺しをしてしまったら本当の意味で人々を救うことは出来ない。だけど、殺さなければエレクトは滅びない。ジレンマね。Non NAMEに希望はないのかもしれないわ。」

友理奈の抱える絶望は、友理奈の言葉を通して、拓、凛、御坂にも伝わってきた。

しかし、その絶望は真っ暗闇ではないように感じた。

「それでもみんなには人々を救ってほしい。これから先、Non NAMEとして、理不尽なこの世界に抗い続けて欲しい。」

拓、凛、御坂は友理奈を真っ直ぐ見据え、力強く頷いた。それを見て、険しい表情だった友理奈も微笑む。

「最後になったけど、戦闘になったらみんな必死なの。たぶん三人も必死になる。だから、叶う事がないと分かっていながら夢を追いかけるみんなを、自分を怖がらないで欲しい。私もかつてはNon NAME実行部隊の一員として夢に向かって一生懸命戦っていたから、みんなの気持ちが少しだけど分かるの。」

最後の最後になかなか衝撃的な告白があった事で、三人は驚きを隠せなかった。

「え…?友理奈さんって元実行部隊なんですか?」

「そうよ。副隊長まで出世したのよ。まぁ、色々あってやめちゃったけどね。さぁ戻りましょ。」

友理奈は再び椅子を浮上させると、部屋を出ていった。友理奈に連れられ、作戦司令室に戻ると、そこには実行部隊一同が苦笑いして待っていた。

「友理奈さんからの説明で釈明になったかな…?」

恐る恐る尋ねる兼憲に拓たちは微笑みながら頷いて答えた。

『はい!これからもよろしくお願いします。』

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