八話
選民。
それは今の日本を支配している人々の総称だ。
その選民たちの頂点に君臨している存在。
それが十氏家。一般人はお目にかかるどころか存在を実感する事すら難しいほど尊い存在だ。
シグナルたち三人は、はっぱの持っていた書物に十氏家やその他諸々、今の日本を支配している存在の記述があったので知っているだけで学校では教わっていない。
「へぇ〜。私の身の上を知っているとは。詳しいね。じゃあ、なぜ私がこんなところにいて、Non NAMEのリーダーをやっているのかも疑問に思ってる訳だ。」
三人は同時に頷く。
「そうかそうか。まぁ、それは追々話すさ。」
文面上の十氏家は非人道的な存在のように記されていた為、身構えてしまっていた三人だったが、微笑んで話す八重兼憲からは一切恐怖を感じなかった。
「遥と仁はもう知ってるな。あとの二人を紹介しよう。染谷健介と藤城結衣だ。」
紹介された二人が順に挨拶した。
「どうも。染谷っす。これからよろしくっす。」
「藤城結衣です。仲良くしましょうね。」
「我々五人が世間一般『Non NAME』と呼ばれている実行部隊の面々だ。その他にもNon NAMEはいるがその人たちは後々紹介しよう。これから三人は我々と一緒に、ここNon NAME本部に暮らしてもらうことになるから、まずはここの案内をしよう。」
『はぁ…。』
Non NAMEになるのだから今まで通りのところで生活するとは思っていなかったが、話の展開の速さに三人は戸惑う。
まさかNon NAMEの本部に暮らすとは。
八重兼憲に連れられ、施設を回るために部屋を出ようとした途端、それを遮るように大きな画面の下の方から声がした。
「おいおい。俺らは無視かいな。おじさんたち悲しいよぉ〜。」
そこには八重兼憲たちより少し大人に見える男とほぼ同年代に見える女が座っていた。
「すみません。割と冗談抜きで忘れてました。」
それを聞いて女性の方が拗ねた表情をする。慌てて八重兼憲が言葉をつづける。
「えっと、そっちのスクリーン、画面のところに座ってる二人は桜井辰樹さんと大神友理奈さん。私たちが実務作戦を行なってる時に支えてくれる。ナビゲーターって言って分かるかな。」
三人は頷いた。
「おう。よろしくな。先に言っておくが、俺らの言う事は聞くようにしろよ。痛い目にあうぞ。」
「よろしく…。」
二人の紹介が終わると、施設の案内をしてもらうために八重兼憲に連れられ、広い建物の中を歩き回った。
作戦司令室と呼ばれる部屋を出て、食堂や談話室、図書館や何をするのかよく分からない空き部屋の数々を見て回り、いざこれから暮らすという部屋に行こうとする前に、他の部屋と比べると妙に狭い部屋へと寄った。
見た目からして明らかに古い部屋だと分かった。
「ここはかつての本部。Non NAMEが発祥した部屋と言われている。Non NAMEに所属するメンバーは必ず入る日にここに来てもらうんだ。」
神妙な面持ちで聞いていた三人に八重兼憲が何か渡してきた。両手ほどの大きさの長方形の箱だった。
「Non NAMEの証だ。開けてみろ。」
開いてみると、中には耳にかける支えてのついたイヤホンのようなものと、シャープペン付四色ボールペンが入っていた。
両方に『N』という紋章が刻まれている。
「それはこれからNon NAMEとして活動していく為に必ず使う。ボールペンの使い方は明日教えよう。だからノックなど一切しないでくれ。もう一つの、そのイヤホンみたいなものは今すぐ耳につけてくれ。」
言われた通り、それを耳につけると誰か女性の声が聞こえてきた。
「こんにちは。聞こえてますか。大神友理奈です。」
先ほどはよく聞こえなかった大神友理奈の声がはっきりと聞こえる。
「は…はい。聞こえます。」
シグナルが答えると、今度は桜井辰樹の声が聞こえた。
「繋がってるみてぇだな。そのまま外すなよ。」
桜井辰樹の言葉に続けて、八重兼憲が説明し始めた。
「それは『インカム』といって、数千キロ離れたところからでも会話が出来る機械だ。いかなる時でもつけていてくれ。みんなの耳の形に合っているから違和感はないと思うが大丈夫か?」
三人が頷くと説明を続けた。
「任務中はそれで他のメンバーやナビゲーターと会話をする。その時になかなか慣れないと思うが…名前で呼び合うんだ。フルネームじゃなくてニックネームに近い形で。例えば、私はみんなに『兼憲』と、まぁ普通に呼ばれているよ。他のみんなは…」
「私は『遥』でよろしく〜。別にはるちゃんって呼んでも良いけど。」
「俺は普通に『仁』だな。」
「わいは『染やん』って呼んでくれ。』
「私は『結衣』って呼んでね。」
「俺の事は『桜井さん』呼べ。"さん"を忘れんな。」
「私は好きに呼んでもらって良いわよ。私だと分かれば。普通に『友理奈』が良いのかな。」
インカムから次々とNon NAMEのみんなの声がする。それを聞いて苦笑いしながら、また説明を続ける。
「と、いう事で。三人にも呼び名を決めてもらいたいんだが希望はあるか?本名とはあまりかけ離れなければなんでも良いが…。」
三人は少し考えると、順に言っていった。
「僕は『拓』でお願いします。」
「俺は『凛』で。」
「じゃあ、私は『御坂』でよろしくお願いします。」
兼憲は頷くと少し大きな声で言った。
「それでは改めて。Non NAMEへようこそ!」
『Non NAMEへようこそ!!!』




