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こんなに素早い芋が芋のはずがない  作者: クファンジャル_CF
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第19話

両生類男―――イルドでも名の知られた情報屋であるカ=エルの朝は、シャワーから始まる。

皮膚呼吸と肺呼吸を併用する彼の種族にとって、保湿は死活問題であるからだ。しっかりと水分を蓄えた全身から酸素をたっぷり吸収すると、保湿ジェルを全身に塗りたくる。そうする間にも家庭AIに命じてモーニングの薬草茶を準備。

やがてジェルを塗り終り、服を着ようとしたところで電話が鳴り出した。

「へいへい、ちょっと待ってくださいよ~」

腰にバスタオルを巻きつけ、両生類男は端末を手に取る。

「おぅ、姐さんじゃないですかい。今日はどうしました?へ?軌道上の簡易ドッグに停泊してるチームについて知りたい?ドッグ番号は?宇宙レース?へいへい、少しお待ちを」

仕事部屋に入ると電灯が自動で作動。決して狭い部屋ではないが、無数のモニターに埋め尽くされた内部は、余人が見れば圧倒されるだろう。

カ=エルは椅子に腰かけると、端末を肩と耳に挟んで固定。その状態のまま、机に設置されたキーボードを素早く叩く。

「ああ、"黄金の薔薇"号のチームっすね。ふぁ……おっと失礼、寝起きなもんで。え?チームの人間関係?手出しする奴の心当たり?別件で調べてたんであるにはありますけど高くつきますよ?いい?へい、八百長関連でいくつかきな臭いかなと。ああ、まさにそれ?へいへい。シンジケートとポリスが手を組んでるってのまでは突き止めたんですけどね。実行役まではちょっと―――」

要求されたデータをまとめると、相手に送信。

「つきました?へい。了解っす。またご用命があればいつでもご連絡くださいなっと。ではさいなら~」

通話を切ると、彼は立ち上がった。

「……あ。忘れてた」

出来上がった薬草茶は冷めていた。


  ◇


銀河諸種族連合、天文観測艦隊。

それは、宇宙を旅する者たちの灯台だった。

慣性系同調航法には移動先のリアルタイムな天文情報が必要である。だが、移動先が遠距離になればなるほど、得られる情報はリアルタイムからかけ離れていく。10光年離れたところに移動しようとすれば10年前の情報を観測した上で跳躍する必要があるのだ。

星系が無人であるならばいい。だが、人が居住している星系は、その開発の度合いによって刻一刻と重力状況が自然状態からかけ離れていく。微惑星を集めて小惑星を1個作るだけでも重力状況は大幅に変わってしまうのだ。重力の影響は離れれば離れるほど小さくなるから、出現地点を十分な遠距離にすれば跳躍できないことはないとはいえ。

故に、円滑な船舶の航行を目的として存在するのが天文観測艦隊である。彼らは銀河中の交通の要衝において、詳細な天文情報を観測し、それを提供し続ける。

そのうちの1隻―――【秋風―12】が通信を受けたのは、そんな任務の最中のことだった。


仮装戦艦―――手首・足首の部分から四基の特異点砲を伸ばし、機体上部に据え付けた副砲が頭部のように見える35m級機械生命体(マシンヘッド)―――である【秋風】は、通信の発信者に内心首をかしげていた。海賊狩人ハンターキラーから情報請求が来るとは珍しい。

しかし請求手順は正規のもの。彼女は、配下観測衛星群から得た情報を統合すると送り返す。

ややあって、返信が来た。

それは、【秋風】らが観測していなかった時間帯・場所の情報を求めるものであった。

彼女は3マイクロ秒もの長時間黙考すると、超光速機関を起動。ショートワープを実行した。


光学情報は、光速でしか伝搬しない。10光秒先の地点の情報は10秒の時差がある、ということだ。

これはいいかえれば、10秒前の様子をリアルタイムに観測したければ、10光秒離れるだけでいい。という事でもある。

彼女は、目標となるコロニー―――宇宙レース関係者の宿泊するホテルがある―――から適切な距離が取れていることを確認すると、観測帆を展開。

惑星間規模での遠距離射撃すら可能にするだけの情報収集能力を誇るそれは、直径数十キロにも及ぶ巨大な彼岸花だ。

【秋風】はじっと、数時間前のコロニーの様子をリアルタイム(・・・・・・)で観察し始めた。

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