《4》へっ!?
間もなく歩道の一部が、動き出した。空気が漏れるような、小さな音と共に。私が寝ているシングルベッドより一回り大きめの長方形のそれが、1センチほど浮き。そして、オルゴールのような音と共に。姿を現した。
「エレベーター?」
姿を現したのは……スケルトンのボックス。微妙に模様が入っている、的な。彼女がそれに乗ろうとすると、扉が開く、ではなく、透明壁の一部が、消えた。
「カナエちゃんは、まだ入らないでね」
彼女一人で入り。外からはエレベーターの階層ボタン、らしきものは見えない。だけど、あるだろう的な位置にブレスレットを合わせ、唇を動かす。聞こえなかった、けど。
「エミール様、ご用件は?」
聞こえてきたのは、ニュースキャスターのような男、の声。
「”あっち”の世界から来た女の子、とお供の犬に遭遇しました。個生物情報管理省にお連れしたいので、短時間臨時登録、お願いします」
何か、難しい単語が出てきた。
「感謝いたします。……それでは、ご通過ください」
入口のスペースに、モヤが敷かれた。映画館でスクリーンに映し出す時の、空中のホコリがキラキラしている感じ、的な。
「カナエちゃん、入っていいよ」
「あ、は、はい」
恐々と、そのボックスへ。友も、当然。内部からも四方八方、街並みが何となく見える空間だった。
「スキャンOK。危険物質はございませんでした。……では、お名前をフルネームでどうぞ」
「へっ? わ・た・し!?」
案内役が笑顔で、頷いた。
「あ、はい。……八女代奏笑、です」
「……ヤメシロカナエ、サブエントリー、完了。……次に、お供の方のお名前をどうぞ」
「はい、克己、です」
「……ヤメシロカツミ、サブエントリー、完了。……有効期限は2時間。ではエミール様、ご足労ですが、よろしくお願いいたします」
「わかりました」
入口のモヤは消え、壁同様に。
「個生物情報管理省へお願いします」
彼女の合図で、その小部屋はゆったりと、下へもぐり始めた。外光は失せるも、部屋内の各辺に沿った電燈が、多少の明るさを演出。その外では、散りばめられた数色のLEDライトが、下降スピードを知らせてくれている。10秒もしないうちに、停止。次に、低速で右へ横移動し始めた。そして加速。
「怖くなぁい?」
顔をエミールさんへ。相変わらずの、可愛い笑窪。
「はい」
「怖かったら、外を見えなくすることも可能よ」
「はぁあ」
「例えば……リアレンジ・ウォール」
すぐに内壁のスケルトン感が、映像に変化。潜った経験はないけど、多分、海の中。色々な魚が泳ぎ、下側には植物のようなモノ。ワカメとか珊瑚なんだと思う。
「わぁあぁ」
驚きの声、しか出ない。
「チェンジ」
彼女のコトバに、壁は応えた。
「森?」
気が生い茂り、鹿や兎が飛び跳ねている。
「あっ、トラ!」
動物園で見たことある、動物たちの形が色をつけて、居た。
「チェンジ」
次は、宇宙空間。図鑑で見たことのある黒背景に、灰色的なモヤや、数多くの白点々。それが、いくつもの色と、大小さまざまな惑星や星によって、立体感を表現していた。
「すっ、スゴイ」
今いる状況を忘れて、いた。
「さぁ、もうすぐよ」
横の移動から、上昇へ。そして、停止。ルームシアター箱もスケルトンに、戻った。外は、暗い。明るいのは、背中側。
「到着」
エミールさんが手首のモノを壁に当てると、スーッと壁が消えた。最初に出て、手招きしてくれる。ドキドキの私は、友と視線を合わせ。一緒に、踏み出した。ん? 踏み入れた、かな?!
(部屋? 事務所?)
そこは建物のロビーや廊下ではなく、六面白壁の部屋。遠近が怪しいけど、教室より小さい。ん? やっぱり大きい、かも!?
(な、何にもないんだけど……)
そこに、人もモノもない。長く居ると、変になりそうな空間。ふと見た足元は、透明感と光沢感の床。
(ガラス? アクリル、かなぁ?)
なのに、足を着けると瞬間、模様がフワっと波紋のように現れ、消えた。
(へっ!?)
もう一歩前に出してみた。着地と同時に、現れ、消えた。その場に足踏み。その反応、子どもたちの嬉しさが、分かった。
(面白っ! 何、かなぁ?)
模様柄は、不明。
「エミールです」
誰もいない部屋で喋り出した。そんな彼女を見ると、別の声。
「お待ちしておりました。ご一報頂き、感謝申し上げます」