《3》なに?
ウォン
声の主は、動揺していなかった。
「ねぇ、克己、私、死んだの?」
両手で彼の頬を、撫でながら。
(あれっ? だったら、克己がここにいるのも……)
「克己、私、おかしくなったの?」
両手で彼の耳を、撫でながら。
(でも、さっきの人、普通だよね……)
「克己、ココ、どこ?」
彼のトレードマークをなぞりながら、答えを、求めた。
「あら、珍しい犬ね。犬種は何?」
左を向くと、傍に大人の女性の顔が。その人は、克己を見ていた。
「あ、はい、甲斐犬です」
「飼い犬?! 変わった種類ね」
初めて目が合った。
透明感のある焦げ茶目が輝き、吸い込まれそう。肌は色白く、鼻筋も綺麗。黒髪のポニーテールで、清楚感バッチシ。
(きれぇ〜)
唖然としている私に、女性は目を細め、笑顔を見せてくれた。その時に現れた片笑窪が、とっても可愛い。
(日本人、っぽくない)
なんというか、彫りも多少深く、ハーフって感じ。
(でも日本語しゃべってる……)
ただ見つめていた。20歳後半くらいのその彼女に、いつの間にか彼は正面を向けていた。顎の下を撫で撫でされている。
「あら、素敵なお名前。カツミって呼ばれてるのぉ」
「ぇ? (何で知ってるの?)」
すぐに反応してしまった。
「え?」
彼女もなぜか驚きの、表情と目を私に。再び克己に視線を戻した。目で会話するように。
「そう、そういうことねぇ」
眼差しが、私に……。
「嬢ちゃん、”あっち”から来たばかりのようね」
(あっち?)
「お名前は?」
「か、奏笑、です」
「カナエちゃんね。素敵なお名前だわ。私はエミールよ。よろしくね」
「え、えみーる、さん。はい、よろしくお願いします」
何がよろしく、なのかは不明だった。でも笑窪アピールに、釣られた。
彼女はすぐに手首の装飾品を見た。ブレスレットっぽいけど、腕時計らしいモノ。
「そうねぇ〜……少し待っててもらえる」
立ち上がり。それを指で触れ始め、そして話し出した。
「おはよう。朝早く、ゴメン。……少し急用ができて、1時間ほど遅れるけど、いいかなぁ……うん、わかった。……ありがとう、それじゃ後で」
(電話!? どこで話してるんだろう?)
耳や口元にそれを近づけたわけでもなく、耳に専用装備をしているわけでも、ない。
「今の、お電話、ですか?」
先ほどの姿勢に、戻った彼女に訊くしかない。
「オデンワ? 何それ?」
「(へっ?) え、えっと、そのぉ〜……離れている人と、お話ができる、機械?」
「何で疑問形なの、フフフっ。分かったわ、通信装置のことを言ってるのね」
「は、はい。あっ、確か……」
ポケットに持っていた携帯電話を、見せた。物珍しそうな彼女の目つきが、それに近づく。だから、ディスプレイをオンにして……だけど“圏外”の文字に気付いた。操作しても、当然通信不可、より酷い。自宅に電話したけど、プープー音もなし。
「当然、よね、フフっ」
「はぁあ」
その“当然”、の意味が不明だった。
「コチラでは、テレ・フォンと呼ぶの」
「……テレホン、とも言います」
「”あっち”のテレフォンとは、かなり違うんじゃないかなぁ〜」
首を傾げていた。
「ゴメン、説明したいけど、今は時間ないんだ。でも安心して。コチラに来たカナエちゃんを連れて行く義務があるから。一緒に来てちょうだい」
「(ふぇっ)どこに?」
「カナエちゃんが、コチラでも活動できるように登録する所よ」
「……あのぉ〜、ココってどこですか?」
「そぉね〜……どう説明したら……んんん……分かりやすく言うと、カナエちゃんの住んでいる惑星と同じってことね」
「はぁあ」
馬鹿にされているのか、揶揄われているのか。とにかく何が起きているのか、少しでも把握しておきたい。今はただ、親切な彼女に頼るしか、なかった。
(バス? 電車、かなぁ……)
違った。
数十メートル歩いただけ。中腰になった彼女は、手首装飾物を歩道へ向けた。なにやら、長方形の光沢あるモノ、発見。定期券より、小さい。
「すぐに来るから」
(なに、が?)
お読み頂き、心より感謝致します。
未来設定ではなく、もし始祖のエデン追放がなかったら!という世界観を表現したいのですが……
頑張りたいと思いますので、応援のほど宜しくお願い致します。
ご感想など頂戴できると、励みになります。また、誤字脱字など、お気づきの点ございましたら、ご教示ください。
では、続きをお楽しみに。