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《2》どこ?

 

 ***



 アイバンク登録者ドナーが、まだまだ少ない日本。だけど、偶然の出会いだった。

 そのお陰で、その人たちの好意で、今の私がいる。


(これで、何かが変われば、いいけど……)


 視覚だけでなく、気持ちも少しだけ前向きに。そう。私のこれまでの人生は最悪だ、と思っていた。まだ(もう?)14(歳)だというのに……。

 生まれつきの目の異常。虐められる、対象。


『虐められる方にも原因がある』


 って言う大人がいるけど……「この姿で生まれた私に、原因があるの?」と訊いてみたい。


「気持ち悪い」とか「移るから、触らないで」「呪いの目で、見ないで」とか……。他の子からすると外斜視は、ただの化け物。目ん玉が大きく見える低視力用の強度眼鏡は、ただの変人。眼鏡を奪われ、踏み潰される時も。何度、作り替えたことか。

 私自身が、異物だった。


『お前、宇宙人だろ』

『違うよ、畜生だろっ』


 地球人に、なれなかった。生まれた場所、間違えた? って真剣に思った。あの子たち、あの学校、この社会という集団の中にいる限り……。


 私の重大な目の病気。それは全色盲。

 つまりカラー無き、モノクロ色覚。誤解して欲しくないのは、白黒世界じゃない。黒も灰色も何十何百パターンがある世界ってこと。人肌や服、食べ物や街の色彩を、感じたことがないだけのこと。でも、皆が言う“普通”の人間には、なれなかった。

 治療法のない全色盲は、憎くて憎くて仕方がない。


(どうして、この世界に生まれたんだろう……)


 自分が嫌いで、生きていくのも嫌だった。全てが嫌になって、ある決心をした時機ときだった、のに……。彼と、出会った――



 ***



 直線の歩道には低めの植樹や電柱。右手側に交互車道。その両側に一般的な家が建ち並ぶ。5、60メートル先は三叉路のブロック塀。歩いている人間は数えるほどで、車もまばら。いつものモノクロ景色。

 のハズなのに……

 ダブって見えるのは、別素材。ゆったりと右に弧描く、延々と続く広々した車歩道。両側には不均一に並ぶ、3階建のお洒落な建物。薄っすらとした、歩人。それらは全て、多色化した街並み。さらに、視野内の高い位置で直線移動する小物体が複数、あった。普段見える飛行機よりも、速く。

 横を見ても、後方を振り向いても、ダブり視覚。


(な、なに、これ?)


 気分が悪くなってきた。視覚から突入する奇妙な現象に、目眩めまい。バス酔いのような吐き気が襲ってきた。


(キモっ)


 膝を抱えるようにしゃがみ込んだ。

 視線は足元の地ベタ。統一感のないグレーのアスファルト地と、異なった2色を規律よく使われた光沢ある阿弥陀あみだ模様の地が、重なり合っている。


(ダメっ)


 両目閉眼し、吐き気との戦い。寒気なのか、足が、手が震えてきた。胃から込上げるモノがあった。手で防止。さらに、咳き込む。


(私、変! 異常だ……助けて……だ、誰かぁ……)


 手に持つリールの振動を感じ、強く握り締める。


(克己、お願い!)


 友に助けを求めるほど、混乱していた。


 ビェチョン


 左コメカミの触感。細く開けた左目に、彼のド・アップ。心配してくれている。


「ありがとぅ。克己」


 大きな呼吸を何度か行なった。心配させちゃいけない、と。逆流感を抑え、胸のムカつき感を唾液と共に、奥へ仕舞い込む。そして勇気を振り絞り。ゆっくり、顔を平行に。

 両目に映り出された視野から、確実に、薄れてゆくモノクロ調和。多色化した御伽噺のような景色に、囲まれてしまった。


(どこ? ……色、見えてる?)


 見知らぬ、場所。記憶にない、贅沢な派手世界。経験のない、気色悪さ。

 建物は日本的じゃなく、どこかの国っぽい。直方体のような建築物は見当たらず、多種多様。でも全てが3階建。行き止まりが見えないほど、道に沿って並んでいた。街並み自体が、デザインされているように。


(飛行機? ……なんか、違う)


 視線は、色のついた空のキャンパスに。数えられないほどの高速移動する物体が、見えた。それも、縦、横、斜め、直線、曲線。それぞれの動き。ただ高過ぎて、何かは不明。


 呆然と、見つめていた。




 プフォンプフォン


 突然の聞きなれない、空気漏れしたような音。後方へ首を回し。


「君ぃ、大丈夫かい? もし動けるなら申し訳ないけど、3メートルほど左に移動してくれると、嬉しいんだけどなぁ」


 間近に、横長のシャッター模様のモノ。


(ロボット? 車?)


「体調、悪いの?」


 そこから、聞こえてきた。


(喋る、車?)


 周囲を確認すると、車道に座り込んでいることに、気付いた。だから、立ち上がった。その物体内に人がいるのを、確認できた。


「あっ、ゴメンなさい」


 つい、喋った。聞こえない、はずなのに。


「いいのいいの、でも気をつけてね」


 彼の口が動き、その声が物体から。


(……スピーカー?)



 歩道らしき領域に移動。彼のリールを引っ張って。手で挨拶する男のそれは、スーと静かに走り去った。


「……タイヤ……」


 呆然としていると、別の横切る物体も。やはり、タイヤがない。宅配屋さんが使うような、ボックス型の車、なのに。


 この見知らぬ場所と不快な物体たち、慣れぬ多色化した光景に、驚き、焦り、不安がどっと押し寄せてきた。


(どこ? えっ、夢? えっ、何、未来? ぇ、え、エ?)


 キョロキョロ見渡して、現状認識。

 すでにダブり視覚はなく。その異質環境の中にいることを、自覚できた。しゃがみ込み、耳を両手で塞ぎ、目を閉じ、独り言。


「副作用? 違う、はっきり見える。でも違う。もしかして、麻酔のせい? 今頃? まさか、ストレス? 幻覚? 私、病気? 学校には行きたくないけど、病院に行くのも嫌だ。……もしかして、私死んだの? あの激痛で? ってことは、ここは天国? 違う、私なんか天国に行ける、はずない。……地獄? でも、なんか違う……」


 片手ゲンコツで頭を、ポカポカ。ホッペを、ギュー。瞼を、モミモミ。ホッペを、パシパシ。

 頭痛もなくなっていた。吐き気も治まってきた。でも、変。

 恐る恐る、片目のみ。数色のルービックキューブ模様を、足元に確認。少しずつ歩道に沿って、見渡す。

 残念ながら、異質の世界感は維持されていた。



 

お読み頂き、心より感謝致します。

これから何が起こるのか、わかりませんが、頑張りたいと思いますので、応援のほど宜しくお願い致します。


ご感想など頂戴できると、励みになります。また、誤字脱字など、お気づきの点ございましたら、ご教示ください。


では、続きをお楽しみに。


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