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《1》どうして?

 

 なんで……生きてる、のかなぁ……


 わたし、って、必要?



 口癖に、なってた。……そう、何年も……



 ***



 中3直前の春休み。

 と言っても、朝の活動に代わり映えなし。といったところ。陽が昇る頃、目覚し時計で起きることがなくなった私は、彼によって起こされる日々。


「おはよっ」


 ゥワン


 着替え終え、一階へ。


「ハイ、おサンポ、行こっかぁ」


 ゥワン ウ〜ワン


 背中を逆エビのように反り、尻尾フリフリ。いつもの両手を挙げて立つ、嬉しアピールがまた可愛いんだぁ。リールを付け、春空天下へいざ、出陣。

 そう、散歩するのが日課。私の役目。というより、私とじゃないと散歩に行かない、ちょっと我侭な彼。

 嫌じゃない。どっちかと言えば、愉しい時間ひととき

 推定1歳の彼は、妙に賢い。私のコトバに反応してくれる。単純な芸は、当たり前。他の犬と違うのは、散歩中排尿排便をしないってこと。うちの決まった場所に、する。猫みたいに。それから、他の犬猫に遭遇しても見知らぬ人に会っても、吠えたりしない。スゴいと思うのは、吠えてくる犬に対して睨みつけると相手は、黙る。野良猫も不動、目を逸らす。貫禄というより威厳がある、というのかなぁ。

 それなのに、私には、甘えてくる。眉間にやじりのような白模様があって、そこを指で撫でてあげると、両目をとろ〜んとさせるの。もう、たまんない。


 愛らしい彼。私の唯一の、友だち。大切な大事な、宝物。だからリールなんて、付けたくない。だって逃げたりしないし……でも、一度お巡りさんに注意され、仕方なく。

 とにかく、彼と一緒に散歩できるなんて、私にとっては、”救い”。


 今朝は晴れ。雲は浮いているみたい。

 然程変わらない散歩コース。というより、慣れている道を歩きたい、だけ。天気が良くて体調がイイ日は、少し距離を伸ばすくらい。でも知っている道、だけ。

 家を出れば、古い住宅街の合間合間。川や海、は近場にないから、ただ舗装された道を歩く。あっ、途中に小さな神社があるから、そこは外さない、けど。


 休みだから普段より長めに、40分ほど。うちまでは後5分の所、だった。


「イッ!」


 突然襲ってきた、偏頭痛。

 あまりの痛さに、しゃがみ込む。目を閉じると鈍痛に意識が向く。そして響く、脈拍に合わせて。


(ィタッ、ャダッ)


 日々体験していた痛みの、比ではない。気絶したほうが楽になる、って思えるくらい。


 ゥゥゥウォン


 友の声で、左瞼の筋肉を無理やり動かす。


(えっ?)


 彼は彼なんだけど、何かが違う。


(色!?)


 いつもとは違う色が、見えた。何色かは、知らない。

 そして気付く。いつも歩いて知っているはずの、彼の背景にある住宅街や道路も、違った。ボケている?ダブって見える? 見たことのない多色視界が、飛び込んできた。


(副、作用?)


 寸刻、腹から頭頂部に身震いが生じ、ドライアイスの白幕に囲まれたような冷え。


(ィ、ィヤ、やめて!)


 怖くなった。見えなくなる、恐怖。胸からこみ上げるモノが涙を誘い、正面の友をボヤけさせた。両手で顔を覆い、現実逃避した。


(なんで? なんで? どうして?)


 ドックン  ドックン  ドックン ドックン ドクンドクン ドクンドクン


 腹に、ももに、首に、顔に、激しく、早く、鼓動が伝わってきた。


 ウォン


 遠くに聞こえる、彼の声。でも、見られない。偏頭痛の痛みより、恐怖が、勝っていた。


(お、お願い、やめてぇ……ィ、イヤァアーー!)



 ***



奏笑かなえちゃん、いいかい。手術は成功したけど、これからどうなるかは先生も分からない。患者さんによって違うから。

 良くなることが多いけど、たまにボヤけたり視力が落ちたり。酷い場合、吐き気や頭痛、発熱なんかもあるから。

 もし、そうなったら早目にココへ来ること。他の病院に行っても、ここで手術したこと、伝えればいいからね。

 先ずは、半年間通院して検査すること。……それじゃ、来週火曜日、忘れないでね」


 先生いわく『手術自体、それほど難しいことではない』らしく。

 左目外斜視手術と全層角膜移植なんて、3時間程度。その後の痛みも1週間程度。頭痛と不快感と憎悪で悩ませた、年月トキと比べたら……。2週間ほどで退院。さらに4ヶ月後、右目の角膜移植も行なった。

 退院したのは、去年のハロウィン前日。

 眼鏡なしで嬉々《きき》と見える、光景。見えて当たり前じゃない。このことがどれだけ、嬉しいことか……。これでも、普通の人とは違う。そんなこと分かってる。その世界を見たことないから、解らないけど……。副作用の不安はあっても、それでも楽になった。

『最悪、失明の恐れも……』という2年前の宣告から、逃げ切り先行状態だった。


 そんな矢先――



 ***



 ゥゥゥウォン


 三度目の吠声ほえごえ。心配してくれている、そう思った。手で涙を拭い、彼を見ることにした。先ほどより明瞭に、彼は、モノクロではなくなっていた。


(ウソぉ!?)


 再び、彼の背後背景が視野に。先ほどと変わらず、ダブって視える。ゆっくり立ち上がりながら、手の甲で両目をこする。そして周囲を確認するために、見開いた。

 全色盲の治療は、受けていない。なのに……異変? 違和感? どちらでもいい。


 私の視覚に微妙な変化が、現れた瞬間だった。



 ***



 

お読み頂き、心より感謝致します。

これから何が起こるのか、わかりませんが、頑張りたいと思いますので、応援のほど宜しくお願い致します。


ご感想など頂戴できると、励みになります。また、誤字脱字など、お気づきの点ございましたら、ご教示ください。


では、続きをお楽しみに。


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