お約束って大事―2
二本目です。
戦闘描写が難しいです。
「かかれ!」
ボスの号令と共に正面にいたハヤックがダガーを投擲してきた。
同時にやや斜め前方にいたザッコとカスイが間合いを詰めてくる。
斜め後方のモーヴとカマセは動いた気配はない、逃げ道を背後一か所に誘導する作戦なのだろう。
至人はそれに付き合わず、真向から打ち破ろうと飛んでくるダガーをはじき落として前に出る。
「んな!?」
前に踏み込もうとした瞬間に視界に飛び込んだもの、それは至人の眉間を狙うはじき落としたはずのダガー。
シャドウダガー、一回の投擲に見せかけて二本のダガーを投げる技。
一本目のダガーとまったく同じ軌道で飛んでくる影の刃は、飛来物をはじき落とすことが造作もない人物にとっては必殺になりうる。
「うげっ!」
まるで、そこに刺さることが端から決まっていたかの如く、吸い込まれるようにダガーは頭部に命中した。
倒れた伏した身体からは少しずつ血が流れ、地面に赤い水たまりを作り上げていく。
誰が見ても間違いなくザッコは絶命していた。
「「「「「は?」」」」」
ボスを含めた全員が目を見開いて驚きの声をあげる。
敵をを殺したと思ったら味方が死んでいた、悪夢を見ているような盗賊たちに至人の言葉が聞こえる。
「アートマジック『錯視芸術』、認識をずらせるんじゃないかなと思ったが……当たりだな」
様々な偽装効果を与えることが出来るオプアートで、自身のステータスを書き換えていたのは記憶に新しい。
ステータスを偽装出来るなら自分にかけて別人に成りすましたり、敵にかけて同士討ちを誘ったりもできるのではないかと至人は考えたのである。
今回の状況下では、まずハヤックの認識を少しだけ横にずらし、ほかの4人には最初にいた場所から動いてないように見せ、ダガーの軌道も齟齬がでないように錯覚させた。
もちろん自分に向けられた訳ではないダガーは、二本飛んできているのが容易に見て取れたので一本わざと弾いた。
その後の結果は見ての通りである。
「意外にえげつないな、オプアート。そんじゃお次はこれだ!」
4人が立ち直る前に地面に手をついてイメージを固め、次の魔術を発動させる。
「アートマジック『動き出す芸術』!」
土が盛り上がり、2メートルほどの人の形を作る。
上手くイメージが出来なかったので、デッサン用のモデル人形を思い浮かべたが成功のようだ。
「ちょっと不格好だけど……行け、土の彫像!」
カクカクと不気味な動きで4人に迫るゴーレム、動きは不気味だが戦闘力は申し分なく2人までを相手取り互角に戦っている。
「へぇ、ゴーレムの実力はこっちのLvに依存してるのかな? あっちはあれでいいとして、残り2人か。めんどうだな、まとめて相手してやるから来いよ」
「なめやがって!」
至人の挑発に顔を真っ赤にしてカマセがキレる。
「後悔させてやる!」
額に血管が浮き出そうなくらい顔を引きつらせてモーヴが吠える。
「それは無理だね、モザイクアート!」
スキュラやアラクネのような下半身のみの変化は出来た、先のハーピーのような全身の変化も成功した。
ならば、腕のみの部分変化も可能ではないか?と至人は考えた。
はっきりと答えよう、可能である。
魔力の霧が腕を覆い、霧がそのまま形を変えていく。
全身変化の時とはまた違った感覚。
見る間に至人の右腕は細長くなっていき、大鎌を融合させたような腕になる。
「カマキリの腕だ、くらえ!」
勢いよく薙ぎ払われた鎌は、まるで化け物を見るような目で固まっていたモーヴの首を容易く刎ねた。
「ひ、ひぃぃぃ! お助けぇぇ!」
もはや戦意などなく、足を縺れさせながら逃げ出したカマセに至人はすぐさま追いつくと背中から容赦なく心臓を一突きにする。
特に感傷もなく腕の形状を戻し、ゴーレムを見ると未だに戦闘を続けていた。
若干ゴーレム有利ではあるが、このままではまだまだ長引きそうだと思った。
(最後のマジックを使ってみようかな?)
最後に残ったアートマジック『芸術的な爆発』。
少しだけ悩んだが、威力の検証も兼ねて至人は一度使ってみることにする。
(アーティスティックボム発動準備、付与対象はクレイゴーレム、起爆方法、任意起爆……)
「爆破!!」
発動させた次の瞬間、耳を劈く轟音が鳴り響き、強烈な爆風が巻き起こった。
激しい風の衝撃が収まり、つぶっていた目を開けるとそこには直径1キロ、深さ5メートルほどのクレーターが出来ていた。
「威力やばいな……コントロールしないと危なくて使えないぞ、コレ」
ハヤックとカスイはどうやら消し炭になってしまったようだ。
ちょっとやり過ぎたなあ、とそんな感想を至人は思い浮かべながら、すっかり頭から盗賊のボスの存在が抜け落ちていた。
はたと気づいて周囲を見回した時には既にその行方をくらましていた。
「あちゃあ、逃げられたか……あ! 馬車の二人は?」
盗賊団との戦闘(という名の実験)に夢中になり過ぎて、最初の目的を至人はすっかり失念していた。
幸いボムの余波の範囲からは外れていたようで、馬も二人も無事だった。
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「あ、ありがとうございます。おかげで助かりましたよ。」
商人の人が引きつった笑いを浮かべながらお礼を述べる。
「アタシも命拾いしたよ、ありがとう」
女戦士がにっこり笑ってお礼を言ってくる。
「すみません、俺がもっと早くあなたたちを発見していれば仲間の方も死なずに済んだかもしれないですよね……」
「いや、いいんだ。冒険者なんてやってる以上彼らも死は覚悟していたはずさ。それに、仲間といっても今回初めて組んだ人たちだからね。まあ、悲しいことは悲しいけど」
「お強いんですね」
「人死には日常茶飯事だしね、いちいち塞ぎ込んでたら何もできないよ」
「あのー、ソニアさん。そろそろ出発しても大丈夫でしょうか?」
「あ、ああ。ごめんごめん、ここの遺体を処理したらすぐ行くよ。ところでキミ、予定がないならアタシたちと一緒に来ないかい?改めてお礼もしたいしね」
少し顔を赤くしながらソニアは言う。冒険者の遺体を処理しながらなので残念な感じがすごい。
「いいですよ、俺も当てもなく街に向かっていましたから。こっちこそお願いします」
至人がそう答えると、ソニアの顔がいっそう華やぐ。
「本当かい!? ありがとう! ゴッツ、ゴーッツ! 彼も着いて来てくれるって!」
ソニアはまるで子供のようにはしゃいで商人の男に報告する。
「おお、貴方もご一緒していただけるのですか? これは心強いですね。ええ、ええ良いですとも。ささ、どうぞ乗ってください」
ゴッツは先ほどとは変わって柔和な笑みを浮かべると至人を歓迎した。
「あ、さっきの爆発は無しでお願いしますよ」
しっかり釘は刺された。
手下はまったく同じスキル構成で誰が起点でも連携が取れるように訓練していました。
アートマジック無双状態で見せ場は無かったですが。
読んでいただき有難うございます。