新たな力と旅立ち
キリがいいとこまで書いたら長くなってしまいました。
ほぼスキルの説明回です。
最後はちょっぴりシリアスです。
いつも読んでいただき有難うございます。
人間の国に行きたいということで、至人はアーティスからこの世界の常識を教えてもらっていた。
この世界には多くの種族が住んでいる。
人間族、獣人族、妖精族、精霊族、水棲族、竜族、魔族の七種族。
「あれ? 不死族はいないのか?」
「不死族は今は殆ど居ないのである」
「今は、という事は昔はたくさん居たのか」
「その通りである、昔は不死族を入れた八種族だったのである」
アーティスは不死族が世界から弾かれた経緯を語り始めた。
不死族は見た目こそアレな者も多いが、温和な種族だった。
だが、その見た目が問題だった。
性格は温和だが、付き合いがなければその性格も理解はされない。
そのため、他種族からつま弾きにされて不遇な生活を強いられていたという。
あるとき不死族の中からそんな境遇を是としないという男が現れた。
男は不死族の地位を向上させるために様々なことを精力的に行った。
しかし、その全ては徒労に終わり、男は絶望した。
絶望はいつしか世界への憎しみに変わり、男は邪法に手を染めはじめる。邪法により『操魂術』を作り上げた男は自らを死霊王をと名乗り、世界を相手に戦争を起こした。
死霊王は操魂術によって死者を操り、魂の力が弱いものは生者でも支配され、強大な憎しみは絶大な魔力を生み出して死を超越した軍勢を作り上げた。
自分が救おうとした不死族すら操り、殺した者を支配下に置き勢力を増していく。
さっきまで共に戦っていた仲間が、愛する家族が、隣人が襲ってくる。
手を出すのを躊躇えば奴らの仲間になってしまう、進むのも戻るのも絶望という状況と尽きることのない怨嗟の声に世界中の誰もが抵抗する気力を失っていった。
そんな中、各種族の王たちはある儀式に最後の望みをかけた。
それは、自分たちの命を楔として使用する封印術の儀式。創造神の天啓によりもたらされた最後の手段。
果たして死霊王は封印され、力の残滓は七つに分けられて各国の封印の間に安置されることになった。
「それで、残った不死族の者たちは、死霊王を生み出した危険な種族として、八種族に名を連ねるのを禁忌とし存在を抹消されたのである」
「あれ? そしたら俺ってかなり不味い立ち位置なんじゃないか?」
「存在を抹消といっても、完全に絶滅させられた訳ではないのであるからな。探せば細々と暮らしてるのであるが、身バレしないに越したことはないである」
「そっか。今生活してる不死族は当時の生き残り?」
「当時の生き残りはもはや残ってないのである。子孫であるな」
「え、増えるの?」
「不死族は魔術によって甦らされた死体とは異なる存在であるからな、普通に生殖できるし寿命もあるのである」
「不死なのに死ぬの?」
「不死族のスキルに腐敗というのがあるである、あれが寿命代わりなのである」
不死族は生まれてから40年くらいは人間族と変わらない。
40後半から50代あたりから腐敗というスキルが生えて、数年ごとにLvが上がっていく。
だいたい100歳から120歳あたりで完全に腐り落ちて土に返るというのが不死族の一生だという。
「俺、目覚めたときから腐敗持ってたけど?」
「おぬしは色々とイレギュラーであるからな、全てこの世界に適応させておいたので今は問題ないのである」
「そうなのか?」
「心配ならばステータスを確認するのである、特典もつけといたので期待するといいのである」
ドヤ顔で言うアーティスに少し心配になりながらも至人はステータスを開く。
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name:シビト・アカバネ age:16
race:不死族・グール
job:バトルアーティスト
Lv:35
HP:1283/1283
LP:0/0
MP:2390/2390
str:390
def:320
vit:error
int:400
agi:290~
mag:350
luc:24
パッシブスキル
再生Lv5 芸術闘技 限界突破
バトルスキル
噛みつきLv1 握撃Lv4 死霊の盆踊り
ユニークスキル
芸術創造 審美眼 痛覚遮断
加護
芸術神の加護
称号
黄泉返り 死中に活 アーティスの友人
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「突っ込みどころがありすぎて困るんだが……」
表記が大幅に変わっており、至人は何から聞いていいかわからないという顔をした。
アーティスが簡単に説明を始める。
HP:体力、バトルスキルを発動すると減っていき無くなれば倦怠感に襲われる。回復量はバイタル依存
LP:生命力、無くなれば死ぬ。不死族は魔力核(心臓)が無事なら時間はかかるが復活する。
MP:魔力値、魔術や魔力依存のスキルを使用すると減る。少なくなると頭痛、枯渇すると気絶する。
各種パラメータ:身体能力を表す、一般男性平均は30~50。
「こんなところであるな」
「身体変化と身体操作が無くなってるんだけど」
「芸術創造に組み込んだである。こうしておけば変身しても『魔法です』で済むである」
「なるほど」
アーティスは説明を続ける。
芸術闘技:舞を踊るかのような華麗さと、嵐のような苛烈さをもつ。無手が基本だが、ほかにも剣・槍・布・扇を扱う戦闘技術
限界突破:Lv上限3桁解放、パラメータ上限5桁解放、攻撃におけるパワー制限なし。
死霊の盆踊り:芸術闘技の無手奥義の一つ。竜巻のように相手を巻き込み、突きと蹴りの嵐をお見舞いする。受けた相手がまるで死霊がふわふわ踊っているように見える為にこの名が付いた。HPは3分の2を消費する。
芸術創造:様々な芸術作品を生み出すことが出来る魔術
審美眼:鑑定眼の上位亜種。隠蔽効果や真贋の看破、芸術点の評価値(アーティス調べ)を見ることができる。
痛覚遮断:痛覚鈍化の上位スキル。
「まてまてまてまて、突っ込みが追い付かん」
「どこに突っ込む要素があるであるか?」
「芸術闘技は良いとしよう。バトルスキルとユニークスキルがおかしいだろ、審美眼の芸術点とか死霊の盆踊りとかさ。芸術創造に至っては何ができるのかさっぱり解らん」
「どれも使えるスキルである。芸術創造は後で細かい事を教えるであるから黙って続きを聞くである」
芸術神の加護:戦後評価に芸術点がつく。高いほど経験値が多く手に入る。
称号
黄泉返り:死を経験したものに送られる、即死耐性を得る。
死中に活:絶対的な死地において生還したものに送られる、逆境時にパラメータ1.5倍。
アーティスの友人:芸術神アーティスに友と認められたものに送られる、芸術と付くスキルにプラス補正。
「もうどうにでもなーれ」
至人は色々あきらめた。
「後は芸術創造の中身であるな」
芸術創造
混ざり合う芸術:自分の身体を変化させる、効果は任意解除するまで。
動き出す芸術:土や石、木や鉱物を触媒に彫刻を作り出す。
錯視芸術:特殊な視覚効果を与え、認識をだます。任意解除
芸術的な爆発:生物以外に爆破属性を付与する、付与のタイミングで任意起爆か衝撃起爆かを設定できる。
「最初の説明ではどうなる事かと思ったけど、結構便利な魔術なんだな」
「混ざり合う芸術が身体変化、錯視芸術が偽装である。忘れないうちに種族欄を錯視芸術で人間族にしておくである」
「完全に忘れてた」
あわてて錯視芸術を自分にかける。
「これであらかたの準備は終わったであるな、最後にこれを持っていくである」
そういうとアーティスは一着のヤン・○ェンリーのような服とマントを取り出した。
「これは?」
「これは吾輩が大昔に作った服である。おぬしの下半身、そのままとはいかないであろう。見たところ服がないようであるからな。その辺の皮鎧と同じくらいの防御しかないであるが、再生が付与されているのである。つまり、千切れても戻るのである」
「それは便利だ。こっちのマントは?」
「こっちは特になにもないである。いくら服を変える必要がないといっても汚れるであるから気休めであるな」
「いいのか?」
「構わないのである、なにせ友であるからな」
「そ、そうか。心労がたまりまくったけど、いろいろ助かったよ。ところで、どうやって地上にいけばいい?」
「ここの隣のダンジョンボスを倒して転移陣に入るか、吾輩が地上に送るかであるな」
「お、送ってもらえるのか!?」
「容易いのである」
「流石に疲れた、送ってもらってもいいか?」
「任された、それでは地上に送るである。困難なことはあるが、おぬしならば大丈夫であろう。達者で進むである!」
「ああ、世話になった。あんまり会いたくはないけど、またな」
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「……行ったか……吾輩に出来ることはこれ以上ない、すまんな……至人」
俯いてつぶやいたアーティスの瞳が悲しみに包まれる。
「これでよかったのか? アーティス」
いつのまにかアーティスの背後に女性が立っていた。
「死の神か……あれが吾輩の精一杯の手助けと償いだ……あれ以上は他の七神が黙っていない」
「昔のようにターナでいい、しかし大丈夫なのか?」
九柱神の一角、死神ターナが心配そうに尋ねる。
「信じるしかあるまい……なあ、ターナ……吾輩はあの時間違っていたのだろうか……?」
「あの時はあれが最善だった、ああしなければ世界が終わっていた」
思い返すように空を仰ぎ、ターナは続ける。
「それが今になってこのような形で返ってくるとは誰も思わない……アーティス、あなたが全て背負う必要はない」
「すまないターナ……至人よ、おぬしの行く先に幸あらんことを……」
「神の言うセリフじゃない」
呆れたように言い放ち、ターナは苦笑してアーティスを見る。
「……であるな」
アーティスはターナに向き直り、ほんの少しだけお道化てそう返した。
一章はここで終了です。次話から二章にはいります。