こんなのゾンビじゃない
ブックマーク、評価してくださった皆様ありがとうございます。
つたない文章ですが、頑張ってまいります。(⌒∇⌒)
あれからどれだけの時間気を失っていたのだろうか。
至人は鈍い痛みを感じつつ目を覚ました。
(生きてる……いや死んでるけど)
高いところから落ちたのは理解していた、まずは現状把握が先決だとステータスを開く。
――――――――――――――――――――――
ステータス
赤羽 至人
種族:不死族・ゾンビ
職業:なし
魔力:2500
攻:130
耐:108
体:error
器:82
速:85
運:3
パッシブスキル
声帯破損 筋硬縮 関節硬化 痛覚鈍化Lv3
再生Lv2
状態異常:下肢欠損
――――――――――――――――――――――
(魔力は2500で増えなくなったんだよな、パラメータに異常は無しか……あ、再生が上がってる。あとは……下肢欠損!?)
あわてて自分の下半身に目を向ける。
(うわ……これは酷いな)
いったいどれほどの高さから落ちればこうなるのだろうかという光景が広がっていた。
腰より下の骨は衝撃に耐えきれずに砕け散り、粉々になっていてどれがどの骨かわからない。
骨を覆っていた筋肉もひき肉状態だ、下半身が無くなり外に投げ出された腸が痛々しい。
どうやら頭やそのほかの原型を留めていた部分は再生スキルにより修復され、その際にLvが上がったらしい。
(原型を残さないほど破壊された場合は再生できないのか、たしか再生は高Lvなら欠損も治るみたいだけど……)
Lvを上げるために自ら身体を壊すのも何か違う気がして躊躇われた。
現状で下半身をどうにかすることはできないので、思考をいったん頭の片隅におき現在の場所を調べることにする。
(天井には俺の落ちてきた穴、周囲は石造りの壁、明かりを放つ石で視界は確保されているけど……ここ、もしかしなくてもダンジョンってとこだよな)
部屋の中にはテーブルのようなもの、簡単なつくりの椅子と思われるもの、出入り口の上には青い輝きを放つ石が埋まっている。
どうやらここはセーフエリアのようだった。
(運がいいやら悪いやら……襲われなかっただけ良しとしよう)
この世界のモンスターは好戦的だ。
同種族は不明だが、他種族ならば容赦なく排除しにくる。
なわばりのようなものでもあるのだろうか。
そのような環境下で気を失っていたのだから、もしここがセーフエリアでなかったのならと想像しただけで至人は肝が冷える。
(さて、これからどうしよう……)
自分の置かれている状況は確認できた。
しかし、足がない状態は辛すぎる。
手を使えば移動はできるが、戦闘ができないのはどうぞ殺してくださいと言っているようなものだ。
(やっぱ再生Lvをあげるしかないのかなぁ)
現状それしか思いつかなかったのでとりあえずやってみることにする。
(わざと怪我をするにしてもココから出ないといけないよな……ってかどうやって?)
這いずるようにドアの前まで来てみたが、何をどうしてもドアノブに手が届かない。
意外な盲点、というかちょっと考えればわかることだった。
わざと怪我をする方法がとれない以上別のやり方を考えるしかない。
色々頭をひねった結果、再生を促すイメージを下半身に向けてみようと考え付いた。
(足~生えろ~生えろ~足~……)
意識を集中させること30分くらいたっただろうか。
下半身に不思議な感覚がしはじめた。
身体の中心から何かが抜けて、同時にないはずの下半身が温かくなる感じがする。
(お、お、成功か? 立ち上がれて……って、なんじゃこりゃぁぁぁ!!)
見ればそこには触手のように変化した『腸』。
うねうねと蠢きながら器用に上半身を支えていた。
(すすすすすステータス!!)
――――――――――――――――――――――
ステータス
赤羽 至人
種族:不死族・ゾンビ
職業:なし
魔力:2000
攻:130
耐:108
体:error
器:82
速:85
運:3
パッシブスキル
声帯破損 筋硬縮 関節硬化 痛覚鈍化Lv3
再生Lv2 身体変化Lv1 身体操作Lv1
状態異常:下肢欠損
――――――――――――――――――――――
あわててステータスを開くとそこには驚くべき変化が書かれていた。
魔力が減り、スキルが2つも増えていたのだ。
即座に内約を確認する。
身体変化:骨や筋肉、内臓などの部位を変化させる。Lvが上がると様々な変化がさせられる。
身体操作:身体のあらゆる部位を自在に動かせる。Lvが上がると離れた位置にある身体の一部すら動かせる。
状況から推測すると、魔力はゲームでいうところのスキルポイントや進化ポイントのようなものなのだろう。
2つ増えて500消費していることから、このスキルは1つ250だと思った。
(ってかこれ、もう『ゾンビ』じゃないでしょ)
自分の形状に突っ込みをいれつつ、至人は希望を見出していた。
そう『関節硬化』と『筋硬縮』のスキルである。
魔力を消費してスキルを増やせたのならば、その逆も可能なのではないかと考える。
ならばさっそくと関節と筋肉に意識を集中させる。
しばらくすると先ほどと同じように身体から何かが抜けて、全身が温かくなる。
成功したと確信し、関節を曲げ伸ばしするとスムーズに動かせた。
(おお、凄い……思い通りに動かせることのなんと素晴らしいことか……)
感動に身を躍らせながら確認すると2つのデメリットスキルは見事消失し、魔力数値は0になっていた。
空の状態にも係わらず体調に変化がないことから、この数字は余剰魔力なのだろうと認識した。
(色々この世界のシステムと自分の身体の事がわかってきたぞ)
至人は今まで体感してきたことを合わせながら理解したことをまとめる。
魔力は活動を行うだけならば0でも問題ではない。
新しいスキルを覚えるには余剰魔力を消費しなければならない。
Lvのあるスキルは戦闘経験やトレーニングで変わる。
Lvのないスキルは魔力消費しないとどうにもならない。
心臓部に重大なダメージを負わない限り死ぬことはない。
頭部|(脳)に大ダメージを受けると再生するまで意識を失う。
(っと、今はこんなとこかな。他にも調べたいことはできたけど、まずは余剰魔力がないと実験もできないよね)
思わぬところで困っていた状況が改善できた、新しい疑問も出てきた。
試したいことはたくさん増えたが、まったく苦ではなくむしろ楽しいと至人は感じていた。
この至人という人物は実は好奇心の塊である。
自分の身に降りかかる状況を常に楽しんでいる。
目の前に目標ができたなら即行動、地球にいた時も至人はそうやって仕事をこなしてきた。
問題が起きるまで行動する、問題が起きたら考える、考えてわからないなら別の事をする。
そうすると意外に問題も解決に向かうことが多々あった。
寄り道しているようで実は繋がっていたりするから面白いものだと日頃から思っていた。
至人の最大の武器は切り替えの早さと頭の柔軟さ、それに度胸だ。
好奇心は猫を殺すが、彼の場合は持ち前の切り替えと素早く状況を理解する頭でするりと危機を回避し、虎穴から虎児をとってくるのである。
(さて、まずはこの下半身で自由に動けるようにトレーニングするかな。そのあとは再生Lvが魔力で上げられるか検証しよう。しかし、人間目指してたのに随分とかけ離れた見た目になっちゃったよな)
遠回りしている気分にはなるが、きっとこれも必要なことなんだなと思考を切り替えてトレーニングを開始するのだった。