2,仙石原未砂記の場合
一話目と同じ日、同じ場所での出来事を未砂記目線で描いております。
こんにちは! 湘南の高校に通う高校一年生、仙石原未砂記です! 今は学校の研修旅行でオーストラリアのケアンズに来ています! なんと今年は真夏のクリスマスを体感しちゃいますよ~ぉ!!
ここはクリスマスパーティーの会場。市民のみんなが集まってコンサートを聴いたりお食事をしながらホーリーナイト(聖なる夜)を祝うんです! 今日はホストマザーたちとパーティーに同席させてもらうことに。食べまくりの予感がしてきました!
「未砂記ぃ、食べ過ぎちゃダメだよ?」
親切に私に忠告してくれたのは小さい時からずっと一緒の親友、大甕浸地ちゃん、通称ヒタッチです!
「まぁまぁ今日くらいいいじゃない! それにしても凄いなぁ、周りの人達は英語ペラペラだよ!」
「当たり前だよ。英語圏なんだから」
「でもあんなに達者に喋られると圧倒されない?」
「そうだね。じゃあ私も混じってみる!」
あーっ!! ヒタッチ英語ペラペラだぁー!! ヤバイ、私、孤立した!! スタンドアローンだ!! まずい、まずいですぞ~ぉ? せっかくオーストラリアに来たのにクリスマスの夜を無口で過ごす? マジ有り得ねぇべ?
そうだ! おんなじ学校の人が来てるかもしんないから探してみよう!
あっ! 早速み~っけた!
よ~し、ここはオーストラリアだし、後ろから抱き着いちゃえ!
ギュッ!!
「おっす宮下ぁ!」
「うわ……」
「何その反応!? こんな異国の地で運命の再会じゃん!!」
「急に背後から抱き着くな」
抱き着いたのは中学の時に同じクラスで同じ高校に進学した宮下優成。中学の時はキノコ頭でダサい髪型だったけど、今は無造作に変えて少しイケメンになったみたい。実は彼、私の片想いの相手なんです! でも彼は私の事が苦手みたい。もっと近付いて、名前で呼び合ったりしてみたいなぁ……。
「周りをよく見なよ! こっちでは知ってる人と会った時、抱き着くのは普通だよ?」
「あぁ、まぁな。それと運命の再会って、学校出発する時から一緒だろが」
きっと彼も私みたいに孤立しちゃったんだ。これはチャンス!? 一歩でも近付くぞぉ!!
「なぁ仙石原ぁ? 周りのオーストラリア人はよくこんなに英語ベラベラ喋れるなぁ」
「そうだよね! 凄いね! カッコイイねぇ!!」
うそっ!? 私と同じ事考えてんじゃん!! あ~、なんかヤバいかも……。
この会場の雰囲気とコンサートが私のハートを麻痺させてる。メロメロだよぉ、宮下ぁ、私の気持ち気付いてよぉ……。でも、きっと告白したらあっさりフラれちゃうんだろうな。ならこのままの方がいいや。
とりあえず、折角二人になれたから一緒に食事しよっ!
「ねぇ、せっかくだから食べまくろうよ!!」
「あぁ、そうだな」
こんな些細な事がきっと、一生心に残る思い出になる。たとえこの恋が実らなくても、きっと素晴らしい思い出になる。諦める気なんかないけどね!
「そういえば仙石原は誰と組んでるん?」
「ヒタッチだよ。でもヒタッチ英語ペラペラでホストマザーの仲間と喋ってて、最初は私も混じろうとしたんだけど居づらくなっちゃって」
「あぁ、正に今の俺の状況だ」
「そっか! じゃあ残りもの同士盛り上がろっ!」
「あぁ、せっかくの真夏のクリスマスだ。今日くらいはお前に付き合うよ」
「じゃあ乾杯っ!!」
「乾杯っ!」
「ねぇ、宮下ってどんな女の子が好きなの?」
自分とは違うタイプの子が好きなのは分かってる。けど、つい聞いてしまう。
「あ~ぁ、う~ん、一緒に居たいと思った人」
えっ!? 意外! 大人しい人とか清楚で奥床しいとか言うと思ったのに。でも、ベタだけど的を射た答えだ。
「そうだよね! 私もそう思う!」
「ねぇ宮下ぁ? なんかこの国の人達って、羨ましい」
「あぁ、俺もそう思う」
この国の人たちは、仲間との再会を喜び、純粋にパーティーを楽しんでいる。 クリスマスの価値観も日本とはかなり違う。私は何より、日本人みたいにしがらみのない、この国のピュアなハートに憧れた。
私は食にも生活にも困らない、けれど貧しい国に生まれたんだ……。
「むやすたぁ、せっかくだからむぉっと食べよぉ~」
「口に物含みながら喋るな」
「Sugunari,Taro? Go back home! (優成、太郎、帰るわよ)」
宮下たちのホストマザーが呼び掛けた。
「オーケー。じゃあ俺、帰るわ」
帰っちゃうのかぁ、細い糸を引き切られる様で切なくなってきた。でも楽しかった。彼が居てくれたおかげで、今までで一番楽しいクリスマスになった。
「うん、今日はありがとね! 宮下のおかげで一人にならなくて済んだよ!」
◇◇◇
私が彼を好きになったのには、こんなちょっとしたプロセスがある。
それは中学生の頃、ある事を彼に尋ねたところから始まった。
「ねぇ宮下ぁ、私の事、どう思う?」
やっぱり一瞬困った顔をした。でも直ぐに答えてくれた。
「友達って、思っていいかな?」
私は持ち前の明るさで、誰とでも直ぐに話せる。でも本当に友達と呼べる人は少ない。だから彼の、その控え目な言葉が素直に嬉しかった。むしろそれはこっちの台詞。こんなうるさい私で良ければ、是非友達になって下さい!
それから私は彼に興味を持つようになり、次第に恋へと変わっていった。
◇◇◇
「いや、俺の方こそ。今日は仙石原が居て良かった」
へっ!? 私が居て良かった!? 彼から私に対してそんな言葉が聞けるなんて有り得ないと思ってた。あの時、私の事を友達だと思ってくれていたのは本当だったんだ。それをやっと確信出来た。私はその言葉を聞くと同時に自ずと笑みが零れた。
「へへへぇ~、照れるなぁ~。じゃあまたクリスマス一緒にやろうね!」
「あぁ、そうだな」
今日はクリスマス! 定番の台詞をまだ言ってなかった事に気付き、別れ際に彼を引き止めた。
「宮下ぁ」
「ん?」
…………………。
「メリークリスマス」
彼はあの時のような困った顔で、そしてやはり直ぐ返事した。
「メリー、クリスマス」
やっぱり諦められないや。いつか、絶対に告白しよう。私はそう心に誓った。
※「いちにちひとつぶ」第一話に続く。
クリスマスという事で、こんな企画をやってみました(^^;
短い話ですが何か感じていただけるものはございましたでしょうか。
それではMerry Christmas!!