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非日常的な日常を  作者: 一八重
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春の陽気と微笑みと

「春。それは出会いの季節である。中学、高校、大学や会社。新しい場所で、新しい仲間を見つけ、そしてその新しい仲間と新しい場所での新しい生活が始まるのだ。だから若人よ、いつまでも大志を抱け、夢を忘れるな…………なんだこれ」


今朝届いた新聞を、胡坐を掻きながら読み漁っていると残念な文章に行き着き、思わず苦い表情になる。


なんだこの頭の悪いというか夢を見すぎているようなのは……。いっそのことそのまま夢を抱いて溺れてくれればいいのに。

だが、別に全てを否定するわけではない。「夢を忘れるな」に関しては共感できる部分がある。

幼少期から夢を追いかけ、目指し、気が付いたら夢とは全く関係のない会社で働いていたなんてよくあることだ。だから夢を叶えられなかった過去を悔やみ、何が原因かを考え、若い人達に教える……。あれ、これ共感できてなくね?

因みに、正しくは「春。それは別れの季節である。中学、高校、大学や会社。新しい場所へ行く度にかつての友と離れ、やがて連絡も取らなくなり、最終的には忘れ去る。だから若人よ、いつでも現実を抱け、夢だということを忘れるな」だ。なにそれ夢も希望もねえな。


こんな夢も希望もない思考の店主の元で働く子は大変なんだろうなぁ……。

昨日バイト雇ったばっかでなに考えてんだ俺は。

さて、くだらないことに頭を使ってないで店を開くとしますか。


今日も一日がんばるぞい。




「ん、……ふぅ」


どれくらいの時間が経っただろうかと思い、時計を見やると針は一時丁度を指していた。英語でいうとワンオクロック。どこのバンドだよ。


一人脳内で漫才をしつつ昼飯を買いに近くのコンビにまで行こうかと立ち上がると、店のドアがノックされる。いや、店なんだから普通に入ってこいよ……。まあいい、礼儀が悪いよりかはマシか。

仕方がないので此方も応える事にしよう。


「どうぞ、入りなさいな」


俺が反応を示すと扉が開く。

そして、開かれた扉の奥から日差しと一緒に少女が店内へ入ってくる。


白いシャツの上に紺色のニット、下には紺色に近いジーンズ。

まだ残る寒さを凌ぐ為だろうか、首元には赤い色をしたマフラーが緩く巻かれている。


「あ、あのー……」

「いらっしゃい。お客さんかい?」


入ってきた少女に問いかける。が、なぜか反応がない。

それどころか首をかしげて怪訝そうな顔をしている。……あれ、この顔見覚えあるな。


「お前、もしかして不知火凪か?」

「………はい」

「……すまん」

「いえ……」


…………。

えーなにこれ超気まずいんですけど。

正直悪かったとは思ってるよ?でもしょうがないじゃん、昨日と全然雰囲気違うんだもの。

しかもまだ昼だよ、学生がこんな時間に来るとは思わないって。

とまあ、散々言い訳を脳内で繰り広げてみるも、さすがにたった一人のバイトと初日から気まずい、なんてのは嫌だ。し、仕事に支障が出るかもわからんし。フォローしておくとしよう、そうしよう。


「まあ、その、なんだ、……よく似合ってる」


あまり他人を褒めることが少ない所為か、どうにも照れくさくてそっぽを向いてしまう。

ヘタレかよ。

無性にむず痒くなり頭を掻きながら様子を確認すると、視界に写ったのは意外にも微笑みだった。


「ふふっ、……ありがとうございます」

「お、おう……」


......誰だよ、春は暖かいとか言った奴。くそ暑いじゃねえか。

お陰で顔まで赤くなる。


後で団扇持ってくるとするか。

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