出会う二人に祝福を
文句を言われないうちにシオンに薬の入った瓶を渡し、代金を受け取る。
いくら妖怪だって金は使う。
最近は昔と違って人間社会で暮らす奴も大勢居る。
俺もその一人だ。
だから金がなきゃ家に住めないしガスや電気も使えない。
だからといってここで、じゃあ火や電気を操る奴が居れば金を払わないでいいのでは?なんて思わないことだ。
雷獣が家の中で電撃を使って明かりをつけようものなら電圧が強すぎて家が丸ごと焼かれるし、狐火や鬼火を使って料理をしようものならフライパンは消し炭となり、やはり家は焼失する。
便利どころかマイナスにしかならないのだ。
つまり結果的には大人しく人間のような生活をした方が肉体的にも精神的にもダメージは少ない......が、少ないだけでダメージが無いわけではない。
俺だって人間社会に不満はある。だって妖怪だもの。
大体社会を作った人間でさえこの世に絶望して自殺する奴が居るくらいなのだ。俺達妖怪が不満を持たないわけがない。
挙げ句の果てには『地獄の沙汰も金次第』とか抜かしやがる。世知辛い世の中過ぎるだろ。もっとゆとり持とうぜ、ゆとり。
ほら、ここは楽しい地獄ってどっかの獄卒も歌ってたじゃん。
政策の方は失敗したらしいけど知った事じゃない。
俺が求めてるのは財布のゆとりだ。
......あれ、俺さっきから金の話しかしてなくね?
いつの間にか俺は金の亡者と化していたようだ。死なねぇけど。
ふと気付けば、しょうもない事ばかり考えてたのがバレて呆れたのか用が済んだから帰ったのかシオンが居なくなっていた。出来れば後者であって欲しいなぁ......。
「ったく、神出鬼没にも程があるだろあいつ......。仕方ない、また寝るとするかね」
なんならもう店じまいしてやろうかという勢いで店の入り口へと振り返る。
するとそこには、一人の少女がこちらをじっと見つめていた。