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言ってしまえば風呂上がりだったらババアからでもいい匂いはするとは思いますけどね

「お風呂ありがとう! めっちゃ気持ちよかった……って何かあったの?」




あたくしのジャージをまるで天女の羽衣の如く身に纏った艶めかしく艶めかしい結衣が自身の長い髪をタオルで優しく拭き取りながらリビングに向かってこられました。なんだこの光景、なんだこのいい匂いは。そのままパリコレ出そうな感すらある。



何故俺がいつも着ているなんてことないジャージを結衣が着ると、ここまで美しくなれるのだろうか。なんでこんなにいい匂いがするのか。

俺はソファーにぐったりともたれかかりながら、そんなことを思っていました。




「いえ、特に何も……」




嘘です。

結衣がお風呂に入っている間、あら難い己自身の暗黒面と戦っていたのです。

何度も一歩踏み外してしまえ、軽犯罪を犯してしまえ、どうせ捕まるならド派手にやってしまえと囁く己の煩悩を沈めるため、プッシュアップを50回、一瞬で心臓を殺しにかかるバーピーを50回、地獄の腹筋トレーニングであるドラゴンフラッグを50回行い自分の体を痛みつけていた所です。

汗と共に性欲も流れましたが代わりに疲労と倦怠感がやってきました。

深夜にやるもんじゃないですわ、ご飯も食べてないのに……。




「さくっとあがってきますのでしばしお待ちを」




だいぶ眠くなってきました。なんだか心が穏やかです。

良かった。ようやく俺も結衣のあの強烈なオーラに耐性がついてきたか。よーしひとっ風呂浴びて腕によりかけちゃうぞー!




風呂場に向かい服を脱いで浴室の扉を開けて洗面器に浴槽の湯を汲んでかけ湯をしまして浴槽に肩までつかってはぁーごくらくごくらくぅーなんて古臭い言い回しをしてぐいっと足を伸ばして浴室の天井を眺めてふとそう言えば先に結衣がお風呂に入ったってことは結衣もこの浴槽に体をつからせたってことだからぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!




突如襲ってくる爆発的思春期に先程までの倦怠感もどこへやら。目もギラギラと冴えわたり、心臓と思春期が爆発してしまいそうです。体のあちこちがギンギラギンにさりげない。




しかしこれ間接キスを超えてきた……間接お風呂。

間接的に肌と肌が触れ合ってって、これもしかしてもう俺童貞ではないんじゃないのか!? ほぼ童貞ではない可能性が……?

いや、それよりも……。




このお湯……えぇ出汁とれてんとちゃいますの?




………。




ダメだ、人としてその一線を超えてはいけない。

俺は自分が自分のことを嫌いになってしまわないように早々に風呂をあがりました。

未練が100%ないかと聞かれれば、俺は苦笑いを浮かべるしかない。




「お待たせしました! 今からさくっと作っちゃいますので!」




「え、全然待ってないけど! というか早すぎじゃない?」




そりゃそうです、カップラーメンも出来上がってないぐらいの時間しか俺はあの空間にはいられなかったのですから。

無理だから、そういう自分捨てる感じの行動は。そういうのは正くんの仕事なので。




とりあえず今は料理を頑張らせていただきます。ムラムラしているだけでは何も変わりませんが、ここで美味しい料理を作ればポイントを稼げる! 祐亜くんのマルチ感を演出せねば今ここで。




スープは夕方に作ってあったのを温めなおして、パスタを茹で、ナスや各種野菜を素揚げするひと手間、ニンニクを砕くひと手間、自作のミートソースを絡め上からすったチェダーチーズをかけ、ガチめの美味しいパスタ作った俺、家庭的な男がタイプの結衣、一目惚れ大作戦!! 

ていうか一目惚れのタイミングって大親友の彼女の連れを玄関か室内で初見した時だよねー!! パスタ作ってもらってがっつり食ってから好きになったらもうそれ一目惚れじゃないよねー!! 料理上手な所に惚れてるんだよねー!!




「お待たせしましたー!」




食卓に座ってテレビをぼーっと眺めていた結衣が俺の持ってきたパスタをみてびっくりした表情を浮かべます。あはは、てっきりレトルトのパスタソースをかけるお手軽系だと思われていましたか!!

あははバカめ!! 大好きな女の子にそんな適当なもん出す訳なかろうが!! あはははは!!




「祐亜!!」




俺特製のパスタをくるくるフォークに巻いてそれを口に運んだ瞬間、結衣が俺の名前を強い調子で呼んで勢いよく立ち上がりました。

その顔はとても真剣で凛々しいです。な、なんですのん!! 




「お、おおおお口に合いませんでしたか?」




結衣のただならぬ気配にビクつきまくってそう聞くと、結衣はそのままの表情で首を横に振りました。




「美味しい……」




「私、こんなに美味しいパスタ初めて食べたよ! 祐亜ってなんでもできるんだね!」




そういって屈託のない笑みを浮かべて俺のことをまっすぐに見つめる結衣に俺完全ノックアウト。

作戦失敗、まさか美味しい料理出したサイドが改めて惚れ直すってこれどうなってんの!!?? 馬鹿なの!? 恋の奴隷なの!? 恋の奴隷なんだよなぁ……。




席に座りなおして、本当に美味しそうに俺の作った料理を食べてくれる結衣を胸いっぱいの気持ちで見つめて。

こんなに美味しそうに食べてくれるなら頑張った甲斐があったっていうもんです。それにきっとその料理を美味しく感じられるのは。




「愛情しこたま込めてますからねー」




と俺が冗談めかしてそんな事を言うと、あれほど軽快に動いていた結衣のフォークがピタリと動きを止めてしまいました。

ん?と思い結衣の方を見ると、明後日の方向を向いて耳を真っ赤にしながらぷるぷる震えています。え、もしかして笑ってる?




「結衣さーん?」




俺が呼びかけると、結衣は顔を決してこちらに向けずに上ずった声を出しました。




「う、うるさい! い、今テレビいいとこだから話しかけないで!」




反抗期の娘みたいな事を言って、結衣は垂れ流しにしていたリビングのテレビをじっと見つめています。意地でもこっちを見ません。

消費者金融のCMが結衣的にはいいとこらしいのですが、どうなんでしょうか。




それから食事を終えるまで結衣は一言も発しませんでした。室内には別の番組で見たトークをするお笑い芸人の声と、それに被せる編集で入れられたであろう笑い声が響いているだけで。




でも不思議と居心地は悪くありませんでした。

それに俺はなんだか少し嬉しかったんです。

ドキドキしたり、心臓やられたり、困惑してみたり、動揺してみたりとか。

全部俺ばっかだったと思っていたので、俺の何気ない一言に動揺してくれた結衣が、本当に嬉しかったです。




食事を終えて二人で後片付けをして、それからもう一回ネタ合わせをしようって話になったのですが日付はとっくに変わっていましたし、明日の朝も早いので今日はもう寝ようということになりました。

前半すっ飛ばしまくって全身に負荷をかけまくっていたので、俺もさすがにお目目がシパシパンティです。性欲よりも睡眠欲の方が強くて良かった……。




「姉貴の部屋のベッドを使っていいとのことだったので。寒かったら暖房とかつけていいですから」




二階にあがってから自分の部屋の前で俺はやや寝ぼけまなこで結衣にそう説明します。

すると結衣はなんだか驚いたような、呆気にとられたような、不思議な表情を浮かべました。




「? どうしました?」




そう聞くと結衣は慌てた様子で自分の体のまえで両手を小さく振ります。




「う、ううん! なんでもない! 明日も早いから夜更かししちゃダメだよ? おやすみなさい」




結衣はそれだけ言うと姉貴の部屋へと行ってしまわれました。

まぁ名残惜しくないかと言えばそんな訳ありません。ワンチャンですね、エッチなイベントがあるもんかと思ったんですが特に何もなく。

ひたすら心臓に負荷をかけて自分を殴って筋トレしてお笑いして今日が終わると……。

いや、深く考えたら泣きそうになるからやめよう。




いやいやいやいや、初期のことを考えれば凄い進歩ですよ。

頑張ってるよ、祐亜くんは頑張ってる!

時間はまだまだあるんだから、じっくりゆっくりとがんばりましょー。




部屋の電気を消して、ベッドにもぐりこむと一気に睡魔が襲ってきました。そしてなんだかんだで楽しかった今日という日を軽く振り返ります。

今日も楽しかったなー明日はもっと楽しいよ……ね……ハム……日本ハム太郎……。




そっと眠りの微睡に落ちて行く中、部屋の扉が開いたような気がしたのですが特に気に留めることもなく俺は夢の中に旅立っていってしまったのでございました。

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