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意外に一回抜いてしまえば今までの俺の興奮って一体なんだったんだろうってなりますけどね

「あー!! 超かっこいい執事の祐亜くんじゃないっすか!!」




「はぁー、どうも」




あんまり話したことのない他クラスの男子にちょっかいかけられたり。




「あの徳永先輩!! え、えっと……執事喫茶絶対行きます!!」




「ええっとー……よろしくね」




「「「「「「キャー!!」」」」」」




知らない後輩の女の子たちに声をかけられてみたり。




「徳永先輩、私と子供作ってください! キャー!!」




「ば!? 葵こんなとこでやめ……っ!! キャー!!!!!」




知ってる幼馴染に校内でセクハラされてみたり、と実に充実していた金曜日でございました。

結衣とお笑いコンビになるだのどうだのの時死ぬほど注目されて、その時も命の危機を感じるほどにすごい絡まれましたが、今回も例の動画の件ですごく絡まれます。

しかしながら今回は冷やかしと女の子からのキャーキャーがフィフティーフィフティーなので、実質俺の勝ちです。




でも、はっきり言ってしまえばどうでもいい。

今日の俺に起きたこと全部どうでもいい。

なんなら俺が産声をあげて祐亜という名前をつけられ生きてきてから、今までの思い出が全て霞んでしまうぐらいに今日の俺はある一つの関心ごとに身も心も囚われているのです。




そう今日はついに結衣が泊まりに来る日……。




あの学年の、いや学園の、いやこの街の、いやこの国の、いやいやこの地球の、いやいやいやいやこの銀河系のアイドルの……っっっ!!!! 神村結衣さんが俺の部屋に泊まりにくるんです!!



なんて日だ……




なんて日だぁああああああああああ!!!!!!!!!!!!!




ワッツァデェエエエエエエエエエエエエエエエエイ!!!!!!!!!!!!!!!!




ワッツァファイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!




気が気じゃないです、楽しみで不安でムラムラで俺の色んな感情がゴーヤチャンプルーなのです。もう自分の感情がなんだか分からないのです。モラトリアムなんです。

とは言え本日我が家には姉貴と母親もおりますので間違いが起こることはないとは思うのですが……いや、ないことはないんじゃないんですかね? いや、全ての可能性に0であるなんて誰が言えるのか?




そういえば明日はお笑いライブのブロック大会、ここを突破すれば決勝という大一番なのでそっちの緊張も多少はあるんですが。

あぁ、それよりも俺は恋の行方が、恋の結末が気になっちゃうのんですのん!!




クラスの文化祭の準備を丁重に断って、話しかけてくる女の子たちとちゃかしてくる男子たちを苦笑いでごまかし、一緒に帰ろうとする葵を裏口から帰ることでまき、俺はまるで月面をスキップするかのような軽い足取りで帰路につきます。



あぁ、結衣に出会えた奇跡がこの胸に溢れています。恐らく今なら自由に空を飛べるかも知れません。




夕暮れの帰り道、かなり寒くなってきてだんだんと冬が近づいてきたなーと思います。思えば結衣と出会ってから結構な時間が経って、色んなことがあったように思います。ガラケーだったのがアイポンのXがでるくらいには……ちょっと何言ってるかわかんない。




それにしても結衣から、あの結衣からお泊りと言いだしてくるなんてもうこれは……。




いや、まだ気は早いです。もうここまで来たらひたすらじっくり攻略してみせます! 時間はまだありますし、少なくとも嫌われてはいないでしょう。

そしていつか絶対結衣と……むふふと。




そのために今日という一日を!! がっつかず、がっつかなさすぎることもなく頑張るぞーおー!! と決意したあたりでちょうど犬の糞を勢い良く踏み抜いてしまいました。

なんだか急激に不安になってきました……。










「今日母ちゃん帰ってこれなくなったってさ」



家に帰ってくると、リビングのソファーでごろごろしながらTVを見てくつろいでいたジャージ姿の姉貴が開口一番そんな事を言いました。




「仕事?」




「んー? わかんね。なんか電話口だと結構慌ててた感じだったから急な仕事でも入ったんじゃね? んで、気を利かして今日は葵の家に泊まってきてやるよ」




ソファーに仰向けになって足をバタバタさせていた姉貴がこちらを見てニヤニヤしながらそんなことを言いました。なんと!!




「いや……それは……まてよ!! うーん、でもしかし……!!」




「せっかくだから上手いことやれよ。あ、そんな度胸はないと思うけど避妊だけは。な?」




え? ヒーリングがなんだって?(難聴)




好き放題言った姉貴はにやにやしながら俺の顔を見つめた後、ソファから立ち上がって自分の部屋へと戻っていってしまいました。

なんと言うことだ……姉貴と母さんがいるからなんとか理性が保っていられたのに。

最終防波堤を無くしてしまった今、俺の思春期が暴走してしまう!! いやそれはいかん!!




とにかく今はまず家の掃除を……!! あぁ夕飯も作らねば!! 冷蔵庫の中は……簡単なものはできるけどそんなのではおもてなしが出来ない買い出しに行かねば!! 結衣が来るのは19時頃……ただいまの時刻は17時過ぎ。今からぶっ飛ばしてやればなんとかできるはずです!! 祐亜がんばる!! 煩悩を飛ばす意味もかねて!




俺のもてる男子力を全部駆使して家の隅々まで綺麗にして、料理の下ごしらえをして、お風呂に入りいつもの数十倍丁寧に体を洗い、リビングのソファに正座してその時を刻一刻と待ちかまえています。

TVはありきたりなクイズ番組を垂れ流していますが全く頭に入ってきません。

姉貴はつい先刻に小さなボディバック一つで家を後にしていきました。

今この家には正真正銘俺一人、そしてこれから……。




気にしすぎではいけない、ここで野生を出してはいけない。人類が長い歴史の中で文明と理性を獲得してきたその意味を今一度わたくしは理解する必要があるのです。

それに今の結衣はきっとお笑いのことで頭がいっぱいだから、ここで変に意識をしたり一人であたふたしてたら嫌われてしまうかもしれないです。

今の俺にできる最善は結衣の夢を全力で応援すること、それだけなのです!

よし軽くラジオ体操です。腕を大きく回しましょぉおおおおおおおおう!!(全開)それから深呼吸、深呼吸。リラックス、リラッークス。




大きく息を吸い込んだそのタイミングで、家のインターホンが控えめに鳴り響きました。その瞬間心臓がハイジャンプ、今までの破れ被れのリラクゼーション紛いの行為の効果は全て水泡に帰しました。




ドキドキするなと言う方が無理があります。何故なら相手は宇宙一可愛い女の子で、俺は思春期。とどのつまり恋の奴隷。思春期のぼくたちは恋をするように作られているのだ!!

しかしされども祐亜君はどこまでも慎重であれ! 紳士であれ!! 急いては事を仕損じるのです、それに亜弥さんたちがひっついてきちゃったパターン、葵が妨害にくるパターン、このがっかりパターンも十分に考えられるのです。期待してはいけない、求めてはいけない。愛は耐え忍び勝ち取るものなのだ!! よしバキばりのイマジネーションを駆使してエア去勢しよう!! 今俺の股間はニーアのアダムとイヴのように何もついていない!! これで決まりだ!! 今俺は男でも女でもない、一人の人間徳永祐亜なんですの!! 興奮しない!! 全然興奮してこないな!!




リビングから玄関先へと向かうわずかな距離、脳内のシナプスたちがフル稼働し様々な言葉を投げかけて思惑を巡らせます。あふれ出る性的好奇心とブレスオブザワイルドを海馬が必死で押さえつけています。





でもどんなに言葉を取り繕ったってドキドキするのは仕方のないことで、嬉しいのはあたり前なのです。

玄関先で大きく深呼吸をして、お客様用のスリッパの位置を確認して、俺は扉を開きます。




扉を開けると冷たい夜風が流れこんできて、でもそ彼女を見ればそんなの感じさせないくらい俺の体温はやっぱり一気に上昇してしまう訳でして。




「こんばんわ」




グレーのダッフルコートを着て赤黒のマフラーを深く巻いた結衣が玄関先に立っていました。その手には何か紙袋が握られています。

手土産を忘れない一般常識を携えてこの世に舞い降りた天使、女神、女帝、女教皇、コスモクイーン……。

こんばんわのたったその一言で、ほぼ、イきかけました。




「は、入って、どうぞ」




不意に口をついたのは悲しいかなもう一万回は聞いたあの台詞でした。




結衣の顔は寒さのせいか真っ赤になってて、それから表情もどことなく固くて。




「お、お邪魔しますぅ……」




もしかして俺と同じように結衣もドキドキしてくれていたのなら、そんなことを考えると俺は居ても立っても居られなくて一晩で法隆寺建てられちゃうよ……。

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